【最新調査】中国自動運転センサー市場動向を徹底解説!LiDAR・ミリ波レーダー技術と日系企業のビジネスチャンス

はじめに
中国の自動運転市場は急速な発展を遂げており、その「目」となるセンサー技術の進歩が注目されている。特にLiDAR(ライダー)とミリ波レーダーは、自動運転車の環境認識に不可欠なセンサーとして、中国メーカー各社が競って開発・導入を進めている技術である。2025年6月時点の最新情報をもとに、中国におけるセンサー技術の動向を概観するとともに、日系企業にとってのビジネスチャンスを多角的に考察する。
中国センサー市場の最新動向
中国では自動運転向けセンサー市場が急拡大している。高度運転支援(ADAS)やノーバディ運転(NOA)の普及に伴い、多くの乗用車にLiDARが搭載され始めている。実際、2023年1~7月に中国でLiDARを純正採用した乗用車は約20.2万台に達し、前年同期比で523.3%増という爆発的な伸びを示した。年間では35万台を超え、2025年には60万台超に達するとの予測もある。
中国新興EVメーカーのNIO(蔚来)、Xpeng(小鹏)、Li Auto(理想)などはLiDAR搭載を積極的に推進しており、NIOのET5/ET7、Li AutoのL9/L8、XpengのP5/G9/G6といった多数のモデルでLiDARが導入された。2023年には中国市場でLiDAR搭載の新モデルが20以上登場し、2024年以降はBMWやメルセデス・ベンツ、ボルボなど海外ブランドもこの波に加わる見込みである。
一方でコスト圧力も高まっている。2023年頃から、一部の新型車ではLiDAR搭載数を削減したり、カメラ主体の方式に切り替える動きも見られる。例えばHuawei(華為)の自動運転システムADS 2.0(AITO M5搭載)では、従来3基だったLiDARを1基に減らしている。Li Autoの新型SUVでは上位版(AD Max)のみにLiDARを搭載し、普及版(AD Pro)はカメラ・レーダーのみとする仕様も採られた。業界内では「LiDARを複数搭載すべきか、それとも最小限に抑えるべきか」意見が分かれるが、長期的にはレベル3〜4の高度な自動運転実現にLiDARは不可欠なセンサーと目されている。
Hesai Technology(禾赛科技)の台頭
このような市場環境の中、中国発のLiDARメーカーが存在感を高めている。中でもHesai Technology(禾赛科技)は、急成長を遂げ世界トップクラスの地位を築いた企業である。Hesaiは2023年2月に米ナスダック市場へ上場を果たし、約1億9000万ドルの資金調達に成功したことで注目を集めた。また、2022年には乗用車向けLiDAR「AT128」の量産を開始し、すでに10以上の完成車メーカーから数百万台規模の受注を獲得している。2022年中に10万台超(AT128は6.2万台)のLiDARを出荷し、2023年上半期には86,940台(うちADAS向け73,889台)を納入するという驚異的なペースで実績を伸ばした。
直近の業績も好調である。Hesaiが発表した2025年1〜3月期(Q1)決算では、売上高が前年同期比46.3%増の5億3000万元(約110億円)に達し、GAAPベースの純損失も大幅に縮小(84%減の1750万元)して非GAAPでは黒字転換した。同四半期のLiDAR出荷台数は19万5818台と前年同期比231.3%増と猛烈な勢いで増加しており、そのうちADAS向けが14万6087台(178.5%増)を占める。大量出荷を可能にした背景には、自社開発の半導体チップ搭載による大幅なコストダウンがあり、この技術革新が普及を後押ししたとされる。Hesaiの李一帆CEOによれば、フランスYole社の調査データで4年連続世界シェア1位(車載LiDARの売上)を達成しているという。実際、中国乗用車向けLiDAR市場では2023年前半に45%以上のシェアを握り首位、世界的にも最大手に位置づけられる。
HesaiはBYDなど中国国内大手への納入に加え、欧州・日本の完成車メーカーや大手ティア1サプライヤーとも協業を開始している。例えば2025年にはBYDの10モデル以上にHesai製LiDARが搭載予定であり、同社は年間200万台規模のLiDAR生産能力を構築中と報じられる。また新製品開発にも積極的で、第四世代ASICプラットフォームを採用した次世代LiDAR「ETX(開発コード:AT512)」を発表し、10%反射率で最遠400mの検知を可能にする超遠距離モデルの量産を2026年に予定している。これらの動きから、Hesaiはコスト競争力と技術力を武器に自動運転センサー市場をリードしているといえる。
その他の中国LiDAR企業と技術動向
