急成長するベトナムのアパレル市場:最新動向と未来予測
はじめに
世界で最も美しい伝統衣装と評されるアオザイ発祥の地ベトナム。今まで日本、アメリカ、EUなどの先進国市場向けの衣料品生産拠点として知られていたが、近年ではUNIQLO(日本)、無印良品(日本)、ZARA(スペイン)、H&M(スウェーデン)をはじめとする大手アパレルチェーンが多数進出しており、国内ブランドの台頭や社会の動向を反映した商品展開の発信など消費拠点としても急速に発展してきている。今回は、変容目まぐるしいベトナムのアパレル産業の実態と今後の動向について解説する。
ベトナムのアパレル市場について
ベトナムのアパレル産業は年平均成長率は8%に達し、急速かつ継続的に成長を遂げている。主要事業は、依然として先進国のアパレル企業の生産拠点として輸出が大半を占め、ベトナム政府の統計によれば2022年の輸出総額は440億ドル以上、成長率は10%に到達するなど、アパレル産業は世界的にベトナムの生産力に依存していることが窺える。例えば、Nike(アメリカ)のベトナムでの生産量は中国を上回り、同社のスポーツシューズ生産において最大の生産国にランクインしたり、Adidas(ドイツ)の2020年の発表では、同社の総生産量の42%がベトナムで生産されており、最大の生産国に位置付けたりしていることが物語っている。
ベトナムのアパレル産業は4つの主要セクターがあり、繊維および糸の生産・加工、染色、カットソー製品、原材料・副資材であるが、まさに縫製大国を象徴する構成をしている。ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏も、ベトナム市場のポテンシャルを高く評価し、将来的な同社の販売および生産の中心地と認識している、との発言も過去に見られたことがあり、世界の衣料品生産拠点の地位を確固たるものにしている。衣料品の生産は労働集約型であり、豊富な労働力と低コストでの雇用が可能なことが条件であるため、その条件をクリアするベトナムへの依存は今後しばらく続く見通しである。
世界の生産拠点から消費拠点へ
しかし、近年では経済発展による中間層の所得増加に伴い、アパレル消費が増え、消費市場としても注目され始めている。ベトナム特化の調査企業VietBizによると、東南アジアの中で最もEコマース市場が発達しており、Eコマースの売上高は100億ドル以上、2025年までには430億ドルまでに拡大する見込みと言われている。生産もでき、商品へアクセスしやすい環境が整備されているベトナムは、消費市場としての基盤が整っているといえる。それに拍車をかけたのが、人口増加だ。2024年時点で、ベトナムの総人口は1億30万人、世界第16位の人口を有し、毎年80万人ペースで増え続けている。アパレルを利用する、関心のある層の多くは若年層や就業層に属し、そういった人口が国全体の人口増加に伴い増加していることは、先進国の既存アパレル市場と比較し今後の市場拡大として見通しが明るいとも言えるであろう。
一方で、消費市場として自律し発展するためにはいくつか課題となる点がある。その最たるのが、「外国ブランドが好き」というベトナム人の心理の転換だ。多くのベトナム人はまだ外国の製品が国内の製品より品質が良いと考えており、外国の製品が国内製品の2〜3倍の価格であっても、消費者は外国の製品を購入する場合が多い。また、特にベトナムのアパレル企業の多くは今でも家族経営のため、新しいトレンドを追うスピードが外国企業よりはるかに遅く、競争力は低い。今後、ベトナム発のアパレル企業が増え外国企業に依存せず国内市場が持続的に発展していくためには、「ベトナム人は率先してベトナム製品を使おう」や「ベトナム製品のクオリティは外国製品に劣らない」というような宣伝に注力し、世論を形成していくことであろう。そうして、将来ベトナム人の価値観が、海外ブランドではなくベトナム製品志向になれば、仕様の様相は一変するだろうと言われている。
ベトナムの今を代表する事例
前述の生産・消費拠点を有するベトナムアパレル市場では、より訴求力のあるマーケティング施策の実施、より多くの顧客層の取り込みのための流通経路の開拓、パーソナライズした販売手法の確率、世相を反映した消費者ニーズへの対応などへの投資が進み、まさにアパレル産業全体の関心の縮図といった様相だ。数多くの事例が存在するが、ここでは、マーケティング施策で功を奏した企業を3つ紹介する。
