海外進出で成功する5つの秘訣:中国家電業界の成長から読み解く
はじめに
かつては、コピー品ばかりが目立った中国の家電業界であるが、中国経済の発展に伴い、デザイン・品質・アイデアともに目覚ましい成長を遂げている。1990年代には、中国で製造し、海外市場への輸出が中心だった「メイド・イン・チャイナ家電」であるが、現在では、中国の国内市場に向けた新しい家電が次々に発表され、国内各都市で家電ショーも数多く開催されている。今回は、急成長を遂げる中国の家電業界の現状と、その背景にある要因を分析し、日本企業が中国市場に進出する際のヒントを探る。
中国製電化製品の「今」
現在の中国は、スマート家電保有率でアメリカを抜いて世界1位、また日本国内の家電市場の約8割は中国家電メーカーが占めているといった、世界有数の家電大国へと成長している。主要企業としては、美的集団(Midea)、海爾集団(Haier)、格力電器(GREE)、海信電器(Hisense)、長虹電器(Changhong)などが挙げられる。近年では、中国ブランドの家電製品が目立つ場所に置かれるようになり、その存在感を増している。品質に厳しい日本市場でも、中国家電は「安価」な製品というイメージを払拭し、国内製や欧米ブランドと肩を並べるほどの人気を獲得している。
中国では、デジタルネイティブ世代を中心に、スマホ連動やネットワーク家電への需要が高く、日本や欧米と比べて、新しい技術が受け入れられやすい傾向にある。例えば、Xiaomiのスマート体組成計は、スマホと連携して体重や体脂肪率などのデータを管理できる製品として人気を集めている。また、美的集団のAIカメラ搭載オーブンは、食材の種類や量を自動で認識し、最適な焼き加減に調整してくれる機能が好評である。
中国では業界ごとに製品の同質化が進行しており、家電業界も例外ではない。日本では、家電や自動車など製造業の分野ごとに東芝やSONYのように名の知られた大手メーカーが存在する。大手メーカーは最終製品を作ることで利益を上げており、消費者に販売する最終製品を作る最上流に位置し、個別の部品を大手メーカーに納品する中小企業が連なるエコシステムが構築されている。それゆえ、見た目も機能もそっくりな製品があちこちの会社から売り出されるという現象はあまり見られない。
一方で、こうした大手メーカーごとに構築されるエコシステムといったビジネス形態は、中国ではあまり見られない。深セン周辺には数千を超える中小の製造企業があるが、多くの会社は最終製品を作っている。部品や加工の会社も多くあるが、特定の企業とだけ取引するといったことはなく、幅広い取引先に部品を供給している。その結果、ちょっとでもヒットした製品はお互いコピーされ、性能、外見とも似たような家電製品となる。 一過性ではない成長を望むのであれば、企業ごとの独自性の追求やブランド力の強化といったマーケティング努力が今後はより必要になってくるであろう。
中国の成長を読み解く3つのキーポイント
「世界の生産工場」としての基盤
飛躍的な発展を遂げた中国の家電業界の成長は、世界の生産工場であった経緯が大きく影響している。1980年代から、日本メーカーだけでなく、世界中の多くのメーカーが安い労働力を求め生産拠点を中国に構えるようになった。入り口は大量生産に適した環境ということだったが、中国政府からの要請もあり、現地の国有企業に対し技術や基幹部品の供給も同時に実施された。
また1990年代に入ると、国内でのブランド力や市場シェアを外資合弁の交換条件とし、海外資金と技術を導入する動きも見られるようになった。これが功を奏し、様々なメーカーが持つ技術が中国に集結・蓄積するようになり、結果として中国産業を支える技術人材の育成に繋がった。2019年の世界の家電売上高トップ3は、いずれも中国メーカーが占め、1位の美的集団(マイディア)は398億ドル、2位の海爾集団(ハイアール)は268億ドル、3位の格力集団(グリー)は285億ドルと、中国勢が家電業界を席巻している状況が見て取れる。一昔前の中国製品は、品質の低さも懸念されたが、日本メーカーが生産拠点を構え日本製品に求める品質基準を適用したものづくりを行ったため、中国製の家電製品も、品質面では日本製と肩を並べるまでになった。
