【海外成功事例】アジア市場のカフェ・コーヒーチェーン動向:ベトナム「KATINAT」に学ぶZ世代マーケティングと世界展開のヒント

はじめに:進化するベトナムのコーヒーチェーン市場とアジア市場における位置づけ
世界第2位のコーヒー生産国であるベトナムは、独自のカフェ文化が深く根付いている国である。2023年末時点でカフェ・ティーショップは約31万7千軒に達し、市場規模は拡大を続けている。コロナ禍を経て、リモートワーク需要や若年層のライフスタイル変化により、チェーン店の役割は単なる飲食の場から多様な体験を提供する空間へと進化している。

アジア市場全体を見渡しても、ベトナムのコーヒーチェーン市場は特異な発展を遂げている。外資系チェーンが市場を席巻する他のアジア諸国とは異なり、ベトナムではローカルブランドが圧倒的な強さを誇っているのだ。本記事では、激化する市場競争の全体像を俯瞰し、近年最も勢いのある新興チェーン「KATINAT(カティナット)」の戦略を深掘りする。さらに、異なる業界や視点からの発想を取り入れた多角的な分析を通じて、日系F&B企業のベトナム進出に向けたヒントを探る。
ベトナム主要コーヒーチェーンの勢力図と戦略比較
ベトナムのコーヒーチェーン市場は、いくつかのメガチェーンが牽引している。Highlands Coffee(ハイランズコーヒー)は店舗数トップ(約860店舗)を誇り、中間層をターゲットにした圧倒的な店舗網と、バインミーなどのフードメニュー拡充による利便性追求で市場をリードしている。Phúc Long(フックロン)はお茶に強みを持つ第2位グループで、大手小売Winmartとの連携によるキオスク展開で急速に店舗網を拡大している。Trung Nguyên Legend(チュングエン・レジェンド)は伝統的なベトナムコーヒーの品質で勝負し、海外展開(中国・米国)にも積極的である。

一方で、Starbucksなどの外資系チェーンはグローバルスタンダードを提供するものの、ローカルチェーンの多様なメニューや価格競争力に押され、店舗拡大は緩やかな傾向にある。現在の競争の焦点は、単なる「コーヒーの味」だけでなく、空間デザイン、SNS映え、ローカル素材(蓮の実、塩コーヒーなど)を取り入れたメニュー開発へと移行している。

【深掘り】新興勢力「KATINAT」の躍進とブランド戦略
KATINAT(カティナット)は2016年に創業し、2021年まではホーチミン市内に10店舗程度の小規模チェーンであったが、近年急拡大し、全国90店舗ほどに成長した。2024年には「Katinat Saigon Kafe」から「Katinat Coffee & Tea House」へリブランディングを行い、全国展開を加速させている。このリブランディングは、単なる名称変更ではなく、コーヒー専門店から「都市型ライフスタイルブランド」への脱皮を意味している。