Hesaiに続き、中国には複数のLiDARメーカーが勃興している。RoboSense(速騰聚創)はその代表例で、Hesaiと市場を二分する存在である。同社の2025年Q1決算では売上高が約3億3000万元と前年同期比9.2%減収となったものの、粗利率改善やコスト削減で純損失は縮小し、次世代製品投入に注力している。RoboSenseはADAS向けのデジタルLiDAR「EM4」「EMX」を開発し、既に世界の5つの自動車メーカー・計17車種に採用されている。
特にレベル4自動運転(ロボタクシーや無人トラック)向け市場で存在感が大きく、世界主要ロボタクシー企業や自動運転トラック企業の9割以上を顧客に抱えるとされる。同社はADAS向け販売が一時低調だった反面、新たな成長柱として汎用ロボット向けLiDARの需要を取り込んでいる。倉庫ロボットや配達ロボ、無人清掃車、鉱山用ダンプなどへの提供で、2025年Q1のロボット向けLiDAR販売は1万1900台(+183.3%)、売上7340万人民元(約15億円、+87.0%)と急成長した。今後は自動車用途だけでなくロボティクス分野での展開も視野に、製品ラインアップを拡充している。
もう一つ注目すべきはInnovusion(図達通)である。Innovusionは米シリコンバレー発のスタートアップだが中国市場に深く食い込み、NIOが戦略的投資を行ったことで知られる。NIOの高級EVセダンET7やET5にはInnovusion製の長距離高解像度LiDAR(通称「Falcon」)が搭載されており、NIO車の高度な自動運転機能を支えている。Innovusionは累計出荷台数が20万台を超えたと2024年時点で公表しており、新たな生産ラインも準備するなど量産体制を強化中である。
同社は2023年に英語名を“Seyond”に改め、NASDAQ上場計画も進めるなどグローバル展開を図っている。中国市場では2023年前半にシェア25%を占めHesaiに次ぐ地位を築いており、その躍進はNIOをはじめとする顧客企業との強固なパートナーシップによるところが大きい。
その他、中国ではDJI傘下のLivox(览沃科技)や、Huawei(華為技術)もLiDAR開発に乗り出している。Livoxはドローン大手DJIが育成した企業で、Xpengの量産EV「P5」に低コストLiDARを供給した実績がある。Huaweiは自社のADASプラットフォーム向けに96線LiDARを独自開発し、提携車種(Arcfox Alpha Sなど)で3基搭載するなど意欲を見せたが、前述の通り次世代ではLiDAR数削減の方向に舵を切っている。またBenewake(北醒)やVanJee(万集)といったローカル企業も工事・インフラ用LiDARやV2X用途センサーで実績を積んでおり、中国のセンサー企業群は多様な領域で群雄割拠の様相を呈している。
ミリ波レーダー技術の革新動向
カメラ・LiDARと並ぶ環境認識センサーであるミリ波レーダーも、中国市場で大きな技術転換期を迎えている。従来の車載ミリ波レーダー(77GHz帯)は距離測定精度に優れるものの、解像度や垂直方向の識別能力に限界があり、二輪車や歩行者の挙動把握に課題が残ると指摘されてきた。これを踏まえ、近年中国の自動車メーカーやサプライヤーは4Dイメージングレーダーと呼ばれる新世代レーダーの導入を進めている。4Dイメージングレーダーは従来の距離・方位・速度に加えて高さ方向の分解能を高めたもので、実質的に三次元空間を高解像度かつ全天候で検知可能なセンサーである。
中国スタートアップのFusionride(復睿智行)はこの4Dレーダー技術に特化した企業で、2021年の設立以来センサーフュージョンアルゴリズムの開発とレーダー性能向上に注力してきた。同社は2022年に初の4Dイメージングレーダー「Columbus」シリーズを発表し、既にある完成車メーカーから量産サプライヤーに指定され、年内に製品納入とアルゴリズム提供を行う契約を結んでいる。
Fusionrideは2024年に入って数億元規模の資金調達を実施し、生産能力拡大とアンテナ技術開発を加速している。同社の4T4R構成レーダーは毎秒20回のスキャンで周囲環境を把握し、1回のスキャン当たり約2000点(高性能版で最大8000点)の点群データを取得できる性能を持つ。2024年は中国で4Dレーダーの大規模活用が始まると見込まれており、従来型ミリ波レーダーからの急速な置き換えが進む可能性が高い。注目すべきは、そのコストが従来レーダーとほぼ同等とされる点である。Fusionrideの周軼CTOは「4Dイメージングレーダーは従来品とコストは変わらないがチャンネル数とSNRで優れ、信頼性が高い」と述べており、性能向上と低コスト化を両立した技術として業界の期待を集めている。
