【東南アジア発モバイルゲーム成功事例】ベトナム発「Wood Nuts & Bolts Puzzle」はなぜ成功したのか?海外市場攻略のポイント

はじめに
近年、アジアのモバイルゲーム市場は世界的にも存在感を増しており、特に東南アジア発のスマホゲームがグローバルで人気を博している。2024年上半期、東南アジア地域のモバイルゲームダウンロード数は前期比3.4%増の42億件に達した。

この背景には、高いスマートフォン普及率や若年層人口の多さに加え、シンプルで誰にでも遊びやすいゲームコンテンツが広く受け入れられていることがある。ではなぜモバイルゲームがこれほど人気なのか。その理由を探るため、本稿ではベトナム発の成功事例に焦点を当て、海外市場でヒットしたモバイルゲームのマーケティング戦略・アプリストア最適化 (ASO)・ユーザーエンゲージメントの観点から成功要因を解説する。
ベトナム発ヒット作「Wood Nuts & Bolts Puzzle」
まず取り上げるのは、ベトナムのABI Game Studioが手掛けたパズルゲーム「Wood Nuts & Bolts Puzzle」である。本作は木板に留められたネジを正しく緩めてパネルを外すという一見シンプルな内容だが、2024年前後に世界的なブームを起こした。AppleのApp Storeでは無料ゲームランキングで1位を獲得するほどの人気を博し、まさに海外市場で大成功したタイトルの一つと言える。
実際、本作は世界全体で1日あたり50万ドル規模の売上を達成しており、その約90%は広告収入によるものだった。開発元のABI Game Studioは、こうしたヒットにより東南アジアのモバイルゲーム企業として国際的な注目を集めている。
マーケティング戦略:ハイブリッド収益モデルと高速なユーザー獲得
Wood Nuts & Bolts Puzzle成功の立役者は、データ分析に基づいた収益モデル転換と積極的なユーザー獲得(UA)戦略である。リリース当初、本作はインタースティシャル広告やリワード広告といった広告収入に依存するモデルで収益を上げていた。しかし類似ゲームが次々と市場に現れ競争が激化する中、ABI社はユーザー行動データを詳細に分析し、ハイブリッド収益化(広告+アプリ内課金の併用)への移行を決断した。

特に、本作のユーザー1人あたりのリワード広告視聴回数がある閾値を超えており、「広告をよく視聴するユーザーは課金転換率も高い」という知見が得られたためである。まず「一定時間広告非表示」権などを小額課金で提供し、さらにゲーム内有利アイテム購入用のチケット制を導入する形で段階的にIAP(アプリ内課金)要素を追加していった。これに伴い、マーケティング面ではAppLovin社の支援の下、複数のUAキャンペーンを並行展開した。最初は広告視聴による収益貢献が見込めるユーザーを重視した広告ROASキャンペーンを行い、その後課金も含めあらゆる収益源となるユーザー層を取り込むブレンデッドROASキャンペーンへと軸足を移していった。
さらに、一定レベル到達を目標とするCPE(Cost Per Event)キャンペーンによって定着率の高いユーザーを獲得し、純課金ユーザーを狙うIAP重視キャンペーンも加えるという、複数のキャンペーンの組み合わせでユーザー層を拡大している。この結果、本作のユーザー規模は短期間で飛躍的に拡大し、月次ベースで8倍以上の成長を達成、一気にダウンロード数ランキングのトップへと躍り出た。キャンペーン最適化の成果は顕著で、7日目の継続率(D7リテンション)は従来より32%も向上し、30日目の課金転換率も25%改善するといったエンゲージメント指標の向上が見られた。このように、データ駆動型マーケティングと収益モデルの工夫により、広告収益と課金収益の双方をバランス良く伸ばしつつユーザー基盤を拡大できた点が成功の重要な要因だ。
アプリストア最適化(ASO)とグローバル展開手法
Wood Nuts & Bolts Puzzleのグローバルでの躍進には、アプリストア最適化(ASO)と戦略的な展開も一役買っている。まずゲームの内容自体が言語非依存の物理パズルであり、UIも直感的なため、各国ユーザーが抵抗なく受け入れやすい普遍的な設計になっている。これはローカライズの手間を最小限に抑え、世界各国のアプリストアに同時投入しやすい利点をもたらした。実際、本作はリリース直後から米国を含む主要市場で積極的にプロモーションされ、前述のようにiOSストアでランキング1位を獲得するなど大きな存在感を示した。また、ABI社はYouTubeを活用した米国市場でのトライアル配信にも選出されるなど、プラットフォーム側のサポートも取り付けている。

