【ゴム手袋市場分析】驚異のシェア率!世界トップはマレーシア企業 — 海外進出・新規事業成功のヒント

はじめに
産業分野、医療分野などで幅広く使用されているゴム手袋。ゴム手袋は、天然ゴム、合成ゴム、繊維手袋にゴムコーティングを施した手袋のことを指し、特にコロナ禍においては医療機関で患者や医療従事者へのウイルス感染を防ぐため、需要が数年間急増傾向にあった。米国国立医学図書館によると、患者数、技術の進化、医療情報の普及により、ゴム手袋の需要は今後10年間でさらに増加、患者が最終消費者になると予想されており、今後の市場動向が明るいと言えよう。今回は、ゴム手袋市場の現在、トッププレイヤーを紹介しつつ、ゴム手袋市場での事業成功のカギについて解説する。
ゴム手袋市場の現況
ゴム手袋というと、1つあたりの単価が安価で市場規模が小さいと思われがちであろうがそんなことはない。2024年は約200億円の市場規模を誇り、年間約2,000億枚以上を売り上げ、その規模はフェアトレードや子ども服の市場に匹敵する。

主要市場は北米と欧州であり、どちらも10%前後のCAGRとの予測が立っていることから、今後も成長軌道にある市場とみなされている。
双方の地域で総人口、衛生意識、高齢者人口の増加により、外科手術が増加し、ゴム手袋の需要が高まっていることが影響している。また、2018 年の米国労働統計局によると、機械産業および鉄鋼産業の作業現場では、労働者は手袋とPPEを着用する必要があり、イギリス、ドイツ、フランスなどのヨーロッパの多くの国では、機械、化学、鉄鋼産業での使用にゴム手袋が義務付けられていることから、ゴム手袋の普及に一役買っていると言えよう。今後も継続して、病院および医療サービス、衛生製品、機械製品、研究室の需要の増加により市場拡大の一途をたどると期待されている。
一方で、Straits Researchの2023年の市場レポートでは、ゴム手袋業界は最も組織化が進んでいない市場の一つであり、多くのローカル企業が基準を遵守していないことが常態化していると指摘されている。ローカル企業の卸先はローカルに事業を展開する小規模企業が主であり、規格外の製品を販売している。
こういった小規模企業は価格が調達の最優先事項であり、安全基準や製造工程を無視して購入することもしばしば。しかし、2021年にはマレーシアの大手ゴム手袋メーカーであるスーパーマックス社やスマートグローブ社で強制労働の疑いがあるとしてアメリカの税関・国境取締局(CBP)が輸入差し止め対応を即日有効化するなど、昨今の人権、労働者の安全やセキュリティに対する意識の高まりから、政府による規制・監視の強化や業界全体の規格・基準構築の動きが加速しており、事業環境が急速に変化していることも特徴的である。
世界最大のゴム手袋メーカー「トップグローブ」とは
トップグローブは、マレーシアを拠点する世界最大のゴム手袋メーカーである。市場需要の25%に対し単独で供給している企業であり、ゴムの木が豊富で、世界第3位のゴム生産国(世界のゴム手袋の63%を供給)であるマレーシアという地の利を存分に活かしている。
トップグローブの特徴は、組織力の強化が事業拡大の要と捉え、複数に上場している点である。2001年にはマレーシアへ、2016年にはシンガポールへ、2021年には香港へ上場している。マレーシア市場が小さいため、企業は成長のため海外上場に乗り出さなければならないケースはまま見受けられるとはいえ、3カ所に上場するという複雑な状況にうまく対応できる企業は極めれ稀である。
上場することで、社会的信用の獲得やエンプロイヤーブランドの醸成といったメリットもある一方、上場準備や事務コスト負担増、買収リスク増といった組織的に留意するべき点が多く、手間がかかる。そのため、中小企業が乱立するゴム手袋業界の中で、上場、しかも複数実施したことで、トップグローブ社は世界的に信用に足る企業として認知されている印象だ。実際に、トップグローブ社は社会的信用を得られたことで資金調達がより容易になり事業拡大を可能にした。
トップグローブ社の四半期報告書によると2001年にマレーシアで上場し、18の工場と322の生産ラインを運営し、年間280億枚のゴム手袋を生産する能力であったが、2016年にシンガポールへ上場すると、26の工場と500の生産ラインに拡大し、年間最大480億枚の手袋を生産できるようになった。それに合わせて、トップグローブ社の顧客は上場前は850社前後であったが、上場後の2016年には2,000社以上に拡大も実現している。
今後の事業拡大のカギ
トップグローブを見ると、ゴム手袋業界のように中小企業が多く、業界構造が未だ確立されていない領域では、社会的信用の獲得が競合他社との差別化要因として有効に機能することがわかる。上場することが社会的信用を獲得する手段としての1つとしてあるが、それだけではない。他にもアプローチは複数存在するが、昨今のゴム手袋業界では社会的信用獲得の観点で重要なトピックが2つある。1つは自然環境への配慮、そしてもう1つは安全な労働環境の確保である。
事業資源の長期的な供給体制の確保
需要が増加の一途をたどる一方で、それに付随して環境問題への対応も求められている。例えば、ゴム農園の栽培地の増大に伴い、森林の消失が進行している。

