【海外成功事例】プロテインのアジア市場で何が起きているのか?タイ発2大ブランド「Fitwhey」「HooRay!」の成長戦略に学ぶ

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はじめに—欧米ブランドが席巻してきたアジアのプロテイン市場

アジア太平洋地域のプロテイン市場は、健康志向の高まりとフィットネス文化の浸透を背景に急速な成長を遂げている。2025年には81.1億米ドル(約1兆2,900億円)に達し、2030年には109.6億米ドル(約1兆7,400億円)規模に拡大すると予測されている。

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これまでアジアのプロテイン市場は、Optimum NutritionMuscleTechといった欧米系グローバルブランドが輸入販売されるケースが主流であった。地場プレーヤーは少なく、製造設備の不足や品質への信頼性の問題から、現地ブランドが育ちにくい構造が続いていた。

ところが今、この構造に変化が生じている。現地の消費者ニーズや価格帯に合わせた地場ブランドが台頭し、独自のビジネスモデルで急成長を遂げるという現象が、特にタイで顕著に起きているのだ。

本稿では、プロテインの海外市場調査として、特に著しい成長を見せるタイ市場に焦点を当てる。タイのプロテイン市場は2025年時点で約35億バーツ(約150億円)と推定されており、堅調な拡大が見込まれている。この市場を牽引する代表的な2社、「Fitwhey(フィットウェイ)」と「HooRay!(フーレイ)」のビジネスモデルを対比し、日系企業が海外展開を図る上での示唆を提示する。

Fitwheyとは——輸入販売から自社製造へ、21年の軌跡

タイのプロテイン市場において、圧倒的な存在感を放つのが「Fitwhey」である。同社は、創業者であるダニー(ダヌポン・チリー)氏がわずか19歳の時に立ち上げたブランドであり、現在ではタイ国内ナンバーワンのサプリメント販売会社へと成長している。2025年の売上高は過去最高の12億バーツ(約51億円)、純利益は1億9000万バーツを記録した。

19歳の輸入販売から始まったビジネス

ダニー氏はタイ系アメリカ人のハーフとして米国で生まれ、幼少期に帰国してタイで育った。フィットネスに熱中する中で、「なぜタイ人は高価な輸入プロテインを買わなければならないのか」という疑問を抱いたことが出発点である。当時、タイ国内で流通していたプロテインは輸入品ばかりで、一般の消費者には手が届きにくい価格設定であった。

2005年(19歳)、ダニー氏は米国から有名ブランドのホエイプロテインを個人輸入して販売するビジネスを開始した。規制の壁や税務上の問題に直面しながらも、数カ月で売上は100万バーツを突破。その後も着実に成長を続け、2010年には売上1億5000万バーツに達した。

自社工場の建設と「タイ産」ブランドの確立

輸入販売から10年近くが経過した2013年、ダニー氏は大きな決断を下す。1億バーツを投じて自社工場を建設し、「タイ産のホエイプロテイン」を自ら製造する道を選んだのだ。原材料のホエイプロテインは引き続き米国から100%輸入しているが、製品の配合・製造・品質管理はすべて自社で行う体制を構築した。


この判断は、単なる製造コストの削減にとどまらない。「タイ人のために、タイ人が作ったプロテイン」というブランドアイデンティティの確立こそが、真の狙いであった。自社ブランドとして「BAMM」「VX」「Fit Angle」などを展開し、タイ人の嗜好に合わせたパロー(煮豚)味やトムヤムクン味、ドリアン味といった独自フレーバーを開発したことも、地場ブランドならではの強みである。

「顔出し」マーケティングと品質への絶対的コミットメント

Fitwheyのマーケティング戦略で特筆すべきは、ダニー氏自身が製品パッケージに顔写真を掲載し、「製品に問題があれば私を責めてくれ」と公言している点だ。これは単なる広告手法ではなく、品質への絶対的なコミットメントを消費者に示す姿勢の表れである。

製品はISO 22000、HACCP、GMP、ハラール認証など複数の国際規格を取得しており、3つ以上の国際認定ラボで定期的に品質検査を実施している。「1つ星のレビューを最も重視する」というダニー氏の言葉は、品質管理に対する真摯な姿勢を象徴している。

販売チャネルはLazada、Shopeeなどのオンラインプラットフォームを中心としたD2Cモデルが主軸であり、2024年にはLazada単体での売上が前年比2倍の1億バーツを突破している。

HooRay!とは——「飲みやすいプロテイン」で大衆市場を創造したパイオニア

FitwheyがD2Cモデルでコアなフィットネス層を熱狂させているのに対し、全く異なるアプローチで市場を切り拓いたのが「HooRay!」である。同社は、プロテインを「一部の愛好家のもの」から「誰もが手軽に飲める日常的な飲料」へと変革したパイオニアである。

