
【海外市場調査】中国のペロブスカイト太陽電池市場|主要企業の量産戦略と普及の条件とは?

はじめに
日本発の次世代技術として期待を集めるペロブスカイト太陽電池は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力らが世界で初めて報告した技術である。国内で実用化への取り組みが進む一方、海外市場では中国企業による量産・事業化の動きも見逃せない。従来の太陽電池で強固な製造基盤を築いた中国では、ペロブスカイト太陽電池の事業化も進んでおり、各社の発表では、GW級量産ラインの稼働やMW級モジュールの受注が報告されている。
蓄電池の一種であるリチウムイオン電池でも、日本は実用化・商用化を先導した。吉野彰らの研究による貢献に加え、1991年にはソニーが世界で初めて商品化したが、現在の生産は中国に大きく集中している。この経緯からも、技術を生み出すことと、量産・市場拡大で競争力を維持することは別の課題と捉える必要がある。
ペロブスカイト太陽電池でも、日本発という位置づけだけで事業の優位性が約束されるわけではない。新規参入や提携を検討する企業には、中国勢がどのような製品を、どの顧客へ、どの条件で供給しようとしているのかを見極める視点が求められる。本記事では、中国の主要メーカーの戦略と量産・普及の条件を整理し、海外市場調査で確認すべき論点を読み解く。
中国のペロブスカイト太陽電池産業を支える基盤と競争環境
ペロブスカイト太陽電池は、特定の結晶構造を持つ材料を発電層に用いる太陽電池である。薄い発電層を塗布や成膜によって形成でき、製造工程の簡素化や用途の拡大が期待される。一方、製品の形態は一様ではない。単接合型と、異なる発電層を重ねるタンデム型という構成の違いに加え、ガラス基板や柔軟な基板という違いがある。「軽くて曲がる」という特徴がすべての製品に当てはまるわけではない。
中国には、既存の太陽電池産業が築いた製造・調達網が集積している。国際エネルギー機関(IEA)も、太陽光発電の供給網が中国に集中していることを指摘している。この基盤は、新技術の製造装置や材料を調達し、導入先を探すうえで強みになり得る。ただし、既存の設備をそのまま転用できるとは限らず、製品方式ごとの工程開発が必要である。
同時に、成熟したシリコン太陽電池は強力な競争相手でもある。IEAの2025年報告は、中国の太陽光発電業界における供給過剰と価格下落を指摘した。ここから考えられるのは、既存産業の強さが新技術の事業化を支える一方、顧客に示すべき経済的な優位性の水準も高めるという構図である。
中国の主要メーカーに見る、異なる事業化戦略
極電光能・協鑫光電・Microquanta:製造と導入実績の蓄積
中国では、ペロブスカイト太陽電池の量産体制の整備とともに、商用受注や発電所への導入が進んでいる。極電光能(UtmoLight)は、2025年の会社資料でGW級量産ラインの稼働を示し、大面積モジュールの製造を進めている。こうした製造面の動きに加え、協鑫光電(GCL Optoelectronics)は、2026年8月の発表で、同年に複数のMW級モジュール受注を獲得したと説明している。また、纤纳光电(Microquanta)は、屋根設置型や地上設置型、ペロブスカイトとシリコンのタンデム型の発電所の系統接続実績を紹介しており、実際の設置環境で性能を検証する機会も生まれている。
これらの動きからは、製造設備の整備にとどまらず、顧客への供給や運転実績の蓄積へと事業化が広がる様子がうかがえる。ただし、その進展を評価するには、設備規模、受注、導入実績をそれぞれ異なる指標として捉える必要がある。製造ラインが稼働していても、品質や納期を安定して維持できるかは別途確認が必要であり、受注の発表だけでは出荷完了や採算確保までは判断できない。発電所の導入実績についても、設置環境や運転期間、測定条件を確かめることが重要だ。企業の競争力を見極めるには、こうした実績が安定供給や顧客の追加発注にどう結びついているかまで調べる必要がある。
LONGi・Renshine Solar:タンデム技術の高効率
隆基緑能(LONGi)は、結晶シリコンとペロブスカイトを組み合わせたタンデムセル・モジュールの高効率化を進めている。一方、仁烁光能(Renshine Solar)は、発電層をいずれもペロブスカイトで構成するタンデム技術の研究開発を進め、2026年9月にはモジュールの認証効率を発表した。
両社の動きは、タンデム型のなかにも異なる技術経路があることを示している。高効率化によって設置面積当たりの発電量を増やせる可能性はあるが、追加工程や品質管理に伴う費用も含めた評価が必要だ。研究成果、現在供給する製品、今後の量産計画を区別しなければ、提携先の選定を誤りかねない。
量産能力を安定供給と収益につなげる条件
ペロブスカイト太陽電池の製造では、小面積で得られた性能を大面積で再現することが課題となる。米国エネルギー省も、大規模な製造環境で均一な材料層を形成する難しさを指摘している。一部の高性能品を作れることと、良品を連続して作れることには隔たりがある。
この違いは製造原価に直結する。材料費が低くても、不良や再加工が多ければ良品当たりの費用は上がる。逆に、多少高価な材料や検査装置でも、不良率の低下や稼働の安定に寄与すれば採用する理由になる。材料・装置メーカーにとっては、単価よりも工程全体への効果を示すことが重要である。
企業の量産実態を調べる際は、少なくとも次の三点を分けて確認する必要がある。
- 設備能力と供給実績の関係:公表された能力に対し、実際にどれだけ生産・出荷できているか。
- 品質の再現性:特定の試作品だけでなく、製造時期やロットが変わっても性能を維持できるか。
- 需要の継続性:試験導入の後に追加発注があり、販売が繰り返されているか。
さらに、顧客の評価期間と設備投資の時期が合っているかも重要だ。工場が完成しても、採用評価が長引けば設備の稼働率を高めにくくなる。資金調達によって建設を進められることと、販売によって事業を維持できることは別の課題である。
