【徹底解説】OEM化粧品のアジア進出成功戦略:東南アジア3ヵ国に見る市場動向と課題

はじめに
近年、日本のOEM化粧品メーカーにとって、アジア市場は大きな成長機会を提供している。特に東南アジアは、「人口ボーナス」と呼ばれる若年層の多さ、中間層の台頭、EC普及の進展などを背景に、D2C化粧品ブランドやOEMメーカーの進出先として注目度が高まっている。本稿では、インドネシア・タイ・ベトナムの3ヵ国を中心に、「OEM化粧品 × アジア市場」の現状と展望、さらに日系企業が直面する課題とその対処法について詳しく解説する。
東南アジア3ヵ国に見る市場ニーズと地域特性
東南アジアは国ごとに文化的背景や宗教、経済発展のフェーズが異なり、化粧品に対する価値観や消費スタイルも大きく異なる。そのため、OEM化粧品メーカーが進出する際には、単に「アジア市場」と一括りにするのではなく、それぞれの国の特性とトレンドを正確に把握することが成功の鍵となる。以下では、インドネシア、タイ、ベトナムの3ヵ国について、代表的なニーズと特徴を紹介する。
インドネシア
2億7,000万人超の人口を擁するインドネシアは、世界最大のイスラム教国であり、ハラール認証の取得がビューティビジネスの基本条件とされる市場である。

化粧品分野では、スキンケア、メイクアップともに「ハラール対応」や「ナチュラル成分」を重視する消費者が多く、美白やアンチエイジング製品の人気が高い。インフルエンサーの影響力が極めて大きく、特にInstagramやTikTokでのレビューが購買に直結する傾向にある。また、2026年にはハラール認証義務化が予定されており、輸入化粧品にとっては事前対応が必須である。
タイ
タイはASEANの中でも比較的高い所得水準と成熟した美容意識を持つ市場である。バンコクを中心とした都市圏では、欧米や日本ブランドへのロイヤルティも高く、美白・UVケア・敏感肌向け製品が人気である。仏教文化圏であるためハラール認証の義務はないが、周辺国への越境を見据えた対応も重要だ。消費者はパッケージのデザインや使用感、香りにも敏感であり、「心地よさ」と「見た目」を重視する傾向がある。
ベトナム
経済成長が著しいベトナムは、Z世代を中心に美容消費が活発化しており、韓国コスメや日本製コスメへの信頼も根強い。
※ベトナム ヴィーガンコスメ「Cocoon」
近年はオーガニックや自然派スキンケア、アクネケア製品などの需要が拡大しており、自然成分・敏感肌対応への意識が高まっている。また、ベトナムではTikTok ShopやShopeeといったECチャネルを活用する若年層が多く、D2Cモデルとの親和性が高いことも特徴である。
OEM化粧品企業のグローバル戦略比較
東南アジア市場に進出しているOEM化粧品企業は、日本企業だけでなく、韓国・欧州・中国など世界中から多国籍なプレイヤーが参入している。各国企業はそれぞれの強みを活かした戦略でアジア市場のシェア獲得を狙っており、その手法や価値訴求の違いは、日系企業にとっても有益な比較材料となる。ここでは、韓国、日系、欧州の3つのタイプに分けて、主要な戦略の特徴を見ていく。
韓国系:スピード・トレンド対応に強み
韓国のKolmar KoreaやCOSMAXなど大手OEMは、商品開発のスピード感と、最新トレンドへの即応性において他国企業より一歩先を行っている。K-Beautyブームを牽引したこれらの企業は、韓国本社に大規模なトレンドリサーチ部門やR&Dセンターを設置し、ソーシャルメディアやグローバル市場での消費者ニーズを常時監視している。
また、処方開発から容器設計、パッケージ提案までを一貫して提供する「フルターンサービス(Total Solution)」を標準化しており、クライアントブランドのD2C立ち上げにも柔軟に対応できる体制を整えている。さらに、インドネシアやタイに現地法人・生産拠点を持つことで物流と納期の最適化を図り、現地市場の対応力も高い。 トレンド分析やマーケティング部門を自社内に持ち、現地ブランドとの協業にも積極的である。また、自社工場を現地に設けるなど、物流と商品開発の地産地消化を進めている。
