中国リチウムイオン電池市場の現状と将来展望~海外進出の鍵を握る最新規制とCATLの動向~

出典:Adobe Stock
目次

はじめに

新エネルギー車(NEV)の普及が加速する中国では、コア部品である車載電池、特にリチウムイオン電池(LIB)が世界市場で存在感を増している。車載電池で世界トップシェアを誇る「CATL(寧徳時代新能源科技)」の存在も、その一因である。中国の車載電池産業が発展した背景には、EVの航続距離や充電時間などの課題を克服する高性能電池の開発、そして、大規模生産によるコスト低減と効率的な生産体制の構築などが挙げられる。本記事では、中国のリチウムイオン電池市場の現状と将来展望について解説する。

中国のリチウム電池市場について

調査会社Fortune Business Insightsによると、世界のリチウム市場規模は、2023年に221億9千万ドルと評価されている。2024年から2032年にかけて、年平均成長率(CAGR)22.1%で成長し、2032年には1,340億2000万ドルに達すると予測されている。

調査会社Emergen Researchのデータによると、世界のLIB市場規模は、2022年に457億ドルに達した。2032年までにCAGR13.1%で成長すると見込まれており、原料・バッテリー生産ともに成長市場であると言える。

一方で、LIBは原料であるコバルト採掘を巡って人道的・環境的な懸念点も内在する。著名な出版会社National Geographicによると、世界のコバルトの70%はコンゴ共和国での鉱山で算出されており、うち15〜30%が「零細鉱山」から調達され、そこではフリーランスの鉱山労働者が「非人間的」で「劣悪」な環境で1日あたりわずか数ドルのために働いているという報告がされている。市場の拡大を目指すにあたり最大障壁となり得るクリティカルな問題であるが、近年IBMはニッケル、コバルト、その他の重金属を含まない新しいタイプのバッテリーを開発し、リチウムイオン技術に関連する人道的および環境的問題を回避するなど、採掘に依存しない原料調達が広がりを見せれば、LIB市場や市場規模推移は前述した値からさらに飛躍した結果に着地するだろう。

なお、調査会社であるStatistaによると、LIBメーカーの世界市場シェアにおいて、世界最大のLIBメーカーは2023年時点で世界シェアの37%近くを占めた中国のCATLという。別の中国メーカーである「BYD(比亜迪)」が、それに次ぐ世界シェア2位となっており、市場占有率は15.9%に達する。ちなみに、世界シェア3位の韓国電池大手、LGエネルギーソリューションの市場シェアは、13.6%となっている。

中国リチウム電池市場とEV普及の関係性

近年の自動車による炭素排出量に対する周囲の環境汚染に対する懸念の高まりを受け、EV需要が増加、日常への浸透が急速に進んでいる。LIBは、スマートフォンやパソコンなどに使用されている小型の民生用で使用されることが大半だったが、マンションや産業用の非常電源などに用途が広がり、特にEV車の普及に伴い車載用のバッテリーとしての使用が主流用途へと変化。今では、EV生産にLIBは必要不可欠な存在となり、EV普及動向とLIB市場は非常に連関するに至っている。

環境汚染の側面では、パリ協定の存在がEV普及やLIB生産に拍車をかけている。パリ協定では、2030年の気候とエネルギーの枠組みに基づいて温室効果ガス(GHG)排出量を少なくとも40%削減することを目指しており、各国政府は炭素排出量を削減および制御するために厳格な排出基準の導入。現に、世界各国で打ち出される環境規制の影響を受け、2017年から2022年の間にバッテリー式電気自動車(BEV)の販売台数は10倍に増加、EVの大規模な生産拡大を受けて、リチウム需要は500Tテラワット時以上に上昇している。

前述した内容に加え、中国における市場シェアや業界成長が著しいのは、EVに使用されるバッテリー電池の高額化問題を解消したことに起因する。従来は電池容量が大きく航続距離の長いEVは高額になり敬遠される傾向があったが、中国の開発主対象とされる鉄とリン酸を使用した安価なLFP電池の改良により、必要十分な航続距離を確保でき、自動車各社がこぞって採用に踏み切っているからである。

また、JETROの報告書によると、蜂巣能源科技の楊紅新・董事長は、2023年4月末に開かれたCABIAの年次総会で講演にて、過去の10年間でLIB価格が生産規模の拡大で当初より8割低下、今後も電池の累計生産量が倍増するごとに、電池の単位コストが17%ずつ逓減していくことを指摘したことに触れている。つまり、中国メーカーはEV普及を受けてLIBの大量生産により生産コストの抑制に成功しているのだ。一方、2023年に入ってから各メーカーの投資ベースが緩やかとなっておりEV需要の伸び鈍化と、電池各社が生産能力の拡大競争を繰り広げ大量生産をしてきた結果、電池の在庫がにわかに膨張している。しかし、過剰生産部分を輸出することで活路を見いだそうと、各メーカーは海外市場に目を向けているため、獲得した効率的な生産能力は今後も縮小などの軌道修正せずとも問題ないと見込まれている。