したがって、生産能力の拡大をそのまま需要拡大と読むのは適切ではない。公開情報から出荷量や採算を確認できない場合は、その不確実性を残したうえで、顧客や取引先への調査によって実態を補うべきである。
普及を左右する顧客の採用条件と導入後の負担
発電所・屋根・建材では、評価する価値が異なる
地上設置型の発電所では、長期の発電量や維持管理費、事業としての信頼性が重要になる。工場や倉庫の屋根では、それらに加え、荷重、施工方法、建物の使用を続けながら保守できるかを検討する必要がある。製品がガラス型かフィルム型かによっても、適合する場所は変わる。
建材一体型太陽光発電(BIPV)では、発電性能とともに外観、透光性、建材としての性能が評価対象となる。パネル価格だけではなく、置き換える建材の費用や設計・施工への影響を含めて比較する必要がある。ただし、既存建材より必ず安くなるわけではなく、建物ごとの検証が前提だ。
この違いは営業先にも影響する。発電事業者への提案に加え、用途によっては建物所有者、設計者、施工会社との調整が必要になる。市場調査では、需要の大きさだけでなく、仕様を決める人と購入を決める人が誰なのかを特定することが重要である。
認証・保証・実際の稼働実績を分けて評価する
耐久性の判断では、認証取得と長期使用の実績を混同してはならない。太陽電池モジュールの設計適格性を扱うIEC 61215-1:2021も、試験結果は寿命の定量的な予測ではないと明記している。

屋外の運転データも、比較条件の確認が欠かせない。発電量が多かったとしても、日射量や設置方位、設備容量が異なれば、製品の優位性によるものとは判断できない。実証結果を事業計画に用いるには、同じ条件での比較や季節変動の検討が必要である。導入事例の存在と、その結果を別の現場でも再現できることを分けて評価すべきだ。
そのため、保証年数とともに、故障時の交換費用、工事費、停止中の損失を誰が負担するかを確認する必要がある。長期保証を提示していても、保証範囲や対応体制が不十分であれば、購入者の不安は残る。建物の外壁に組み込む場合には、交換の手間が採算を左右する可能性もある。
ここから導かれるのは、普及の条件には製品性能に加え、導入後の不確実性を減らす仕組みが含まれるということだ。メーカーの競争力を評価する際は、施工・保守の協力先や情報開示の姿勢まで確認すべきである。
日本企業の参入余地を探る海外市場調査の視点
日本企業にとっては、モジュール製造への参入に加え、量産や採用の障壁を解消する事業機会が考えられる。候補となるのは、封止・バリア材料、成膜・検査装置、信頼性評価、保守支援などである。ただし、これらは現地需要の確認を要する仮説であり、日本製という理由だけで採用されるものではない。
例えば、高性能な封止材料を提案するなら、顧客が困っているのは耐久性なのか、加工の難しさなのか、材料費なのかを見極める必要がある。耐久性を改善できても、製造速度を落としたり、既存設備の大幅な変更を求めたりする場合は、採用の障壁になり得る。
有効なのは、メーカーの技術・調達部門だけでなく、装置会社、施工会社、導入企業への聞き取りを組み合わせることである。製造側が重視する課題と、購入者が採用をためらう理由が一致しているとは限らない。双方を調べることで、自社の技術が実際の受注に結びつく条件を明確にできる。
競合調査でも、性能と価格に加え、顧客の評価手順、採用までの期間、現地対応力を確認したい。中国で得られた事業モデルを別の海外市場へ展開する際も、建物条件や販売経路の違いを改めて検証する必要がある。
まとめ:ペロブスカイト太陽電池の海外市場は、製造と顧客の両面から捉える
中国のペロブスカイト太陽電池産業では、製造ラインの整備、導入実績の蓄積、高効率化の開発が並行している。事業機会を見極めるには、技術記録や設備規模に加え、品質の再現性、継続受注、導入後の負担まで確認する必要がある。
ペロブスカイト太陽電池の海外市場調査で重要なのは、市場の成長性を把握し、自社が解決できる現地の課題を特定することである。メーカー、顧客、競合、提携先の実態を横断的に調べることが、参入領域と事業パートナーを選ぶための確かな判断材料となる。
情報参照先:
- 極電光能(UtmoLight)|钙钛矿产业化全球引领者(会社紹介資料)|(アクセス日:2026年10月14日)
- 協鑫集団(GCL)|协鑫光电D1轮超亿元融资收官|(アクセス日:2026年10月14日)
- 米国エネルギー省(DOE)|Perovskite Solar Cells| (アクセス日:2026年10月14日)
- 米国エネルギー省(DOE)|Perovskite Research Directions| (アクセス日:2026年10月14日)
- 国際エネルギー機関(IEA)|Solar PV Global Supply Chains| (アクセス日:2026年10月14日)
- 国際エネルギー機関(IEA)|Renewables 2025 — Executive summary|(アクセス日:2026年10月14日)
- Microquanta|MICROQUANTA(公式サイト・企業紹介)|(アクセス日:2026年10月14日)
- LONGi|35.5%! LONGi Once Again Breaks World Record for Crystalline Silicon-Perovskite Tandem Solar Cell Efficiency|(アクセス日:2026年10月14日)
- 仁烁光能(Renshine Solar)|26.4%!仁烁光能再创大面积全钙钛矿叠层组件世界纪录|(アクセス日:2026年10月14日)
- 国際電気標準会議(IEC)|IEC 61215-1:2021| (アクセス日:2026年10月14日)