ゲームタイトル名やストア説明文も「Wood」「Nuts」「Bolts」「Puzzle」といった英語の汎用キーワードを組み合わせた分かりやすいものとなっており、検索経由での流入も意識されている。加えて、アイコンやスクリーンショットでゲーム内容を一目で理解できるデザインとし、ユーザーがストアで興味を惹かれやすい工夫が凝らされている。こうしたASO施策とグローバル同時展開戦略により、同作は各国でスムーズにユーザーを獲得し、結果としてモバイルゲーム海外市場での知名度向上と大量ダウンロードにつなげた。
ユーザーエンゲージメント向上策:難易度設計とブースター活用
本作のもう一つの特徴は、ゲームデザインを通じた高いユーザーエンゲージメントである。Wood Nuts & Bolts Puzzleは一見カジュアルなパズルに思えるが、実際の難易度は非常に高く設定されている。ユーザーは常に集中力を要求され、ステージクリアには試行錯誤と繰り返し挑戦が必要だ。この「絶妙に難しい」ゲームバランスが、ユーザーの闘争心と粘り強さを刺激し、結果としてプレイ時間の延長とリテンション向上につながっていると言える。平均的なプレイセッション長は20分にも達し、ユーザーは1回のプレイで約6回ものインタースティシャル広告に遭遇する計算となる。特に本作ではレベル失敗時にも広告を挿入する設計を取っており、難易度の高さゆえに何度も失敗→再挑戦を繰り返す中で広告インプレッションが増え、収益とエンゲージメントが比例して高まる仕組みだ。
このような巧妙な広告配置はユーザー体験を大きく損なわない範囲で実装されており、結果として広告収入を支える原動力となっている。さらに、本作には攻略を助けるブースター(アイテム)が複数用意されており、ユーザーはレベル中に最大4回まで動画広告を視聴することでブースターを獲得・使用できる。例えば「あと一手で解ける」といった場面で広告視聴によってヒントやパワーアップを得られるため、ユーザーは継続プレイのため進んで広告視聴を行うインセンティブが働く。このリワード広告とゲーム進行の融合により、ユーザーは長時間プレイしても飽きず、同時に開発側は収益最大化を図るというWin-Winの構図が成立している。
「Screwdom 3D」との比較
次に、上記と同じくベトナム発のモバイルゲーム成功例として「Screwdom 3D」を簡単に取り上げる。Screwdom 3DはiKame Games(Zego Studio)によって2024年末にリリースされた3Dパズルゲームで、基本コンセプトはWood Nutsと同様にネジを外すパズルである。本作もグローバルでヒットし、リリースからわずか数ヶ月で急成長を遂げた。2025年第1四半期(1~3月)時点で約360万ドルの売上を記録し、さらに同年4月単月では670万ドルに到達している。これはQ1の3ヶ月合計売上のほぼ2倍に相当し、極めて速いペースで収益規模が拡大していることを示す。ダウンロード数も増加の一途をたどり、公開から数ヶ月で累計1,400万以上のダウンロードを獲得した。このようにScrewdom 3Dは、ベトナムの小規模スタジオ発ながら世界的ヒットを成し遂げたもう一つの象徴的タイトルである。
Screwdom 3Dの成功要因をWood Nutsと比較すると、共通点と相違点の双方が見えてくる。まず共通するのは収益モデルとマーケティング手法である。本作も基本プレイ無料+広告収入型を軸としつつゲーム内課金を併用するハイブリッド収益モデルを採用している。ユーザーは一定時間の広告動画視聴によってパズルを続行できたり、ブースターを獲得できる仕組みになっており、広告視聴とゲーム進行がうまく融合されている点はWood Nutsと同様だ。また、マーケティング戦略においてもグローバルの広告ネットワークを駆使した大量ユーザー獲得に成功しており、リリース後の数ヶ月で世界中から数千万規模のプレイヤーを集めている。特にリワード広告の活用やブースター販売など収益最大化策はよく似ており、収益曲線も急激な立ち上がりを見せた。こうした共通点から、東南アジア発のカジュアルパズルゲーム成功モデルが一つの定型となりつつあることが分かる。
