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ArchesトレンドコラムVol.7 近年勢いが増す「プラスチックのバイオ化」:日本、ブラジル、タイでの取り組みとは

その他

サマリー

  • 世界的に二酸化炭素排出量削減の動きが強まる中、植物糖由来のバイオエタノールからプラスチック原料を大量生産するための技術開発の勢いが増している。
  • 日本における植物由来プラスチックの出荷量は、2021年時点で約9万トンだ。一方で、ブラジルの大手化学会社ブラスケムは2022年には26万トンのバイオプラスチックの生産に成功している。タイではESGに焦点を当てた政策導入でバイオプラスチック生産を支援する方針を取っている。

詳細

世界的に二酸化炭素排出量削減の動きが強まる中、植物糖由来のバイオエタノールからプラスチック原料を大量生産するための技術開発の勢いが増している。「プラスチックのバイオ化」を目指して各国ではどのような動きが見られるのか。今回は、日本やブラジル、タイに着目する。

バイオエタノールから基礎化学品を製造する技術は開発途上にあり、日本では2027年の上市が目指されている。エタノールを高温環境下で触媒と反応させることで、プラスチック原料であるエチレン、プロピレン、トルエンが一工程で製造可能となる。この技術で製造したバイオマス原料を、リサイクルが困難な部材や接着剤に適応することで、リサイクルや回収の大幅な効率化が目指される。さらには、自動車のプラスチック、カーシート、エアバッグ、塗料など、これまで化石原料の代替が困難とされていた製品への適応も計画されているのだ。
これらのバイオ製品は従来の石油製品とほとんど同等の性能を持つため、サプライチェーンの下流工程での新規設備が不要であることも大きなポイントとなる。

日本における植物由来プラスチックの出荷量は、2021年時点で約9万トンだ。政府はプラスチックの環境負荷低減に向けたプラスチック資源循環戦略をまとめ、2030年までに年間約200万トンの植物由来プラスチックを利用する目標を掲げた。国内屈指の大手総合科学メーカーである旭化成による効率的なエタノール反応のための触媒や製造プロセス開発が大きな注目を集める。

一方で、海外の競合他社と比較すると日本企業は大きな遅れを取る。
ブラジルの大手化学会社ブラスケムは、プラスチック原料製造用のサトウキビパルプ由来エタノールを製造する技術を持ち、2010年代初めには世界初の植物のみを原料とする量産工場を稼働させている。2022年には26万トンのバイオプラスチックの生産に成功し、2026年以降には一部の生産を日本に導入することも検討しているという。

また、バイオ製品への積極的な取り組みはタイでも顕著に見られる。タイの物品税局は、バイオプラスチック生産への支援としてバイオエタノールに対する免税を図っている。免税措置はサプライチェーン全体に適用されるため、資本コストが削減され、結果的にコストパフォーマンスの良いバイオプラスチック製品が生産される。また、同局は同時に起業家がエタノールを使用できるよう法改正の準備も整えている。ESG(環境、社会、ガバナンス)に焦点を当てた政策でバイオプラスチック生産を起業家や産業界にとって有益な産業にすることで、タイ経済を良い方向へ牽引することが目指されている。

このような取り組みの反面、バイオプラスチックはその価格が石油化学製品の50~55倍となっており、その価格が普及の障壁となって未だプラスチック生産量全体の1%にも満たない。世界的なバイオプラスチックの普及のためには、その技術力向上のみならず、優先的な市場導入を進めるための制度整備が必要となってくる。

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