日系:品質・安全性に対する信頼感
日本のOEM企業は、「安心・安全」「高品質」というブランドイメージに強みがある。TOA、東洋ビューティー、ミリオナ化粧品などは、長年の化粧品製造技術を背景に、薬機法やGMP基準に基づいた製造・品質管理を徹底しており、医薬部外品や敏感肌用化粧品などの高機能商材で差別化している。
一方で、開発〜製造までのリードタイムがやや長く、現地トレンドの即時反映には課題を抱えるケースもある。そのため、ベトナムや中国に製造拠点を構える企業も増えており、「中身は日本製+現地充填」のハイブリッド型や、現地ブランドとの共同開発といった柔軟なモデルに転換しつつある。
近年は、香りや処方を現地消費者向けにローカライズした「アジア向けOEMライン」の開発も加速している。 日系OEMは、「日本製品質」として高い評価を受けており、医薬部外品や敏感肌用など、機能性や安全性において強みがある。一方で、スピード感やマーケティング連携に課題を持つ企業も少なくなく、進出後の現地適応力が競争力の分かれ目となる。
欧州系:高級路線とナチュラル志向で差別化
欧州のOEM企業、特にイタリアのIntercosやフランスのFarevaは、「高級感」「サステナブル」「ナチュラル」をキーワードに差別化を図っている。
これらの企業は、天然由来成分やオーガニック認証を取得した処方に強みを持ち、欧州の厳しい化粧品規制(REACH、COSMOSなど)に準拠した製品を数多く展開している。
タイやシンガポールなどの富裕層市場では、「欧州製=高品質・高級感」のイメージが強く、エステサロンやスパ向け業務用化粧品をOEM供給する事例も多い。また、クリエイティブ性の高いパッケージデザインや香水発想の処方設計により、ライフスタイルコスメ市場にも浸透し、こうした感性訴求とナチュラル処方の融合が、アジアにおけるプレミアムブランド構築に寄与している。 欧州系OEMはナチュラル処方・高級ラインを得意とし、タイやシンガポールなど富裕層マーケットで支持を得ている。特に欧州の規制適合製品は、「クリーンビューティー」「サステナブル処方」などのテーマに敏感な層に刺さりやすい。
OEM化粧品アジア進出のポイント
アジア市場でOEM化粧品を成功に導くためには、単なる輸出ビジネスとしてではなく、現地市場に根ざした事業戦略を構築することが重要である。特に東南アジアの消費者は「日本製」に対して一定の信頼を寄せつつも、実際の購買に至るかどうかは価格、使用感、販売チャネル、ブランドイメージなど複数の要因に左右される。

現地ニーズを正確に捉えた製品設計(処方、香り、パッケージ、表現のチューニング)や、インフルエンサーやライブコマースを通じた認知拡大施策、さらには薬事・輸入制度への対応力を含むトータルの事業戦略が必要である。
また、製造の面でも「すべてを日本国内で完結させる」従来の方式から脱却し、現地製造、現地最終加工、ローカルパートナーとの分業など、柔軟かつ戦略的なアプローチが重要となっている。こうした複数要素の組み合わせによって、ブランドとしての競争優位性が形成されていく。
日系企業が直面する課題とその解決策
東南アジア市場は可能性に満ちたフィールドである一方、進出時にはいくつかの典型的な課題がある。1つ目は、薬事規制と制度対応の煩雑さである。インドネシアのBPOM、タイのTFDA、ベトナムのMOHなど、各国で成分登録や販売許可の申請が求められ、申請書類は現地語での提出が必要となるケースも多い。ハラール認証や動物実験禁止など、国ごとに異なる倫理・制度のハードルも高い。
製品・ブランドのローカライズ不足も課題になりやすい。香りや色味、パッケージデザイン、ネーミングなどが現地の文化や嗜好に合っていないと、消費者の心をつかめない。日本の“おとなしさ”が、アジアでは「インパクト不足」と評価されるケースもある。
