【海外市場攻略】急成長するASEANペットフード市場とは?日系企業が押さえるべき最新トレンドと参入戦略

はじめに——アジアにおけるペット市場成長の背景
近年、アジア市場におけるペットフード需要が急速に拡大している。アジア太平洋地域のペットフード市場規模は2025年に約3,712億ドルに達し、2030年には5,819億ドル規模に拡大すると予測されており、年平均成長率9.4%という力強い伸びが見込まれる。この成長の原動力は、都市化や所得向上に伴うペットブームと「ペットの家族化(ペットを家族同然に扱う傾向)」である。実際、アジアにはペット一頭あたり年間支出が世界最高水準の市場も存在し、香港ではその額が1,289ドル(日本の約5倍)に達している。ペットを「子供」のように可愛がり、高品質な製品に惜しみなく支出する消費者層がアジア各地で拡大しているのである。

とりわけ成長著しいのが東南アジア(ASEAN)のペット関連市場である。タイやインドネシア、ベトナムといった国々ではペットブームに沸いており、ペットフードを中心に市場規模が年率二桁近い成長を続けている。例えばタイではペットフード市場が年8%超の成長を遂げ、2026年には約604億9,500万バーツ規模に達する見通しとされている。アジア新興国の中間層拡大とライフスタイル変化が追い風となり、ペット関連ビジネスは今後ますます有望な分野として注目を集めている。
本記事では、東南アジア主要国におけるペットフード市場(ASEAN市場)の特徴とニーズを分析し、日系ペットフード企業と海外(欧米)企業の戦略比較を行う。さらに、日系企業がアジア進出する際に直面する課題とその解決策について考察し、最後に海外市場調査・戦略立案の重要性についてみていく。
アジア主要地域ごとのニーズと市場特徴(タイ・インドネシア・ベトナム)
東南アジアの中でも特に市場規模が大きく成長著しいタイ、インドネシア、ベトナムのペット関連市場について、それぞれ地域性や消費者ニーズを見ていく。
タイ:少子化で進むペットブームとプレミアム化
タイでは近年ペットブームが顕著で、郊外のベッドタウンや幹線道路沿いに大型ペットショップ「ペットモール」が次々と開業し、フードやケア用品からペットサロン、クリニックまで併設する総合施設も登場している。背景にはタイの少子高齢化による家族観の変化がある。
タイの特殊出生率は約1.4人と日本並みに低迷し、その結果「子供の代わりにペットを飼う」層が増加した。2022年のマヒドン大学の調査では、ペット飼育者の80%以上が独身者で、約49%が子供の代わりにペットと暮らすいわゆる“ペットペアレント”だと報告されている。子供を持たない夫婦や単身者がペットを実の子供のように可愛がる傾向が強まっており、それがペットフードや関連サービスへの旺盛な支出につながっている。

実際、タイのペット関連市場規模は2021年時点でペットフードだけで406億バーツに達し、高品質なプレミアムフードやペット向けサービスが好調である。特に近年は猫ブームも起きており、もともと犬が人気だったタイで猫の飼育数が急増、犬猫比率が拮抗しつつある。このようにタイではペット(ペットフード)東南アジア市場の中でも最先端を行くプレミアム化が進んでおり、日系企業にとっても魅力的な市場であると言える。
インドネシア:猫が主役の巨大市場と若年層の台頭
インドネシアは人口規模がASEAN最大であり、ペットフード市場もアジア太平洋地域で「最大級の一つ」とされるほど大きな潜在力を持つ。特徴的なのはペットの主役が圧倒的に猫である点である。イスラム教徒の多い同国では宗教観から犬より猫を好む傾向が強く、「ペット=猫」という意識が定着している。

