ベトナム発EVメーカー「VinFast」の挑戦:グローバル市場への躍進と課題
はじめに
EV車といえばテスラ、というイメージが定着しているように、長らくテスラがEV市場を牽引してきたが、近年では、アメリカだけでなく、中国からも新たなEV車が続々と登場している。そうした中、ベトナム発のEVメーカー「VinFast(ビンファスト)」が米ナスダックに上場し、注目を集めている。時価総額は一時、テスラ、トヨタに次ぐ世界3位にまで上昇し、その後急落したものの、依然としてGMやホンダなどを上回っており、市場の関心を集めているのである。
VinFast(ビンファスト)は、今後の東南アジア市場、そして世界のEV市場を牽引する存在となる可能性を秘めている。本稿では、これまでの経緯に触れながら、VinFast社の事業展開と、その課題について解説する。
ベトナム発のEVメーカー「VinFast(ビンファスト)」とは
VinFast(ビンファスト)は、ベトナムの最大財閥ビングループが自動車産業に参入するため、グループの現会長であるファム・ニャット・ブオン氏が2017年に設立した自動車メーカーである。ちなみに、ブオン氏はフォーブスの世界富豪ランキングに10年連続でランキング入りするベトナム一の富豪である。本拠地はベトナム北部のハイフォン市に構えている。2019年に工場の稼働を開始し、当初はガソリン車を製造していたが、2021年にビンファスト社初のEV「VF e34」を発売し、2022年にはEVの専業メーカーへとシフトしたのである。
ビングループの資金力により、イタリアの名門ピニンファリーナのデザインを取り入れ、BMWの技術を購入し、シーメンス、マイクロソフト、ボッシュ、クアルコムらとも積極的に提携、さらには優秀な外国人技術者らを引き抜くなどして、欧米の大手メーカーの知見を取り込み成長してきたことは、業界では有名な話である。CEOのレ・ティ・トゥ・トゥイ氏はベトナムのビンディン省で生まれ、ハノイ貿易大学、国際大学、ハーバード大学ケネディスクールを経て、現在は親会社のビングループの副会長も務める著名な女性経営者である。生産工程の9割を自動化した世界トップクラスの製造拠点を保有しているなど、話題性に事欠かない。
2023年8月には、アメリカのNASDAQに上場を果たし、取引初日に株価が255%も上昇、時価総額が約850億ドル(約12兆3700億円)に達したことで一躍有名になり、市場から高い期待を寄せられたのである。
海外展開の加速
VinFast社は、2020年に入り、海外展開を加速。3月にはアメリカ工場の建設を発表し、6月にはドイツ、フランスなど欧州主要国に販売拠点を開設した。11月には、ベトナムの自動車メーカーとして初めて、SUVタイプの電気自動車「VF8」をアメリカへ輸出したのである。2025年までに年間50万台の生産を計画しており、これは既に世界で確固たる地位を築いているマツダの2022年の世界生産台数約110万台の約半分に相当する、非常に野心的な目標である。
2022年、アメリカ本社であるビンファストグローバルをロサンゼルスに設立した。同年3月には、ノースカロライナ州に電気自動車とバッテリーの工場を建設する覚書を締結。最大20億ドルを投じ、2024年中の竣工を予定している。バイデン大統領もX(旧Twitter)でビンファストの工場建設に触れ、「7000人の雇用が創出される」と述べており、アメリカ国内でも大きな関心を集めている。
独自の販売戦略:バッテリーサブスクリプション方式
VinFast社は、他社にはない、車体とバッテリーを別々に販売する独自の戦略を採用している。EV車は高価なバッテリーを購入する必要があることがデメリットだが、VinFast社はバッテリーのリース料を毎月支払うサブスクリプション方式を採用することで、EV車の価格を抑えている。車両とバッテリーをセットで購入することも可能だが、バッテリーのサブスクリプションを選択すれば、初期費用を3割近く削減できる。
バッテリーのサブスクリプション料は走行距離に応じて異なり、1か月の走行距離が500km以下の場合、VF8モデルは35ドル、VF9モデルは44ドルとなる。走行距離の制限がない定額プランも用意されている。バッテリー容量が70%を下回った場合は無料で交換が可能で、バッテリーのメンテナンスや交換費用がかからないことも大きなメリットである。この独自の販売方法は、中国EV業界で激化する価格競争とは異なるアプローチでEVの低価格化を実現しており、他社との差別化を図るVinFast社の戦略は、今のところ成功していると言えるだろう。
今後の課題
VinFast社の今後の課題として、以下の点が挙げられる。
Xanh SM社への販売依存からの脱却
2023年には、販売台数の70%以上(25,000台程度)が、ブオン氏が創設したタクシー会社Xanh SM社への販売であった。Xanh SM社への販売なくして売上が立っていないことが明瞭である。タクシー事業自体が競争の激化から利益の出づらいビジネスとなっており、初期投資的な面が非常に強い販売であるため、一般消費者向けの販売促進策を強化する必要があるだろう。
米国事業の立て直し
アメリカ有数の展示会であるCESでの発表会やショールームの展開など初期投資を行ってきたものの、北米地域で販売された台数は1,000台未満に留まっている。今後、いかに消費者を惹きつけ、購買意欲を掻き立てるか、バッテリーのサブスクリプション方式以外でマーケティング戦略の工夫や独自性の打ち出しが求められている。例えば、トヨタが日本のトヨタから世界のトヨタになった背景には、国産車の燃費の良さと高い信頼性・実用性が世界に認められたからである。
しかし、急速な成長・事業拡大の裏で、赤字経営が続いていることも事実である。2024年7月に発表された第2四半期の純損失は、前年同期の5億2580万ドル(約815億円)から7億7200万ドル(約1190億円)に拡大しており、依然として収益化には至っていない。こうした状況にもかかわらず、北米や欧州での事業拡大に加え、中東、インドネシア、インド、フィリピンなど、新たな市場への参入も進めている。
この大胆な事業展開は、これまでビングループが様々な業界で成功を収めてきたことが背景にあると考えられる。母体であるビングループは、これまで不動産やリゾート開発を中心に、教育事業や自動車産業、さらには農業やヘルスケア事業や小売業といった多角的な事業を展開してきた。現会長のブオン氏は、1993年にウクライナでインスタントラーメンの製造と販売を手掛ける食品会社を立ち上げて財を成し、2000年にベトナムに凱旋したという経緯を持つ。この事業の動きがハイリスク・ハイリターンとして着地するのか、大規模な事業失敗となるのか、今後の動向に目が離せない。
情報参照先:
- SBbit|イオンの「次世代型商業施設」に注目!| (アクセス日: 2024年11月22日)
- Forbes JAPAN|小売の未来を占う、イオンモールが仕掛ける「次世代型商業施設」|(アクセス日: 2024年11月22日)
- スマートモビリティ|イオンの次世代型商業施設| (アクセス日: 2024年11月22日)
- XTECH|イオンのデジタル戦略| (アクセス日: 2024年11月22日)
- Merkmal Biz|OMOで進化するイオンの次世代型店舗| (アクセス日: 2024年11月22日)
- Viet-Jo|イオンの次世代型商業施設とは?| (アクセス日: 2024年11月22日)