世界自然保護基金(WWF)によると、天然ゴム生産量世界第1位のタイでは、2001年から2014年にかけてゴム農園が160万ヘクタール拡大したが同時に同程度の120万ヘクタールの森林が消失したことが確認された。東南アジアは、ゾウやトラなどの絶滅の危機にある希少な野生生物が多く生息し、新種の野生生物が現在でも見つかる可能性のある地域とあって、このままのペースで事業推進しても、世界中から規制強化、取引中止、キャンセルキャンペーンなどで事業運営が厳しくなることは必至。今後事業拡大するためには、自然と共生していく方法の確立が最優先の課題である。
土中の微生物によって分解することが可能な自然由来の天然ゴムを使用した製品が、住友ゴムや三興化学などが発売する自然素材由来の製品への切り替えも1つのソリューションである。
他には、2016年にWWFフランスと世界的なタイヤメーカーのミシュラン社により、環境に優しい天然ゴムを生産するJVを設立し、 さらにミシュランは、 WWFと協力して関連地域の動植物の保護・回復プロジェクトを実施、それにより88,000ヘクタールの自然の回復を実現。このように、企業間連携や業界プラットフォームを構築し、持続可能なゴム農園をはじめとする事業環境の構築も今後の対策の参考になるだろう。
製造・労働環境の適正化
前述で挙げたアメリカ税関・国境取締局(CBP)が2021年にやスーパーマックス、スマートグローブの製品を強制労働疑惑により輸入差し止めにした事例だが、輸入再開に至ったのは2023年であり実に2年間取引が中止されていた。このことからわかるように、疑惑段階でも主要取引国との取引中止は非常に事業として痛手であり、企業によっては倒産になってしまってもおかしくない事態である。
2社は、出稼ぎ労働者に支払わせた採用手数料を払い戻し、社会的責任に関する独立監査を受けるなど様々な対策を行い、それをアメリカ税関・国境取締局(CBP)に証明することで取引が再開されるに至った。また、人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチはマレーシアのゴム手袋業界で働く移民労働者がしばしば長時間労働、不十分な生活環境、移動の自由などの制限といった虐待に晒されていることを報告しており、資金調達や投資家からの信頼獲得という観点では直近改善すべき項目である。 最近では、社会的信用を損なうリスクを回避するために、問題として取り沙汰される前に監査会社を入れて労働・製造環境の正しさを証明する企業も欧州中心に増えてきている。
例えば、オランダに拠点を構えるSHIELD Scientificは、2019年に主要な製造拠点においてAsia Inspection(顧客である英国のロンドン大学購買コンソーシアム「LUPC」が任命した監査会社)の監査を受け、その結果を「全体的に SMETA ETI コードに準拠」と当社HPで報告している。
また、その後責任ある調達の世界的プラットフォームであるSedexに加入。Sedexは、企業が自社ビジネスとサプライチェーンに責任ある商慣行とポリシーを導入し、責任あるサプライチェーンを構築できるようサポートする第三者的機能を持つため、SHIELD ScientificのようにSedexへの加入により労働環境改善への取組を対外的にアピールすることも有効であろう。
終わりに
ゴム手袋業界では、業界の構造化や企業の事業環境の整備が急ピッチで進んでおり、その行き着く先は社会からの信頼獲得による事業基盤の拡大だ。ゴム手袋の主要な企業が多いマレーシアでは、トップグローブ社を筆頭に様々な方法で社会的信用を得るための策を講じつつある。
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情報参照先:
- Straits Research|ゴム手袋市場| (アクセス日: 2024年12月2日)
- The Fifth Person|12 things you need to know about Top Glove Corporation|(アクセス日: 2024年12月2日)