【東南アジアコーヒー市場攻略】カフェ文化×フレーバーコーヒーで攻める!タイ・インドネシア・ラオス市場の最新潮流と成功戦略とは?

アジアのコーヒー市場の現状とトレンド
近年、コーヒー市場におけるアジアの存在感は年々高まっている。東南アジア市場は活況で、2024年から2029年にかけて年平均(CAGR)3.92%成長し、2029年には103億ドル規模に達する見通しである。この背景には、中間所得層の拡大とトレンドに敏感な若年層の台頭があり、彼らが新しいカフェ体験やサステナブル商品を求めていることが挙げられる。また、アジアのコーヒー消費量は過去5年間で年率1.5%増と、欧州(0.5%)や米国(1.2%)を上回っており、世界のコーヒー消費をけん引している。

アジア(特に東南アジア)は主要なコーヒー豆の産地でもある。世界のコーヒー生産上位5カ国にベトナムやインドネシアが含まれており、これら東南アジア諸国は生豆の大規模輸出国である。たとえばベトナムはフランス植民地期からコーヒー栽培が盛んで、現在では世界2位の生産量を誇る。同様にインドネシアもオランダ統治時代以来コーヒー産業が根付き、今なお世界有数の輸出国で東南アジア地域の主力国である。
一方、海外市場向けの商品展開にもアジア企業は積極的である。フィリピンのジョリビー社は2019年に米国チェーン「コーヒービーン&ティーリーフ」を買収し、2017年にはベトナム発のハイランズコーヒーにも出資するなど、ブランド買収によりコーヒービジネスを強化している。
地域別のニーズと市場の特徴
東南アジア各国のコーヒー市場は一様ではなく、国ごとに消費ニーズや市場構造に違いがある。主要国であるタイ、インドネシア、ラオスを中心に、それぞれの市場特徴を概観する。
タイ:都市部と地方で異なる嗜好
タイのコーヒー市場は近年急成長しており、2023年には国内市場規模が前年比7%増の約344億バーツ(約1,440億円)に拡大した。背景には、バンコクなど都市部でのスペシャルティコーヒー人気の高まりと、即席インスタント製品の普及がある。
国内消費量の84%はインスタントコーヒーで占められ、レギュラーコーヒーは16%に過ぎない。都市部ではスターバックスなど外資チェーンの進出でエスプレッソ系飲料やカフェ文化が浸透し、若者やビジネス層がカフェを仕事や社交の場に利用するようになっている。また地元資本の独立系カフェも台頭し、タイ産シングルオリジン豆を売りにする専門店が増えている。一方、地方部では依然として手軽なインスタントや甘いアイスコーヒーの人気が根強く、コンビニで買えるRTD製品の需要が高い。
インドネシア:イスラム文化と多様化する嗜好
インドネシアは世界有数のコーヒー生産国であると同時に、約2.7億人の巨大市場である。2023年の生産量は約78.6万トン、コーヒー市場規模は2030年までに259億ドルに達する見通しである。特に缶やペットボトル入りのRTD製品は今後数年で最も高成長が見込まれるセグメントである。

同国では飲食製品のハラール認証取得が市場参入の前提である。コーヒー自体は基本的にハラールであるが、フレーバーシロップやクリーマーなど添加物を含む製品では製造過程での適合が不可欠である。文化的要請を理解し、認証取得や表示対応を徹底することが信頼につながる。
特に女性はモカやバニララテといった甘いフレーバーコーヒーを好む傾向がある。安価な小袋インスタントコーヒーが日常の主流であるが、都市部の中間層でカフェ利用も増え、伝統嗜好と新興カフェ文化が共存し市場の裾野が広がっている。
ラオス:生産国としての可能性と内需の萌芽
ラオスは人口規模こそ小さいものの、東南アジア有数のコーヒー生産国である。生産量の95%は南部ボラベン高原産であり、年間約2万トンの大半が海外へ輸出されている。コーヒーは第5位の輸出品で、農家の重要な収入源となっている。

近年では、スペシャルティコーヒーの生産にも注力しており、米国や欧州のバイヤーから高評価を得ている。また、若年層を中心に都市部でのカフェ文化が緩やかに浸透しており、内需拡大の兆しも見える。首都ビエンチャンや観光都市ルアンパバーンでは、地元豆を使用したカフェが増加しており、観光客向けだけでなく地元民による消費も見込まれている。今後、観光と連動したカフェビジネスが成長のカギを握る可能性が高い。
フレーバーコーヒー市場、カフェ文化、スペシャルティの需要
東南アジアではコーヒーの楽しみ方が多様化しており、フレーバーコーヒー市場が急速に拡大している。バニラやヘーゼルナッツなど香り付けした甘いコーヒー飲料が若者に人気であり、中間層の所得向上や西洋カフェ文化への憧れが成長の原動力となっている。