センサーの高性能化にはハードウェア基盤となる半導体チップ技術も重要である。この点で中国はミリ波レーダー向けCMOSチップの自給に力を入れている。
2014年設立のCalterah Semiconductor(加特蘭微電子科技)は中国初の車載ミリ波レーダー用SoCメーカーであり、2024年にシリーズDで数十億円規模の資金調達を行った。同社は77/79GHzおよび60GHz帯のレーダー用CMOS一体型チップとアンテナ一体パッケージ(AiP)製品を開発しており、世界でも屈指の総合的ラインアップを誇る。CalterahのレーダーSoCはADASや自動運転システムに幅広く採用されており、4Dイメージングレーダーや前方・コーナーセンサー、車内乗員検知やドア開閉時の死角検知など多彩な用途を支えている。同社は既にBYD、SAIC(上海汽車)、NIOなど20社以上の自動車メーカーと提携し、累計約170車種・850万台超の車両に自社チップが搭載済みという。中国国内の車載レーダーIC市場で約20%のシェアを占めるリーディング企業であり、ミリ波レーダーの国産化を牽引している。
また、中国の完成車メーカー自らがレーダー技術を内製化する動きも出ている。例えばEV最大手のBYD(比亜迪)は子会社で車載ミリ波レーダーのプラットフォーム開発を進めており、独自設計のレーダーモジュール「RF1」で検知距離や角度分解能を高めた製品を完成させたと報じられる。同製品は既に厳格なテストを通過し、2023年3月にもBYDの量産車に搭載が開始されたという。BYDは低価格帯EVにも高度なADAS機能を持たせる戦略を掲げており、5基のミリ波レーダーと12台のカメラを組み合わせた独自のセンサー構成「天神之眼(DiPilot)」を投入するなど、レーダー技術を活用した普及策にも積極的である。このように、中国ではレーダー用半導体から完成品モジュールまでバリューチェーン全体で技術革新と国産化が進展している。
日系企業にとってのビジネスチャンス
上述のように、中国の自動運転センサー市場は極めてダイナミックであり、日系企業にとっても多くのビジネスチャンスが存在する。センサーそのものを製造・販売するだけでなく、その周辺領域や技術提携を含めた多角的なアプローチが考えられる。以下、精密加工・材料供給、技術提携、協業モデルなど観点別にチャンスを整理する。
精密加工・材料分野での需要
LiDARや高周波レーダーの開発には、高度な精密加工技術や特殊材料が欠かせない。日本企業は光学レンズ研磨、プリズム・ミラーの超高精度加工、半導体レーザー素子の製造、セラミックパッケージや高周波基板材料といった領域で世界トップクラスの技術を持つ。

例えばAGC(旭硝子)はLiDAR用ガラスカバーの製品化に取り組み、京セラはLiDAR向けセラミックパッケージを提供している。こうした日本の部材・部品供給は、中国センサーメーカーの品質向上に直結する強みとなり得る。中国企業はコスト競争力に優れる一方、製品信頼性や耐久性で課題を抱える場合も多く、日系中小企業の巧みなモノづくりや高品質素材はその弱点を補完しうる。特にLiDARの光学系やレーダーの高周波伝送部ではナノレベルの精度管理が要求され、日本の精密加工技術への需要は今後一層高まるであろう。
技術提携・共同開発の可能性
中国センサー企業は急成長する一方で、海外展開や高度技術分野でのノウハウ蓄積に課題を抱えることもある。ここに日系企業との技術提携のチャンスがある。既に中国を代表するAIチップ企業のHorizon Robotics(地平線)とデンソーが戦略的提携を結び、中国市場向け統合ADAS(運転支援システム)の共同開発を進めている。
このプロジェクトでは、Horizon社の最先端AIプロセッサ「Journey」シリーズとデンソーの車両統合・センサー技術を融合し、高性能かつコスト競争力のあるADASを中国の道路環境に適した形で実現することを目指している。システムにはデンソー独自開発のセンサー群も組み込まれ、LiDAR依存度を下げつつ高い認識精度を達成するという。このように日中が強みを持ち寄る協業は、単独では難しいイノベーション創出を可能にする。日本の自動車部品メーカーが中国のセンサーベンチャーに出資したり、合弁で研究拠点を設けたりする動きも今後増えるとみられる。実際、ボッシュやコンチネンタルといった欧州Tier1も中国センサー企業との協業を加速しており、日系企業もこれに追随して現地パートナーとの開発体制を構築することが重要である。
ローカル企業との協業モデル
中国市場で成功を収めるには、現地企業との協業モデル確立が鍵となる。現地の商習慣やスピード感に対応するため、販売代理店やサービス網を持つ中国企業との提携は有効だ。例えば日本の中小センサーメーカーが単独で中国市場に参入する場合、現地の自動車メーカーとの接点づくりや大口契約獲得は容易ではない。
