【最新調査】海外商業施設・小売市場に商機あり?人流分析サービス活用の最前線!

出典:Adobe Stock
目次

はじめに:海外進出と人流データ分析サービスの台頭

海外市場への進出を検討する企業にとって、現地の「人の流れ」を把握することは成功のカギである。店舗をどこに構えるべきか、ターゲット顧客はいつどこを行き交っているのか──従来は現地調査員による手作業の交通量調査や感覚的な判断に頼る場面も多かった。

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しかし近年、スマートフォンの位置情報やGPSデータの活用が進み、人流分析サービスによって実際の人の動きをデータで捉えることが可能になっている。特に商業施設や小売業の海外展開では、人流データに基づく市場調査が競争優位を生む手法として注目されている。本記事では、人流分析サービスの基本とその海外市場調査への活用について、具体例やサービス各社の特徴を踏まえながら論じる。海外ビジネス担当者に向けて、最新の人流データ活用トレンドと成功戦略を解説していく。

人流分析サービスとは何か?

人流分析サービスとは、携帯電話のGPS位置情報やWi-Fi接続記録、カメラ画像、各種センサー等から収集したデータをもとに、特定エリア内での人々の移動・滞在状況を解析・可視化するサービスである。例えばスマートフォンの位置情報ビッグデータを統計加工すれば、一定時間内に何人がその場所を訪れたか、どの方角へ移動したか、さらには性別・年代層や居住地域の推定まで把握できる。従来は人手で数えるしかなかった人通りも、今やデジタルデータとしてリアルタイムに取得・分析できるのだ。

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人流分析サービス各社は独自のデータソースと技術を駆使して、こうした人の流れの「見える化」を実現している。通信キャリアの基地局データから算出した大規模統計(NTTドコモのモバイル空間統計など)は全国8500万件規模の契約データに基づき偏りの少ない人口分布を提供する。一方、GPS系の詳細データはより細かな125mメッシュや道路単位で位置を把握でき、契約者の年齢・性別属性まで分析可能なサービスも存在する。こうした技術革新により、人流分析サービスはマーケティング・都市計画から小売店舗の戦略策定まで幅広い分野で利活用が拡大している。

海外市場調査で人流データが重要な理由

海外進出の成否を分ける要因のひとつに、「現地市場をいかに定量的に理解できるか」がある。特に商業施設の出店計画や小売店舗網の構築では、候補地域の人通りや顧客層を事前に把握することが極めて重要だ。ここで人流データ分析が威力を発揮する。人流データ分析は、新店舗候補地の流入・流出人口を調査することで、その地域の混雑状況(ホットスポット)、ピーク時間帯、平均滞留時間といった人々の行動傾向を把握できる。

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人々が地下鉄で高速移動しているのか、地上の商店街をゆっくり歩いているのかといった動き方の違いからも、多くの示唆を得られる。さらに周辺エリアとの比較分析により、未開拓の顧客層へのアプローチ機会や潜在ニーズを発掘し、出店戦略やマーケティング施策の立案に活かすことも可能である。実際、人流データによって客観化された地域の魅力・課題を手掛かりにすれば、効果的な出店計画、テナント誘致、イベント企画に関する有益な示唆が導き出せる。従来は「現場の勘」に頼っていた部分も、データに裏打ちされた戦略へと転換できるのだ。

人流分析サービスを活用することで、海外市場という未知のフィールドでも定量データに基づく意思決定が可能となり、リスク低減と機会損失の防止に直結する。

商業施設・小売業における人流データ活用事例

では具体的に、人流分析サービスは商業施設・小売業の海外展開でどのように役立つのか。その一端を示すのが、新興市場における人流トレンドの把握と国内企業の活用事例である。

新興市場の人流トレンドを読む

まず、海外の成長市場における人流データのトレンドを見てみよう。例えば東南アジアの有望市場ベトナムでは、小売店舗の人流(フットトラフィック)が2024年春の落ち込みから急回復し、2025年5月時点で前年同月比+8.6%という大幅増加を記録した。中部ベトナムは+17.0%と特に力強い回復を示し、南部も着実な増加傾向で2025年5月には+4.6%まで伸長した。また路面店の来店者数は2024年秋から先行して増加に転じ、2025年5月に+6.8%に達した一方、モール型店舗も遅れて追いつき同5月には+13.4%の高成長を遂げている。

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このように人流データを追うことで、消費者の動向変化や業態ごとの回復スピードの違いが把握でき、現地戦略の検討に役立つ。実際、アジア太平洋地域全体でも2024年はインバウンド観光の回復によって主要ショッピングエリアの人通りが活況を呈し、それが小売テナントの出店意欲や賃料上昇にもつながった。つまり人流データは、「どの市場が熱気を帯びているか」「どの業態が勢いづいているか」を示す定量指標ともなりうる。海外市場の成長性を見極めるうえで、人流分析は欠かせない先行指標なのである。

小売企業による人流データ活用:ニトリの出店戦略

人流分析サービスの効果を実感している企業も増えている。国内大手小売チェーンの株式会社ニトリホールディングスは、新規店舗の候補地選定に際してAgoop社の人流データサービスを導入した一例だ。ニトリは国内外に店舗網を拡大する中で、「どのエリアに次の店を出すべきか」の判断材料としてエリアごとの人流データ分析を必要としていた。Agoopの提供する人流統計レポートと50mメッシュ単位の詳細データを自社GISに取り込み、候補地の人出傾向を慎重に検討した結果、新規出店までのリードタイム短縮という効果も得られたという。クラウドサービス型で迅速に導入できるAgoopの強みを活かし、出店計画のスピードアップにつながった形だ。

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このように人流データを細やかかつ的確に把握できるようになったことで、経営陣のビジョンがより現実的なものになったという。単なる勘や経験則ではなく、データドリブンな裏付けをもって海外展開の意思決定ができる点が、人流分析サービス活用の大きなメリットである。

主な人流分析サービスとその特徴

現在、日本発の人流分析サービスも多様な企業から提供されており、それぞれデータソースや強みに特徴がある。海外市場調査に活用し得る主要サービスとして、NTTデータ(BizXaaS MaP)、Agoop(ソフトバンク系)、LocationMind(東大発ベンチャー)、および大手通信各社のサービス(KDDIのLocation Analyzer、NTTドコモのモバイル空間統計など)を紹介する。

NTTデータ(BizXaaS MaP人流分析)

NTTデータが提供する「BizXaaS MaP人流分析」は、GIS(地理情報システム)クラウドサービス「BizXaaS MaP」シリーズの一環として提供されている。最大の特徴は、建物単位・道路単位まで細分化した高精度な人流分析が可能な点である。従来は500mメッシュや町丁目レベルに留まっていた人出データを、一棟ごとの来訪者数や道路・歩道ごとの通行量までピンポイントで推計可能にし、出店候補エリアの絞り込みを飛躍的に精密化した。

また、NTTドコモのモバイル空間統計やGPSプローブデータ、店舗のPOSデータ等をリアルタイム基盤で統合処理し、約1時間前の実世界の状況を再現するデータを生成できる。このリアルタイム人流データとAIモデルを組み合わせることで数時間先の未来予測も可能となり、急激な人波の変化にも対応した需要予測・在庫最適化を実現している。

Agoop(アグープ)

Agoopはソフトバンクグループの位置情報テクノロジー企業で、スマートフォンアプリから得たGPSデータやセンサー情報を駆使した人流分析ソリューションを提供している。特徴的なのは収集データのグローバルカバレッジで、提携アプリ等を通じて世界中から位置情報ビッグデータを蓄積している点である。

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