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Arches 業界インタビューVol.1″eスポーツ”(前編)

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ジェンダー、エイジ、エリア、ハンディキャップ。全てのボーダーを超えるのがeスポーツだ。

 近年、eスポーツは世界中で爆発的な人気を集めており、特にZ世代の若者たちの間でその人気が急速に広まっています。彼らは従来のスポーツやエンターテイメントと同様に、eスポーツを楽しむことに情熱を注いでおり、この新たな競技の世界に”革命”をもたらしています。

 eスポーツは、ゲームをプレイするだけでなく、プロフェッショナルとして競技に取り組むプレイヤーや、観客としてリーグ戦やトーナメントを楽しむ人々にとって、新たなキャリアやエンターテインメントの形態を提供しています。今回のインタビュー記事では、日本のeスポーツ発展のために活動を行う、一般社団法人日本eスポーツ連合(以下、JeSU)の理事を務める浜村弘一氏の視点からeスポーツの新たな時代について、深く掘り下げていきます。

ー初めまして。本日はお忙しいところ有難うございます。早速ですが本題に入る前に、これまでの浜村さんのキャリアをお聞かせ下さい

浜村氏:僕は、1961年に生まれ早稲田大学を出て、85年にアスキーという会社に入りまして、86年からは「ファミコン通信」というゲーム雑誌の創刊の立ち上げから、一貫してファミ通の編集長をやり、その後、アスキーから独立したエンターブレインという会社の社長をやりました。また、その会社が角川に合流するという流れの中で、角川の役員もやりました。そこで、ゲーム雑誌や業界を見ていて、eスポーツで多くの問題がありましたので、それを解決するために団体を作り、今に至っています。

ー有難うございます。最近の素晴らしいニュースで、先月に行われた東アジアユース選手権で、斎藤選手と荒井選手が、金メダルと銅メダルを獲得しました。eスポーツが正式種目として採用されて初めて開催された大会かと思いますが、大会を見ていかがでしたか?

浜村氏:日本はeスポーツの後進国と言われていたんですよね。いわゆるオンラインゲームということで言うと、アジア、韓国、中国、それから欧州、アメリカの方がオンラインゲームでは進んでいるところがありました。しかし日本は任天堂やソニーがある国なのでゲームに関してのリテラシーは高く、選手のスキルは高いんです。でも経済的に選手を支える環境がない。つまり、選手がプロとして専念をしてやっていくという環境の整備が遅れていたという意味で後進国なんです。

でも、選手のスキルはすごく高かったんですね。特に格闘ゲームと言うのは日本はお家芸なんですよ。格闘ゲームと言うのは元々オンラインのゲームではありますが、ゲームセンターで根付いたコミュニティが支えてきたんです。そういう意味で、キングオブファイター、ストリートファイター、鉄拳、といった日本のIPホルダーが作った大会、競技というのは、日本の選手が強い傾向にあったので、メダルを取ってくれるんじゃないかという期待はありました。

日本の選手を支える経済的基盤(スポンサー)は、他国に比べてまだまだ遅れている。

ー実際のスキルは今大会で証明されたということで、”日本はeスポーツ後進国”という言葉をもう少し聞きたいのですが、日本のどの点が後進国と感じられますか?

浜村氏:eスポーツの選手というと、大きな賞金が掛かる大会、最近ではGamers8、総額4500万ドル以上の賞金が掛かったサウジアラビアの大会がありました。そういった賞金付きの大会に行って、賞金を稼いで生活していると思われがちですけども、実はそんなことはないんですね。彼らプロ選手の主な収入はスポンサーがついて、それが給料として日々の生活を支え、ゲームの訓練に専念でき、そこでスキルを安定的に上げられるので、大会に出て賞金も稼げると。つまり、スポンサー収入が給与で、賞金は、ボーナスに近いものがあるんですね。あと他の収入でいうと、プロとして賞金を稼いで人気が出てくるとストリーマー(※ゲーム配信で生計を立てている人)として広告収入が入ってくるという、そういった循環があるんです。

その選手を支える経済的基盤であるスポンサーをしっかり付けてチームを回していくところが日本は遅れていたんですね。他の国だと、しっかりスポンサーがついて、いわゆるリアルなフィジカルスポーツと同じようにそれを支えるものがあって、団体として回り、リーグ戦に参加し、そこでまた収入を得るという循環ができていますが、その最初のスポンサー収入が出来ていなかったというのが大きな所で、この点に関して他の国と比べまだまだ遅れていると思います。

ーそのような日本の状況で、eスポーツがさらに発展していくために、どのような施策、アプローチが必要でしょうか?