実際、2022年時点で飼育されている猫は約510万匹に上り、犬の6倍以上にも達する。世帯の約47%が少なくとも1匹の猫を飼い主として迎えており、とりわけ16〜24歳の若年層が飼育者の70%を占めるというデータもある。これはマンションなど狭い住環境でも飼いやすく、散歩の手間も少ない猫の特性が若い都市生活者にマッチしたためと分析されている。若年層による猫ブームはSNS文化とも相まって拡散し、猫の人気はとどまるところを知らない。
こうした中、インドネシアではペットフード支出も急増している。ペットフード海外市場調査によれば、インドネシアにおける猫1匹あたり年間ペットフード支出額は年々増加し、2022年には291.9ドル(約4万5千円)に達した。物価水準の違いを考慮すれば米国にも匹敵する高水準であり、ペットに良いものを与えたい「ペットの家族化」志向が支出を押し上げていることが分かる。その結果、プレミアムペットフード需要が爆発的に伸びており、2016〜2021年の5年間でプレミアムキャットフード売上高は年平均+30.2%という驚異的な成長を記録した。
Royal CaninやShebaといった国際的プレミアムブランドは同国でも人気が高く、高品質・高価格帯の製品が市場を牽引している。流通面では依然としてオフライン店舗が売上の68%を占めるが、オンライン(EC)が32%に達しており、都市部を中心にネット通販でペットフードを購入する層も増加中である。急成長するインドネシア市場では今後もペット関連支出の拡大が続く見通しであり、「日本製品の高品質なイメージ」を武器に現地ニーズに応えることができれば、大きなビジネスチャンスが生まれるだろう。
ベトナム:急伸する市場と輸入ブランド中心の構造
ベトナムでもここ数年、都市部若者を中心に犬や猫を飼う人が増え、市場が立ち上がっている。かつてベトナムではペットには人間の食事の残り物を与えるのが一般的であったが、最近では「ペットの健康を考えて専用のペットフードを与える」飼い主が大都市圏で急増しており、市場拡大の原動力となっている。市場調査会社Statistaの推計によれば、ベトナムのペットフード市場規模は2023年時点で約7,312万米ドルに達し、今後2028年まで年平均8.47%という高い成長が期待されている。若い世代を中心に「ペットも家族」という意識が芽生えつつあり、ペットのヘルスケアや栄養に気を遣う層が拡大しているのである。
ベトナム市場のもう一つの特徴は、流通している製品の多くが輸入ブランドで占められている点である。Pedigree(米国)やRoyal Canin(欧州)をはじめ、タイ・日本・韓国など各国から輸入されたペットフードが店頭に並び、正規代理店経由の商品と並行輸入品が混在して販売されている。国内生産も試みられているが、現状ではごく小規模で、需要の大半は海外製品で賄われている。
そのため、消費者は高品質な海外ブランドへの信頼感を持つ一方で、価格帯は幅広く、高級志向から安価な並行品まで多様である。近年、ホーチミンやハノイといった都市では欧米や日本・韓国など海外製品を扱うペット専門チェーンが増えており、日本企業にとっても参入しやすい土壌が形成されつつある。もっとも、公式輸入ルートと並行輸入が混在する市場ではブランドコントロールや価格管理が課題となるため、進出にあたっては現地の流通構造を十分に調査・理解する必要があるだろう。
ペットフード企業の戦略比較:日系企業と欧米企業のアプローチ
グローバルに展開する欧米の大手ペットフード企業と、これからASEANに挑もうとする日系企業とでは、市場戦略にいくつかの違いが見られる。ここでは製品戦略・販売チャネル・ブランディングの観点から、両者のアプローチを比較する。
製品戦略の違い(プレミアム vs. マス)
欧米大手は科学的な栄養研究に基づく高付加価値製品でブランドを築いている。例えばRoyal Caninは品種や年齢ごとに細分化したフードを展開し、獣医師や愛好家の支持を得ている。
一方、東南アジアにはタイのPCG社(スマートハート等)のように地場で大量生産し低価格で提供するプレーヤーも存在し、市場のボリュームゾーンを押さえている。日系企業が海外市場へ進出する場合、こうした既存プレーヤーと差別化する戦略が不可欠である。