同時に、スペシャルティコーヒー専門店のニーズも高まっている。特にタイやベトナムの都市部では、農園から直接買い付けたシングルオリジン豆を使い、抽出方法にもこだわるカフェが増加している。これらの店はコーヒーの品質に加え、店舗空間やサステナブルな姿勢を重視するZ世代・ミレニアル層に支持されている。スペシャルティ市場はまだニッチだが、プレミアム志向の高まりを背景に確実に成長を続けており、日系企業にとっても付加価値戦略の足がかりとなる。
東南アジア市場で成功しているアジア企業と成功要因
日系企業にとって、すでに東南アジア市場で成果を上げている現地・外資企業の成功モデルを分析することは非常に有益である。以下に紹介する企業はいずれも、現地ニーズに応じた商品設計やマーケティングを徹底し、急成長を遂げた事例である。
カフェ・アマゾン(Café Amazon)
タイのPTT傘下で2002年に設立されたカフェ・アマゾンは、国内外に3,300店舗以上を展開する成功モデルである。同チェーンは主にガソリンスタンド併設型で出店する戦略を採用し、出先での気軽な利用ニーズを的確に捉えている。ローカライズ戦略としては、飲料価格を60〜70バーツ(約200〜250円)と外資系カフェの半額程度に抑えつつ、タイ人が好む甘く濃い味付けや、椰子糖・練乳入りのアレンジメニューを提供している。
また、「緑のオアシス」という店舗デザインコンセプトで、植物を多く配した癒し空間を演出。これが女性や若年層に人気を集めた。さらにポイントカードやモバイル決済との連携、ローカルインフルエンサーとのSNSキャンペーンなど、デジタル時代に即したマーケティング戦略も積極的に展開している。
コピ・ケナンガン(Kopi Kenangan)
インドネシア発の新興カフェチェーンで、2017年の創業からわずか数年で国内800店舗を超える急成長を遂げた。コピ・ケナンガンは、モバイルアプリ経由の事前注文・キャッシュレス決済を前提としたテイクアウト特化型の小型店舗モデルで急拡大を実現した。
マーケティング戦略としては、SNS上でのユーモアを交えたブランドメッセージと、パームシュガー入りの甘いアイスラテを主力商品として投入。ローカルの味覚に合ったメニュー構成を強化することで、都市部の若者層から圧倒的な支持を獲得した。また、InstagramやTikTokでの動画広告、著名インフルエンサーによるプロモーションなど、若年層との親和性を高める戦術が功を奏した。
日系企業における課題と解決策
次に、東南アジア市場への進出において、日系企業が直面する課題についても触れておきたい。
1. 商品のローカライズ不足
日本品質を前面に出しすぎた結果、現地の嗜好や価格感覚とのミスマッチが起こりやすい。たとえばインドネシアでは甘くて濃厚な味が好まれ、タイでは甘味とコクのバランスが重視される。

現地テストマーケティングの実施により、甘味・苦味・酸味の調整、容器サイズ、提供温度まで細かく最適化する必要がある。
2. 高価格帯による市場制限
日本と同様の価格設定では中間層以下への普及が難しい。現地の購買力に合わせた小容量・低単価商品の開発や、特定時間帯の割引施策、リフィル制度の導入などで価格障壁を下げる工夫が求められる。
3. 法規制・文化への対応
ハラール認証、原材料の表示義務、広告規制など、各国固有の法制度に精通していなければ市場参入に支障をきたす。法規制は事前調査で網羅し、製品設計段階から必要な対応を織り込むべきである。さらに、現地パートナーと連携し、文化的価値観を反映したブランドづくりやプロモーションを行うことが重要だ。
4. 人材・物流インフラの構築
現地スタッフの教育や品質管理体制、調達ネットワークの整備など、サプライチェーン面での投資とマネジメントが欠かせない。特にスペシャルティ市場など品質管理が厳しい業態では、日本と同等レベルのオペレーションを実現するためのノウハウ移転が求められる。
終わりに
東南アジアのコーヒー市場は多様かつ成長性に富んでおり、現地文化への深い理解と、的確なローカライズを軸にした事業設計が成功の鍵である。本稿で紹介したように、既に成功している企業は例外なく現地市場に最適化した商品・価格・店舗戦略を実行している。
日系企業にとっても、進出前の入念な市場調査や現地企業との連携を通じた適応戦略の立案が不可欠である。まずは信頼できるパートナーとともに、対象市場の法規制、嗜好、商習慣を踏まえた事業モデルを構築すべきであり、それこそが持続的な競争優位につながるのである。
Archesでは、東南アジアの消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、東南アジアにおける各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等、幅広く日本企業の海外進出を支援しています。ぜひお気軽にお問合せください。
情報参照先:
- Genesis Ventures|Grab-and-Go Coffee Brewing Up Success in Southeast Asia| (アクセス日: 2025年6月5日)
- WISEBK.com|【タイ】23年のコーヒー市場7%成長、輸出入も拡大=商務省|(アクセス日: 2025年6月5日)
- Incorp.asia|Indonesia’s coffee market outlook: A comprehensive insight for businesses|(アクセス日: 2025年6月5日)
- Snapcart|The Importance of Halal Certified Products in Indonesia| (アクセス日: 2025年6月5日)
- Snapcart|Indonesia’s Coffee Consumption Trends in 2023| (アクセス日: 2025年6月5日)
- Euromonitor.com|What’s Next for Coffee Shops in Southeast Asia?| (アクセス日: 2025年6月5日)
- Comunicaffe International|Thailand’s Café Amazon ramps up for regional and global expansion|(アクセス日: 2025年6月5日)
- Ajinomoto Co., Inc.|Ajinomoto Begins Operation of a Second Factory for Birdy(R) Canned Coffee in Thailand|(アクセス日: 2025年6月5日)
- Medium|Can Thailand Redefine Its Future as a Global Coffee Powerhouse?| (アクセス日: 2025年6月5日)