CAFINA
7,000種以上の多様な衣料品を販売し、幅広い客層の取り込みに成功した今後のベトナムアパレル産業を牽引する企業。注文も受け付けるチャットボックスを導入したオンライン販売、「Fashion of all」を体現するかのように年齢、性別、性格、収入に関係なく、すべての人の需要に対し十分に対応できる幅広さを製品に装備、メディアを通じたブランドプロモーションも得意。
Faslink
環境に優しい素材の活用のほか、製造手法に至るまで環境に配慮し、ファッション業界の “グリーン化” を目指す「Faslink」。原材料は、コーヒー豆のかす、ハスの葉や茎、貝殻、ココナッツ炭、ミントのセルロース繊維の5種類。「廃棄物に価値を与えたい」という強い情熱のもと、素材の開発をしてきた経緯が特徴的。
Kilomet109
ベトナムの伝統的な技術や価値観を取り入れつつ、環境にやさしい素材の活用や持続可能な製造過程を目指した、サステナブルなファッションブランド「Kilomet109」。
2014 年、公的国際交流機関のブリティッシュ・カウンシルが主催する「ヤング・クリエイティブ・アントレプレナー・コンテスト」で賞を獲得したことで注目を浴び、地元の環境や伝統的な技術の保全はもちろん、少数民族の女性の労働の支援、開発、持続可能な取引を通じた社会的責任を重視するブランドの姿勢などが評価。
今後のベトナムアパレル市場
ベトナムの有名ファッションブランド「COCO SIN」の創業者Tran Mai Huong氏によると、アパレル企業が抱える最も難しい課題はサプライチェーンとキャッシュフローを最適化することだとコメントしている。そのことが表すように、特にブランドの存続をかけてベトナム発アパレル企業を筆頭として、常に新しいデザインを作成すること、つまり新作が販売される度、すぐに次の新作に再投資するためのサイクル形成が今後進行していくであろう。
また、2022年10月にはベトナムのアパレルブランド「Hanosimex」が韓国の会社と協定を結び、2050年までに適用されるEUの規制に対応するために環境に優しい製品を作るなど、グリーンファッションを増やしていく計画を発表した。当事例以外にも、2023年に大手繊維メーカー「Vinatex」は伊藤忠商事とリサイクル繊維材料の生産に関する分野での協力促進や最新の環境技術を活用した持続可能な開発及び生産活動への投資について情報交換するなど、ベトナムではグリーンアパレルやリサイクルファッション、古着の人気が高まっている。今後のベトナムにおけるファッションビジネスの顧客は、いわゆる「ミレニアル世代」や「Z世代」と呼ばれる若年層である。この世代は幼い頃から、環境保護、気候変動などに関する問題に触れているので、持続可能なファッションまたはファッションを通じて社会問題を緩和することに一定の関心があり、製品そのものだけでなく、製造過程に排出する温室効果ガスの量や企業の環境保全への貢献度といったエシカルな付加価値は間違いなく今後のベトナムアパレル市場のトレンドを形成していくだろう。
終わりに
ベトナムは世界のアパレル生産拠点から、消費市場としても成長著しい。豊富な労働力や次世代のトレンドに敏感な若年層の活躍を武器に、業界で確固たる地位を築きつつあるベトナム。今後のアパレル業界のトレンドや潮流を形成していくであろうベトナムの動向や最新情報に関心がある方は、Archesまでお問い合わせください。
情報参照先:
- VietBiz|ベトナムのアパレル消費額は?市場規模や特徴、EC化率、人気ブランドを紹介|(アクセス日: 2024年10月14日)
- VietBiz|【2024年最新】ベトナムのファッション市場規模やトレンド、EC動向を解説| (アクセス日: 2024年10月14日)
- BIZLAB Magazine|Vietnam Fashion: A Growing Industry with Huge Potential|https://trend.bizlab.sg/blog/2023/06/07/vietnam-fashion/ (アクセス日: 2024年10月14日)
- BIZLAB magazine|Vietnam: Main Fashion Trends in 2022|(アクセス日: 2024年10月14日)