浜村氏:日本ではリーグ戦をやるにしても法的な規制があったんですね。例えば、賭博に関して日本は世界で一番厳しい国というところもあって、ユーザーからお金を集めて、大会を開こうとしたら、それは賭博になるのではないかと言われます。例えば、みんなが集まってお金を集めて賞金にしようと思い1000円、2000円集めてそれを胴元が勝った人に挙げようとするとそれは賭博罪になる。次に、お店側が場所を貸すから、みんな場所代で1000円ずつ払ってよとお金を集めて、そこで賞金を出すことがあると、今度それはゲームでお金を稼いでいると見なされ、風適法に当たると言われます。

さらに、IPホルダーがお金を出そうとなると、賞金で釣って物を買わせようとしているいうことで、景品表示法にあたるということになる。どんなことをしても賞金を払うことができない国になっています。だから、賞金を払って盛り上げて大会を開くというのは、一番大きなポイントになってくるんですよ。活躍の場を見せることが出来なかった日本のプロの選手達は、結果的に自分で渡航費を払って、海外の大会に参加し、自分のリスクで大会に出て賞金を稼ぎに行っていて、負ければ無収入なので、アマチュアで旅行がてら行くという事しかできない。それが一番厳しかったことですね。

一番整理しなければいけなかったのは、賞金付きの大会、リーグ戦ができるようにしてあげること。そこで選手の活躍の場を作ってあげることが出来れば、選手をサポートするという会社がお金を出すだろうという循環が生まれるだろうと。そういう風に考えて動いています。

(提供:JeSU)

コロナ渦で動画視聴者のニーズに応え、ファンは倍増!!

ー現状どこまで改善されたと言えますか?

浜村氏:2018年にJeSUが出来て、そこから2年ほど掛けて大会が行われました。僕らは法的整理を解決し、結果的に賞金付大会や目立つ場所を作り上げていたんですね。大手のところで、DetonatioN Gaming、SCARZ、Crazy Raccoonなどの大きなゲームのチームは、ある程度スポンサーが付いて、大会ができるという環境になったんですけども、コロナが発生してしまいました。コロナ渦では、ライブでスポーツができず、観客が声をあげて応援することが出来なかった。eスポーツというのは動画サイトで大きくなってきたものではあるんですけども、やっぱりリアルな大会で応援するということで、選手が(観客の)目に触れるんですね。リアルな大会ができない中、日本だけでなく海外も含め、世界におけるeスポーツ市場の売上で協賛金のシェアが5割を超えていたんですけど、市場規模が実は低迷した時期があったんです。ただし、19年から21年の初めくらいまで、そういった低迷があったんですが、逆に良い要素もありました。

当時、eスポーツだけでなく、F1、野球、サッカー、テニス、バスケも全くリアルな大会が出来なかった時期がありましたよね。その時に、各スポーツのスター選手が自分たちのファンに向けて何かメッセージを出してアピールをしたいといって、使ったのが実際eスポーツだったんですね。なので、FIFAもF1もそうですが、例えば、ウィザーズの八村選手が試合をやってチャリティをする。そういったことがあちこちで行われたんです。結果的に、それまでリアルのスポーツファンもeスポーツを見る機会が増えました。「twitch」というゲーム専門の動画サイトがあるんですが、そのサイトでの視聴が19年、20年と2倍になったという状況が生まれたんですね。つまり、eスポーツは、19年、20年というコロナの時期にライブイベントを開けなかったので、結果的にライブで見るファンや協賛を減らしてしまったんですけども、視聴者のニーズには応えてすごくファンを増やすことに成功した。結果、22年去年くらいから、例えば、RAGEのVALORANTの大会では1万3000人、2日間、アリーナ席9500円というのが、即日完売し、動画視聴で10万人が見る環境が生まれてきて、そうなってくるとスポンサーもeスポーツが伸びるかもしれないということで、またスポンサーが付き始めると。スポンサーが付く環境が、コロナの時期にがくっと下がってしまったけれども、去年あたりからまた復活し始めているというような状況があります。

ーメディアが選手や大会を取り上げることによって、認知される効果は高いと思いますが、現状、メディアがeスポーツをあまり大きく取り上げない理由として、どのように考えられていますか?

テレビメディアが先行投資的にやって下さっているというのは、いくつかあって、日テレ、フジ、テレ朝、テレ東。1つ言えるのは、eスポーツを支えている視聴者層というのがZ世代で、Z世代がテレビを見ない層なんですね。僕がプロ野球と比較して説明している中でよく言う説明が、野球やサッカーというものは、プロの試合をテレビで見てそこで野球もサッカーもしない、いわゆるプレーしない人たちを見るスポーツのファンにしたと。それによって大きくパイが拡がってビジネスができたということをよく説明するんですけども、eスポーツはそういった意味でいうとtwich、Youtube、それにニコニコ動画といった動画サイトで大きく拡がっていて、eスポーツを見たいと思う人は、みんな動画を見るんですね。なので、テレビではeスポーツがコンテンツとして人気が出るまでにはもう少し時間が掛かると思います。

逆に、自動車産業や飲料など、これから若い世代でのマーケットシェアを伸ばそうとしている企業がeスポーツのチームや番組のスポンサーになるという状況が増えていますね。

‐後編に続く

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