KATINATのターゲット顧客はZ世代やミレニアル世代であり、「Katies」と呼ばれるファンコミュニティを形成している。彼らの最大の強みは、旧サイゴン時代の「Catinat」という名称に由来する「サイゴンの物語」を背景に持ちつつ、それを現代的に再解釈している点にある。SNSでのシェアを前提とした空間作りが特徴で、主要な交差点や視認性の高い角地の一等地に大型店舗を出店する「ランドマーク戦略」を採用している。店舗ごとに異なるコンセプト(モダンレトロ、ヨーロピアン、キャンプスタイルなど)を採用し、顧客に独自の「体験」を提供している。
メニュー構成も非常に戦略的である。コーヒー専門店に見えて、実はミルクティーやフルーツティーなどの存在感が大きく、間口が広い。看板メニューである「ソルトコーヒー(塩クリームコーヒー)」や、新鮮な桃の果肉がたっぷり入った「ピーチティー」など、コーヒー派にも茶系ドリンク派にも対応できる設計となっている。価格帯は45,000〜70,000ドン(約270〜420円)と中間からやや高めに設定されており、スターバックスより手頃でありながら、ローカルの路上カフェよりワンランク上の付加価値を提供している。
多角的な視点から読み解くKATINATの成功要因
KATINATの成功は、単なるカフェ業態の枠を超えた発想の転換にある。彼らは「コーヒーを売る」のではなく、「SNSで共有したくなる空間と時間」を売っているのである。これは、アパレル業界が「服」ではなく「ライフスタイル」を提案する手法や、テーマパークが「アトラクション」ではなく「非日常体験」を提供する手法と共通している。
また、彼らの出店戦略は、不動産業界における「ランドマーク開発」の視点を取り入れていると言える。交差点の角地という視認性の高い立地を確保し、夜間には華やかな照明で建物をライトアップすることで、店舗自体を街のランドマークとして機能させている。これにより、莫大な広告費をかけずとも、圧倒的なブランド認知を獲得しているのである。
さらに、メニュー開発においては、ファッション業界の「シーズナルコレクション」のようなアプローチが見られる。季節ごとの限定メニューや、トレンドを取り入れた斬新なドリンクを次々と投入することで、顧客に常に新しい驚きを提供し、リピート来店を促している。
日本企業への示唆・参入機会
ベトナムF&B市場におけるフランチャイズ展開は拡大傾向にあるが、日系企業のプレゼンスはまだ限定的である。牛角やしゃぶしゃぶ温野菜、丸亀製麺などの進出事例はあるものの、カフェ業態での成功例は多くない。
KATINATの成功から学べる参入のヒントは、「空間」と「体験」の価値提供にある。ベトナムの消費者はカフェを「仕事場」「交流の場」「撮影スタジオ」として利用するため、単なる飲食提供を超えた空間デザインが必須である。また、グローバルな品質を保ちつつ、現地のトレンド(フルーツティー、塩コーヒーなど)を素早く取り入れる柔軟なメニュー開発も重要である。

中間層の拡大に伴い、高品質なサービスや独自性に対する支払い意欲が高まっている。日本の「おもてなし」や「高品質な素材(抹茶など)」は強力な武器になる。特に抹茶は、ベトナムの若者の間で「健康に良い」「トレンディ」というイメージが定着しつつあり、大きなポテンシャルを秘めている。具体的な参入アプローチとしては、ローカルパートナーとの合弁やフランチャイズ展開による一等地確保、そして日本の強み(抹茶、スイーツ、高品質なベーカリー)を軸にした既存ローカルチェーンとの差別化戦略が考えられる。
さらに、異業種からの視点を取り入れることも有効である。例えば、日本のサブカルチャー(アニメ、漫画)と融合した「エンタメ系カフェ」というアプローチなど、従来のカフェの枠にとらわれない発想が、新たな市場を切り拓く鍵となるだろう。
終わりに
ベトナムのコーヒーチェーン市場は、Highlandsのようなマス向け展開と、KATINATのような体験特化型ブランドが熾烈なシェア争いを繰り広げている。この市場に参入し成功するためには、現地のカフェ文化を深く理解し、Z世代を中心とした消費者の「体験価値」を最大化する戦略が求められる。KATINATの事例は、独自のブランドストーリーと空間デザインがいかに強力な競争優位性を生み出すかを示している。
情報参照先:
- ベトナムウォッチャー|ベトナムのコーヒーチェーン間で繰り広げられる市場シェアをめぐっての熾烈な戦い|(アクセス日:2026年4月29日 )
- InCorp Vietnam|Vietnam Coffee Market in 2025: Record Production and Export Momentum|(アクセス日:2026年4月29日 )
- Brandcoat|Katinat Coffee & Tea House rebranding|(アクセス日:2026年4月29日 )
- 月曜日のバインミー|【2026年版】ベトナム主要カフェチェーン10選!|(アクセス日:2026年4月29日 )
- B&Company|ベトナムのコーヒーショップ市場2025:チェーン展開、現地ブランド、変化する消費者習慣|(アクセス日:2026年4月29日 )
- Go! Da Nang Trip|KATINATはなぜ人気?ベトナムで支持される理由とPhê Laとの関係をわかりやすく解説|(アクセス日:2026年4月29日 )
- ベトナムコーヒー専門サイト|ホーチミンで話題のカフェKatinatを徹底解説|(アクセス日:2026年4月29日 )
- 株式会社Mirai Digital|【2026年最新版】ベトナム進出の日系飲食チェーン店10社と直近の動向|(アクセス日:2026年4月29日 )