3年間のR&Dが生んだ「飲みやすいプロテインミルク」

HooRay!は2015年、トン・ウォンデット氏、ジェン・チャチャニー氏、エーク・プルクサラナン氏の3名によって設立された。当時のタイには、プロテインミルク(RTD:Ready to Drink)を製造する技術やノウハウが存在しなかった。粉末を水で溶かす手間、独特の風味に対する消費者の抵抗感、そして「プロテインはハードトレーニングをする人のもの」というイメージの壁——これらのペインポイントを解決するため、同社は約3年の歳月をかけて製品開発に取り組んだ。

その結果誕生したのが、アジア人に多い乳糖不耐症(タイ人の98%以上が乳糖不耐症とされる)に配慮した「ラクトースフリー(乳糖不使用)」かつ、砂糖不使用で高タンパクなプロテインミルクである。「1本で通常の牛乳5杯分のタンパク質」を謳い、Protein Expertとしてのブランドポジションを確立した。

セブン-イレブン導入が生んだ爆発的成長

HooRay!の成長を決定づけたのは、2017年のTHAIFEX(タイ最大の食品・飲料展示会)への出展がきっかけとなったセブンイレブンとの出会いである。2021年に全国のセブン-イレブンでの販売が正式に開始されると、売上は爆発的に増加した。

導入当初は1本69バーツであった価格も、規模の経済が働くことで49バーツへと引き下げられ、より幅広い層にとって手の届きやすい商品となった。売上高の推移を見ると、セブンイ-レブン導入前後の変化は劇的だ。

現在、HooRay!はタイのプロテイン市場(約35億バーツ)の20%以上を占めるまでに成長した。ワークアウト層だけでなく、日常的にタンパク質を補給したい一般層、子供から高齢者まで幅広い層に支持されており、「プロテインを飲む文化」そのものをタイに根付かせた功績は大きい。

同社はOEM生産を採用し、商品ごとに適した技術を持つ工場を選択する柔軟な製造体制を取っている。今後は国際市場への展開も視野に入れており、「Protein of Asia(アジアのプロテイン企業)」を目標に掲げている。

2社の対比から見えてくる、アジア市場攻略の本質

FitwheyとHooRay!は、同じタイのプロテイン市場で成功を収めながら、そのアプローチは対照的である。両社の戦略を並べると、アジア市場でビジネスを立ち上げる際の重要な示唆が浮かび上がってくる。

第一に注目すべきは、「市場のペインポイントの的確な把握」である。Fitwheyは「価格の高さと輸入品への依存」という課題を、HooRay!は「摂取の手間と味への抵抗感」という課題を解決することで、消費者の支持を獲得した。どちらも既存の市場構造に疑問を持ち、そこから事業を立ち上げている点が共通している。

第二に、「自社の強みに特化したバリューチェーンの設計」である。Fitwheyは製造に投資して品質の内製化を図り、販売はデジタルチャネルに集中した。一方、HooRay!は製造をOEMに委ね、製品開発と流通パートナーシップの構築にリソースを集中させた。どちらが正解ということではなく、自社の強みと市場環境を見極めた上での選択が重要なのだ。

第三に、「ローカライズされた価値提供」も注目すべきポイントである。Fitwheyはタイ人の嗜好に合わせた独自フレーバーを開発し、HooRay!はアジア人に多い乳糖不耐症に配慮した製品を生み出した。グローバルブランドの製品をそのまま持ち込むのではなく、現地の文脈に合わせた最適化が、地場ブランドの最大の競争優位となっている。

終わりに

プロテインのアジア市場、特に東南アジア市場は、今後も高い成長が見込まれる有望な領域だ。タイの事例が示すように、この市場では単なる製品の輸出入にとどまらず、現地のニーズに根ざしたブランド構築や製品開発が求められている。

日系企業が海外市場調査を経て進出を検討する際、FitwheyのようなD2Cモデルによるコアユーザー向けニッチトップ戦略をとるか、あるいはHooRay!のようなマスチャネルを通じた市場創造戦略をとるか、自社の強みと市場環境を見極めた上での明確なポジショニングが必要となる。

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また、日本国内の製造リソースに依存するのではなく、アジア域内のOEMネットワークを活用した柔軟なサプライチェーンの構築も、競争力を左右する重要な要素となるだろう。「プロテインの粉を作れる工場が日本にない」という現実は、裏を返せば、アジアのOEM工場との連携によって製造コストを抑えながら高品質な製品を届けられる可能性を示唆している。

タイのプロテイン市場はまだ成長途上にある。Fitwheyは海外輸出にも積極的であり、HooRay!は「Protein of Asia」を掲げて国際展開を視野に入れている。アジアのプロテイン市場を舞台にした地場ブランドの躍進は、今後も目が離せない。

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この記事を書いた人

Aizawa

記事編集クリエイター

大学時代にアメリカへの留学を経験し、その際に異文化への関心が一層深まりました。
現在も海外のライフスタイルに強い興味を持ち、特に北欧やフランスの生活文化をウォッチしています。
これからも読者の皆様に面白い話題を提供できるよう心がけて参ります!

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