3つ目に、マーケティングと販売チャネルの現地最適化が挙げられる。オンライン販売が主流となりつつある中で、現地ECモール、インフルエンサー、ライブコマースなどの活用が進まなければ、競合に埋もれてしまう。単に「良い製品をつくる」だけでは通用しないのが今のASEAN市場である。
これらの課題を乗り越えるために、成功している企業の多くは次のような実践的なアプローチを採っている。まず、中身日本製+現地最終仕上げというハイブリッド生産モデルを導入する企業が増えている。これは、スキンケアやメイクアップの中身(基剤や有効成分)を日本国内の工場で製造し、容器への充填や最終包装を現地のOEM工場で行う方式である。これにより「Made in Japan」の品質保証を維持しつつ、パッケージや表示言語の現地適応、輸送コストの削減、短納期化などの利点を享受できる。さらに、現地生産比率を高めることで、関税優遇や現地規制への柔軟対応も可能となる。
次に、現地OEM企業やD2Cブランドとの戦略的協業が有効である。たとえば、既にベトナムやタイで顧客基盤を持つローカルD2Cブランドに対し、日本企業が中身の処方や機能性成分の提供を行い、OEMとして製造面を支援する事例が増えている。このモデルでは、現地パートナーが持つ販路・消費者理解・マーケティング力を活かしながら、日本の技術と品質を融合した“共同ブランド”を立ち上げることも可能となる。
さらに、SNS・EC特化型のマーケティング戦略を日本側で設計し、現地人材と連携して運用する体制づくりも成功の鍵となる。現地で人気のプラットフォーム(例:TikTok、Shopee、Instagram)での販促においては、文化や言語の違いに即した発信が求められるため、現地クリエイターやインフルエンサーと協働することが効果的だ。一方で、全体の戦略設計やPDCAサイクルは日本本社が主導することで、ブランディングの一貫性を保ちつつ、投資対効果を高めることができる。

最後に、香り・色・訴求表現のA/Bテストによるブランドチューニングを実施することで、現地市場との“感性のズレ”を埋める企業が増えている。たとえば、同一処方で香りだけを変えた2種類の試作品をSNS経由でモニター提供し、どちらが好まれるかを計測する。パッケージの色合い・キャッチコピーなども同様にテストを繰り返すことで、「現地の肌感覚に合ったプロダクト設計」が可能となる。こうしたユーザーテストの積み重ねが、最終的なLTV(顧客生涯価値)を高める重要な要素となる。
まとめ:市場理解と現地連携が成功の鍵
OEM化粧品メーカーがアジア市場、とりわけ東南アジアに進出する際には、「日本品質」の訴求だけでは不十分である。現地の文化、消費動向、制度への適応力が問われる時代においては、ブランド戦略・マーケティング・製品設計のすべてにおいて「ローカル・ファースト」が求められる。
Archesでは、東南アジアの消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、東南アジアにおける各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等、幅広く日本企業の海外進出を支援しています。
情報参照先:
- Fortune Business Insights|ASEANコスメーティカル市場の規模と成長| (アクセス日: 2025年5月23日)
- 経済産業省|化粧品産業の持続的な発展における今後の方向性に関する調査| (アクセス日: 2025年5月23日)
- Alibaba Reads|東南アジアの美の展望2026:国別インサイト|(アクセス日: 2025年5月23日)
- ジェトロ|インドネシアの化粧品市場の動向|(アクセス日: 2025年5月23日)
- YCGアドバイザリー|タイの化粧品・パーソナルケア製品業界の現状とビジネスチャンス| (アクセス日: 2025年5月23日)
- 山田製薬|化粧品OEM市場の最新トレンドを徹底解説| (アクセス日: 2025年5月23日)