中国EV電池の覇者「CATL(寧徳時代新能源科技)」

CATL(寧徳時代新能源科技)は2011年に創業された新しい企業である。中国でEVへの補助金政策が開始されたのは2010年であり、EVの国策の変遷とともに事業を拡大してきた、まさに自国産業育成の成功例である。創業わずか6年後の2017年にはパナソニックを抜いてEV用車載電池の出荷量で世界トップに躍進、翌2018年には株式を上場。2023年に中国、韓国、日本などの競合他社を抜いて世界最大のLIBメーカー(2022年時点で世界シェアは37%)になり、現在は中国、ドイツ、ハンガリーに13の生産拠点を運営している。時価総額でも一時、アリババや国有銀行などを追い抜いて中国最大に上り詰め圧倒的な存在感を示している。アメリカ経済紙Forbesによれば、創業者で董事長の曽毓群(Robin Zeng)の保有資産は、2021年に345億ドルに達し、世界富豪ランキングの42位にもなった。

CATLは創業者である曽氏が起業したわけであるが、その前に新能源科技(ATL)を創業しそこで民生用バッテリーを製造、世界的な地位を確立している。そこでのノウハウや事業運営基盤が大いにCATLに受け継がれ、ゆえに6年という短い期間で車載バッテリーメーカー世界トップの座に上り詰めることができたのではと考えられている。

CATLは2023年10月、ハンガリー東部で計画していた工場を着工したことを公表。ドイツ工場に次いで欧州で2番目の工場となる。ハンガリー工場では、メルセデス・ベンツ、BMW、ステランティス、フォルクスワーゲン(VW)などの欧州系自動車メーカーに納入する電池セルとモジュールを製造する。前述の自動車メーカーなどへの工場への卸しを目的とし、現地市場のニーズに即時に対応するためであろう。この事例に倣い、各中国メーカーはドイツ、ハンガリーなどへの投資を増やしており、CATLを中国メーカーの動向を予測するためのベンチマークとして注視していきたい。

変化する中国LIB市場、 最新規制で何が変わる?

2023年3月16日、中国国家市場監督管理局(SAMR)は国家市場監管総局の2023第10号公告として「リチウムイオンバッテリー等の製品に対し強制性製品認証(CCC認証)管理を実施する件に関する公告」を公表。同公告によって、2023年8月1日より、指定の認証機関は、「リチウムイオンバッテリーとバッテリーパック」、「モバイルバッテリー」、及び「電気通信端末機器用ACアダプタ/充電器」のCCC認証申請を受け付けし始め、2024年8月1日より、CCC認証許可書を取得せず、CCC認証マークを表示していない対象製品は、出荷、販売、輸入またはその他の事業活動に使用してはならないことになっている。

また、中国工業情報化部は2024年6月に「リチウムイオン電池業界規範条件」の2024年版を発表。同規範条件は、LIB業界の企業を対象とし、生産活動で満たすべき水準などを示している。これまでも単純な生産能力の拡大を抑制する方針は一貫して示されており、毎年の研究開発や製造工程の改良にかかる費用が年間売上高の3%を下回らないことや、申請時の前年度の生産量が生産能力の50%を下回らないなどの条件も、2021年版から引き続き盛り込まれた。一方で、制定目的に関する記述では、従来の「産業の健全な発展の推進」から「質の高い発展の推進」へと文言が変わり、各製品性能に求める具体的水準は、ほとんどの項目で2021年版から引き上げられた。

終わりに

CATLをはじめ、様々な中国メーカーを主として世界市場が形成されている昨今のLIB市場。政府主体の優遇策により企業の台頭・成長が目立った2020年代前半、今後は各種規制を設定し製品の質にもこだわり、中国メーカーの世界市場における地位を確固たるものにしようと試みている。今後の中国LIB市場や各メーカーの動向や最新情報に関心がある方は、Archesまでお問い合わせください。

情報参照先:

この記事を書いた人

Aizawa

記事編集クリエイター

大学時代にアメリカへの留学を経験し、その際に異文化への関心が一層深まりました。
現在も海外のライフスタイルに強い興味を持ち、特に北欧やフランスの生活文化をウォッチしています。
これからも読者の皆様に面白い話題を提供できるよう心がけて参ります!

  • URLをコピーしました!
目次