一方で、Screwdom 3Dには差別化のポイントも存在する。それはズバリゲーム体験そのものの革新性である。従来のネジ緩めパズルは平面的な2D表示が主流だった中で、Screwdomはタイトル名の通りフル3Dグラフィックスを導入した。プレイヤーは360度回転させられる立体オブジェクト上でネジを操作しなければならず、この空間的な奥行きとリアルな物理挙動が新たな難しさと楽しさを生み出した。この3D化による差別化は奏功し、同ジャンルの中でScrewdomはトップの売上規模を実現するに至った。
また開発元のiKame Gamesは、過去にも多数の「ネジ外し」系パズルを手掛けた実績があり、その蓄積されたノウハウがゲームデザインや収益化チューニングに活かされたと推察される。さらに、Screwdom 3Dでは継続的なコンテンツ更新にも注力している。数百種類におよぶ多彩な3Dモデルとエンドレスに近いステージ追加によって常に新鮮な課題を提供し、ユーザーを飽きさせない仕組みだ。以上のように、Screwdom 3Dは基本的な成功公式はWood Nutsに倣いつつ、ゲーム体験の差別化とアップデート運用で独自の地位を築いたと言える。両タイトルの比較から学べるのは、ヒットコンセプトの着実な模倣+独自改良によって、後発スタジオでも短期間でグローバル成功を収めうるという点である。
日本企業との比較と海外展開への示唆
上述したベトナム発ゲームの成功事例は、日本のゲーム業界にも多くの示唆を与える。まず収益モデルの面で、日本企業は伝統的に課金重視(特にガチャ課金)のビジネスモデルに依存する傾向が強い。一方、東南アジアの新興スタジオは広告収益を巧みに取り入れ、大量のライトユーザーから広く薄く収益を上げる戦術を得意としている。Wood NutsやScrewdomに見るように、まず広告でユーザー規模を拡大し、その中から一部を課金ユーザーに転換させるという二段構えのモデルは、ユーザー当たり売上に固執しがちな日本式とは対照的だ。特に新興国市場では広告視聴への抵抗感が低く、一人当たり課金額は小さいものの人口規模で勝負できるため、このモデルは理にかなっている。日本企業が海外(とりわけアジア新興市場)に進出する際は、現地ユーザーの嗜好に合わせて収益モデルを柔軟に調整することが重要となるだろう。
次にマーケティング戦略の違いも指摘できる。日本国内向けのゲームマーケティングは、有名IPの活用、大規模な事前登録キャンペーン、テレビCM等による認知拡大など、ある種王道ではあるが内向き志向の手法が中心になりがちである。それに対し、東南アジア発のスタジオは初めから世界を視野に入れ、FacebookやAppLovinといったグローバル広告ネットワーク上で動画広告を大量出稿し短期間で数千万単位のダウンロードを獲得する手法を駆使している。
例えばScrewdom 3Dは動画+プレイアブル広告の組み合わせでユーザーの興味を喚起し、高難易度のパズル場面をあえて途中まで見せて「続きはあなたの手で解決せよ」と誘導するクリエイティブ戦略を取った。これにより世界中のカジュアル層に強烈な印象を与え、一気にユーザー母数を拡大している。日本企業も海外展開時には、このようなデジタル広告を駆使した攻めのUAを検討すべきだろう。ただし大量の広告投下には相応の予算とオペレーション力が必要なため、自社でノウハウが不足する場合は外部パートナーや専門代理店との協業も視野に入れることが望ましい。
またゲーム内容・ASOの観点から言えば、日本発のゲームはストーリー性やキャラクター性が強く出る傾向があり、それが独自の魅力である一方、言語・文化の壁となりやすい。海外で広く受け入れられるには、ルールの普遍性とUIの直感性を高め、チュートリアルなしでも遊べる設計を意識したい。ASOでは、ターゲット国ごとに人気検索語を調査し(例:puzzle/brain/relaxing など)、タイトル・サブタイトル・説明文・スクリーンショット文言を現地言語でABテストすること、アイコンは「何をするゲームか」が一目で伝わる構図にすることが要諦である。さらに、国やOS別に検索流入(オーガニック)×広告流入(ペイド)の比率を設計し、ランキング追随よりもキーワード順位×CVR×保存率を指標として改善を回す体制が望ましい。
日本企業の実行チェックリスト(要点)