そこで、中国の有力Tier1部品サプライヤー華域汽車(HASCO)などと提携し、自社技術を組み込んだ製品を共同で中国OEMに売り込む手法が考えられる。また、日本企業が設計・コア技術を提供し、中国側が製造・販売を担うモデルも現実的だ。中国政府は先端自動車技術における外資との協力を概ね歓迎しており、各地の開発区・産業パークでは優遇政策も用意されている。加えて、中国センサー企業にとっても日本の高い品質管理手法や安全基準への知見は魅力であり、共同でグローバル市場を狙うWin-Winの関係が構築できる。日系企業は自社単独で完結させるのではなく、現地のプレーヤーと役割分担し合う戦略が求められる。
その他のチャンス領域
自動運転センサー周辺には他にも商機が潜んでいる。例えばLiDARやレーダーから得られるデータ解析サービス、センサー融合ソフトウェアの提供、あるいは車載センサーのテスト・検証装置ビジネスなどがその一例である。日本には計測器や試験機の老舗企業が多く、高度化する中国センサーの開発現場でも高品質な計測ソリューションの需要がある。また、センサー製造装置や生産ライン自動化(ファクトリーオートメーション)分野でも、日本の機械・ロボットメーカーが進出余地を伺っている。これら周辺領域まで目を向ければ、中小企業でも自社のニッチな技術を武器に中国市場に食い込むことが可能である。
終わりに
中国の自動運転センサー市場は、LiDAR・ミリ波レーダーを中心に技術革新と新規参入が相次ぎ、数年で勢力図が塗り替わるスピードで成長している。日系のセンサー製造企業や車載部品メーカーにとって、これほど大きな市場機会は見逃せない一方、現地の競争環境やニーズの特殊性を理解することが成功の鍵となる。ビジネス展開にあたっては徹底した事前調査と現地有識者との連携が不可欠である。中国の規制動向や業界標準を把握し、適切なパートナー選定や知的財産の保護策を講じるためにも、専門的なコンサルティングを活用する意義は大きい。
総じて、中国の自動運転センサー市場は「挑戦」であると同時に日本企業にとっては大きなチャンスでもある。そのチャンスを確実につかむため、最新動向のキャッチアップと入念な準備、そして信頼できるパートナーとの協業体制づくりが重要である。今後ますます高度化・巨大化する中国センサー市場において、日系企業がその強みを発揮し、新たな価値を提供していくことを期待したい。
情報参照先:
- ResearchAndMarkets.com|世界および中国の自動車用LiDAR業界レポート2023:中国のLiDARが「大量生産・納入」の小規模なピーク期を迎える| (アクセス日: 2025年6月10日)
- 36Kr Japan|中国LiDAR大手「Hesai」、1〜3月は46.4%増収 ADAS向けで4年連続世界一| (アクセス日: 2025年6月10日)
- MarkLines|禾賽科技、BYDの10種類以上のモデルにLiDARを供給へ| (アクセス日: 2025年6月10日)
- AAIT|中国LiDARメーカー存在感、次世代カーで米国と一騎打ちも| (アクセス日: 2025年6月10日)
- 36Kr Japan|中国LiDAR大手のロボセンス、1〜3月はADAS向け低調で9.2%減収 ロボット向けは急成長| (アクセス日: 2025年6月10日)
- CnEVPost|Innovusion – Latest news and updates|(アクセス日: 2025年6月10日)
- TechCrunch|中国のXPeng社、LIDAR搭載EVの自動化競争に参入| (アクセス日: 2025年6月10日)
- 36Kr Japan|中国、4Dイメージングレーダーへの代替進む ミリ波レーダー超えのコスパに期待| (アクセス日: 2025年6月10日)
- 36Kr Japan|ミリ波レーダー向けSoCの中国「Calterah」、シリーズDで数十億円超を調達| (アクセス日: 2025年6月10日)
- AAIT|BYDの車部品子会社、ミリ波レーダー向け新プラットフォーム開発| (アクセス日: 2025年6月10日)
- 36Kr Japan|中国BYD、ADASを大衆車に解禁!150万円以下のEVで「自動運転時代」に突入| (アクセス日: 2025年6月10日)
- ValuePress!|中国市場で急成長の車載ミリ波レーダー、費用対効果でみる利点 Boschなど10数種類の設計、サプライチェーン、コスト調査| (アクセス日: 2025年6月10日)
- AGC|LiDARとAGCの製品|(アクセス日: 2025年6月10日)
- MOBY|Horizon Roboticsとデンソー、 中国市場向けの統合型運転支援システムで戦略的提携を締結| (アクセス日: 2025年6月10日)