鍵となるのはニッチでも品質重視のプレミアム路線である。日本企業は徹底した品質管理や独自技術を強みに持つため、無添加やヒューマングレード原料を売りにした製品、例えばフリーズドライ製法の高栄養ペットフードなどで勝負する戦略が考えられる。実際、フリーズドライのペットフード需要はアジアでも着実に伸びており、アジア太平洋のフリーズドライ・ドッグフード市場規模は2024年時点で約4.8億ドル、2025年以降は年6.8%成長が見込まれている。こうしたプレミアムニーズを捉える製品展開は、価格競争に陥らずブランド価値を高める上で有効である。
販売チャネル戦略の違い(オフライン vs. オンライン)
欧米系ブランドは伝統的に専門店や獣医チャネルを重視し、現地ディーラー網を築いてきた。例えば高級フードは獣医師の推薦による販売が信頼獲得に繋がるため、クリニック併設のショップなどに強みを持つ傾向がある。一方で東南アジアではEコマースの台頭も無視できない。若年層を中心にShopeeやLazadaといったオンラインモールでペット用品を購入する習慣が広がり、国によってはオンライン比率が市場の3割を超える。
日系企業は実店舗向けの卸販売だけでなく、こうしたオンラインチャネルでの直販やデジタルマーケティングにも注力する必要がある。幸い、日本発の製品は品質イメージが高いため、SNSや口コミで話題になればオンライン経由で一気に広まる可能性がある。現地の人気ペットインフルエンサーとタイアップする、オンライン上でサンプル配布キャンペーンを行う、といったデジタル時代ならではの戦術も有効である。
ブランディングとマーケティング(信頼構築と現地適応)
欧米企業は長年のグローバル展開で培ったブランド力を持ち、テレビCMや大型店頭プロモーションなど大規模マーケティングを展開する資金力がある。対して日系企業が新興国に参入する際は、まず現地での信頼構築からスタートする必要がある。具体的には、「日本製=高品質・安全」というブランドイメージを前面に打ち出しつつ、現地消費者の嗜好に合わせた商品開発やパッケージ表示のローカライズが重要である。例えば、宗教上の禁忌に配慮した原料選定(インドネシアでは豚由来成分を避ける等)、人気のフレーバー調査(タイでは鶏肉味が好まれる等)など、細かなマーケティングリサーチが成果を左右する。
また、ペットイベントへの協賛や現地動物病院との連携セミナー開催など、草の根のブランド浸透活動も信頼獲得に有効である。中国市場の例であるが、2023年に開催された「Pet Fair Asia」では日本から30社がジャパンブース出展し、中国の急成長するペット市場で販路開拓を図っている。このように各国の市場動向や消費ニーズを踏まえて戦略的にチャネル開拓・ブランド浸透を進めることが、日系企業には求められる。
日系企業がアジア進出で直面する課題と対策
急成長するペットフード海外市場は魅力的な一方で、日系企業にとって乗り越えるべきハードルも存在する。最後に、東南アジア市場に進出する際によく直面する課題を整理し、それぞれの対策の方向性について述べる。
1.流通網の構築

東南アジアでは国ごとに流通構造が異なり、適切なディストリビューター選定が成否を分ける。都市部と地方で販売網が分断されている場合も多く、現地有力企業との提携や物流インフラの整備が欠かせない。対策としては、各国のペット専業卸や小売チェーンとパートナーシップを結び、自社製品の確実な店頭展開を図ることが重要である。また、Eコマース経由で直接消費者にリーチする戦略も並行して検討すべきである。
2.各国規制への対応
ペットフードの輸入規制や品質基準、表示ルールは国ごとに異なる。例えばインドネシアでは近年ペットショップに関する規制が強化され、店舗でのトリミング提供禁止など新たなルールが設けられた。知らずに進出すると想定外の制約に直面しかねない。事前に現地の関連法規を調査し、必要に応じて製品処方や表示を調整することが不可欠である。現地官庁への登録手続きや検疫条件も専門家の助言を仰ぎ、計画段階から十分に織り込んでおくべきである。たしている。
3.価格競争と収益性
新興国市場では低価格帯の商品も多く、日系企業が日本と同じ価格設定で臨むと競争力を欠く恐れがある。とはいえ安易に値下げすれば収益を圧迫して持続性を失う。解決策としては、前述のようにプレミアム路線で差別化し適正価格を維持する一方、現地生産や原料現地調達の検討も視野に入れることである。