- 現地検証:ASOキーワード、クリエイティブ、広告ネットワーク構成は国別にABテストし、週次で仮説検証を回す。
- 収益モデルのローカライズ:広告×IAPのハイブリッドを前提に、国別LTVではなくブレンデッドROASで評価・運用する。
- クリエイティブ運用:プレイアブル広告と短尺動画を主軸に、国別の“刺さる瞬間”を切り出して検証する。失敗・成功の両シーンを見せて続きの解決を促す導線を設計する。
- コンテンツの普遍化:テキスト量を抑え、操作系は一貫性を重視。チュートリアルレスでも遊べる難易度曲線を設計する。
- ライブオペレーション:レベル追加・期間イベント・ランキングなどの更新を定例化し、復帰導線(プッシュ、Deep Link、Offerwall)を組み込む。
終わりに
本稿では、ベトナム発の「Wood Nuts & Bolts Puzzle」を中心に、「Screwdom 3D」との比較を通じて、マーケティング戦略・アプリストア最適化・ユーザーエンゲージメントの3点から成功要因を抽出した。結論として、(1)データ駆動で収益モデルとUAを最適化すること、(2)言語非依存かつ直感的なゲーム設計で国境を越えること、(3)継続的な更新運用で粘着性を高めること、の三つが海外市場での成長を支える中核である。
海外展開では、ターゲット地域のユーザー嗜好・競合状況・広告単価・ASOキーワード地形を事前に把握し、投入する資源(クリエイティブ、ネットワーク、運用体制)を国別に最適化することが不可欠である。とりわけアジア/東南アジアのモバイルゲーム市場は変化が速く、「スマホ ゲーム 人気」や「モバイルゲーム 海外市場調査」に関する仮説は短期間で陳腐化する。したがって、ゲーム 海外市場調査を継続的に行い、ASO・UA・コンテンツ更新のPDCAを回すことが、モバイルゲーム アジアで勝つための前提条件である。
Archesでは、東南アジアの消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、東南アジアにおける各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等、幅広く日本企業の海外進出を支援しています。
情報参照先:
- Wood Nuts & Bolts Puzzle achieved sustainable growth with a hybrid monetization strategy|(アクセス日: 2025年9月10日)
- New achievements of ABI Game Studio|(アクセス日: 2025年9月10日)
- Wood Nuts & Bolts Puzzle was honored to be selected by YouTube for trial release in the US market|(アクセス日: 2025年9月10日)
- The top games for downloads are shifting as new stars rise and puzzle games conquer Japan|(アクセス日: 2025年9月10日)
- Hypercasual games market keeps shrinking, still 3.38 billion downloads last 3 months|(アクセス日: 2025年9月10日)
- The top mobile game publishers of 2024 by downloads|(アクセス日: 2025年9月10日)
- Why You Should Develop a Game Like Wood Nuts & Bolts Puzzle?|(アクセス日: 2025年9月10日)
- The Gaming Market in Southeast Asia (SEA)|(アクセス日: 2025年9月10日)
- Made-in-Vietnam Game: The Explosive Growth of the Mobile and Video Game Segment in 2023|(アクセス日: 2025年9月10日)
- Almost 2 Billion Game Installs During Q1 2025|(アクセス日: 2025年9月10日)