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ArchesトレンドコラムVol.2 傷口を勝手に治す「自己治癒」コンクリート

その他

サマリー

  • 少子高齢化の時代を迎え、維持管理の負担を軽減すべくコンクリート構造物の長寿命化に資する新技術の研究開発・導入が喫緊の課題となっている。
  • 生物学的建築物としての新たなコンクリートは、竣工後の維持管理費用を低減するだけでなく、施工時の防水工事が一切不要となる新時代の幕開けとなることが期待されている。
  • 一方で、開発の歴史が浅く社会的信頼を得るに至っていない。また、その補修効果の定量的な検証法の確立は未だ途上にある。

詳細

「ひび割れ」をしても「自己治癒」をするコンクリート。鋼材の腐食を引き起こす劣化要因の侵入路となることで急速な性能低下を引き起こす「ひび」を勝手に自分で塞ぐ画期的なコンクリート構造物の開発が近年話題になっている。

少子高齢化の時代を迎え、人的、財政的に困難が予想される中長期的な維持管理の負担を軽減すべく、コンクリート構造物の長寿命化に資する新技術の研究開発・導入が喫緊の課題となっている。

コンクリートはセメントと水の化学反応による水和生成物で大小さまざまな岩石を結合した、圧縮に強い複合材料である。しかしながら、引っ張りには弱いため鋼材を適切に埋設して補強しているが、乾燥などに伴う収縮ひび割れやその他さまざまな原因でひび割れが発生する。これらのひび割れは、鋼材の腐食を引き起こす劣化要因の侵入路となり、急速な性能低下を引き起こす原因となるのだ。
トンネルなど地下水に触れることが多いコンクリート構造物は漏水による鋼材の劣化に悩まされてきたが、このコンクリートの「自己治癒」技術により維持管理費用が大きく低減することが期待されている。

では、どのような仕組みで「自己治癒」が起こるのか。
微生物学者ヨンカーズは、2006年にコンクリート技術者から「バクテリアを使って自己修復コンクリートを作ることはできないか」という依頼を受け、この問題に取り組み始めた。
そして3年がかりでコンクリートという極めて乾燥した過酷な環境を生き抜く、アルカリ性で増殖し、食物や酸素無しで何十年も休眠状態で生存できる胞子を作るバチルス菌を利用した実験を行った。ひび割れなどが生じると、割れ目から浸透した水と酸素で休眠していたバチルス菌が活性化して乳酸を餌に発芽・増殖し、ひび割れを埋めるためにカルシウムと炭酸イオンが結合した炭酸カルシウムを生成させる仕組みを生み出した。

この生物学的建築物としての新たなコンクリートは、竣工後の維持管理費用を低減するだけでなく、コンクリート構造物の長期的な信頼性を向上させ得る。さらには施工時の防水工事が一切不要となる新時代の幕開けとなることが期待されている。

しかし、コンクリート構造物の耐用期間は非常に長く、建設から長い期間経過後に発生するひび割れに対して十分な自己治癒効果を発揮できるのか、開発の歴史が浅いこともあって社会的信頼を得るに至っていない。また、その補修効果の定量的な検証法の確立は未だ途上にある。この新たな「自己治癒」機能は繰り返し何度も発生するひび割れを毎回確実に補修できるのか。数百年のスパンで用いられる維持管理要らずのコンクリート構造物の開発・普及にはまだ道のりが長い。

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