タイは世界的なペットフード生産ハブでもあり、将来的にタイ工場からASEAN向けに供給することでコストダウンとスピード供給を実現する戦略も考えられる。
4.文化・嗜好の違い
ペットに対する価値観や人気のペット種、好まれるフードの風味など、文化的要因も市場攻略の鍵である。例えば上述の通りインドネシアでは猫関連製品の充実が必須であるし、タイでは猫用のウェットフードやおやつ需要が高まっている。各国のペットオーナーの嗜好を現地リサーチで把握し、その国ならではの商品ラインナップを揃える柔軟性が必要である。パッケージデザインも現地語表記や親しみやすいビジュアルに工夫し、ローカライズ戦略を徹底すべきである。
5.ブランド認知と信頼構築
名前も知られていない新規参入企業がいきなり成果を出すのは容易ではない。信用第一のペット領域では特に、「このブランドなら安心」という認知を地道に育てる努力が求められる。現地代理店任せにせず、自社も積極的にSNS発信やイベント参加でユーザーとの接点を作るべきである。ユーザーレビューへの迅速な対応や、サンプル配布による製品体験促進も有効である。日本企業ならではの丁寧な顧客対応やアフターサービスも差別化要因となる。小さな信頼の積み重ねがブランド資産となり、長期的な市場定着につながるのである。関連する抽出・組立工程に関して可能である。
まとめ:事前準備と市場調査の重要性
アジア(特にASEAN)のペットフード市場は高成長が期待できる魅力的なフィールドである。しかし、市場ごとに異なるニーズや競争環境を的確に捉えた戦略立案がなければ、せっかくのビジネスチャンスを生かせない。進出にあたっては事前の海外市場調査と入念な準備が何より重要である。
市場規模や成長率のデータ分析はもちろん、現地消費者の嗜好、競合他社の動向、流通チャネルや規制の詳細まで把握することで、リスクを低減し成功確率を高めることができる。例えばフリーズドライ製品に注目する場合でも、各国の需要トレンドや競合状況を踏まえて現地向けの商品開発を行うことで、ヒット商品を生み出す可能性が高まる。
Archesでは、東南アジアの消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、東南アジアにおける各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等、幅広く日本企業の海外進出を支援しています。ぜひお気軽にお問合せください。
情報参照先:
- Mordor Intelligence|アジア-太平洋地域のペットフード市場規模・シェア分析 -産業調査レポート -成長トレンド| (アクセス日: 2025年5月28日)
- Euromonitor.com|ペットケア、国内市場は鈍化、アジア市場は力強い成長|(アクセス日: 2025年5月28日)
- ジェトロ|タイの日用品・ライフスタイル市場(8)急成長するペット関連市場|(アクセス日: 2025年5月28日)
- インドネシア総合研究所|〖コラム〗インドネシアで高まる猫人気とペットフード産業の展望| (アクセス日: 2025年5月28日)
- ジェトロ|ベトナムにおけるペット用品市場調査(ベトナム・ホーチミン発)|(アクセス日: 2025年5月28日)
- Grand View Research|Asia Pacific Freeze Dried Dog Food Market Size & Outlook, 2030|(アクセス日: 2025年5月28日)
- ジェトロ|「ペットフェア・アジア2024」開催、出展規模拡大してジャパンブース設置(中国)| (アクセス日: 2025年5月28日)
- QIX BIZ Studio|東南アジアのペット市場からみる日本のペット市場の可能性| (アクセス日: 2025年5月28日)
- First Reach|タイ産プレミアムペットフードの販売促進に向けた取り組み|(アクセス日: 2025年5月28日)