海外進出を見据えた事業環境
中国の家電メーカーの多くは、製造技術導入を目的とした海外企業との提携や合併を積極的に行い、各国で法人を設立し、現地生産を実現してきた。また、現地法人のトップや生産部門、販売部門などにおける重要ポストには現地の人材を採用し、ローカライズを実施している。さらに、90年代からは他社ブランドの製品を作るOEM (相手先ブランドによる製造)を行わず、米国の安全規格であるUL規格を取得、製品の国際標準化を整えた。広大な大地と人口の多さから内需だけで経済が回るとも言われている中国だが、ローカライズや国際標準に合わせた製品開発などといった海外市場への展開も見据えた動きにより、グローバルシェアの占有により大規模な収益獲得、パンデミックや一部の市場経済が悪化しても企業全体への影響を抑えられる強固な事業環境の構築に成功した。
例えば、海爾集団(ハイアール)は、15年連続で大物生活家電の世界トップシェアを走るメーカーであるが、国際標準に基づいた自社ブランド製品販売によって、他メーカーとの差別化を図り、金額重視のユーザーへ向けたローエンド市場の開拓を実現している。グローバル展開にも力を入れており、Casarteブランドを中心にしたハイエンドモデルにおいて高い評価を獲得している。現在、中国のHaier・Casarte・Leaderをはじめとして、日本のAQUA、米国のGE Appliances、イタリアのCANDY、ニュージーランドのFisher & Paykel、の7つの家電ブランドを保有・運営し、多国籍企業として海外でもプレゼンスを誇っている。
割安路線から高級路線へ
以前は先進国の企業へ対抗するため、コスト競争や割安路線を選択せざるを得ない状況が続いたが、事業環境の整備、海外進出の準備ができ始めた頃から、高級路線による製品開発を選択するメーカーが増加した。「海爾集団(ハイアール)」は、前述の方針展開により海外市場向けハイエンドブランド事業で48.1%の大幅な増益を実現し、5年連続で36%の年平均成長率を達成している。その牽引役とも言えるのが高級家電ブランド「Casarte(カサルテ)」であり、40%超の収益押し上げに寄与している。また、アリババや京東で例年出していたGMV(流通取引総額)を出さないほど消費が落ち込んだ2022年には、大手家電販売店蘇寧電器における5万元以上のハイエンド家電製品の売上は前年同期比139%増という結果を叩き出し、家電業界の全体的な不調が続く中、ハイエンド化を進めた家電メーカーの業績を支えた。
高級家電は、スマートホーム化や生活の質向上を求める世界的な消費トレンドにうまく合致している。特に、ゲームやスポーツなどの激しい動きにも対応できるゲーミングテレビや、薄型冷蔵庫や健康除菌機能付洗濯機などの付加価値のある製品などの売上は好調である。スマートフォンでも似たようなトレンドがあり、XiaomiやOPPOなどの中国メーカー各社が製品価格を上げて中高級製品をリリースしている。
中国らしさと先端技術を融合させた注目すべき家電たち
中国では、毎年、様々なジャンルの新製品が登場し、消費者の購買意欲を刺激している。中国の家電市場は飽和状態にあり、中国メーカーは、差別化を図るために、先進的な技術やユニークな機能を搭載した製品開発に力を入れている。ここでは、調理家電とマッサージ機器を例に、中国らしさと先端技術を融合させた、注目すべき製品を紹介する。
自動調理器
世界3大食文化の一つである中華料理は、炒める料理が多く、火力や油量の調整が難しいことから、調理の負担が大きいという課題がある。 そこで近年、自動調理器が注目されている。
Xiaomi:炒める、煮る、絞る、切る、食材を洗う、麺をこねる等35の作業を行う自動調理機器
TINECO:料理機本体とは別に各種調味料を入れる外付けのタンクがあり、必要量をその都度供給する自動調理機器(さらに調理が終わった後には自動で内部を洗浄)
マッサージ機器
中国では、中医学に基づいたマッサージ「推拿」が人気だが、施術師不足が深刻化しており、手軽にマッサージを受けられるマッサージ機器の需要が高まっている。
Breo:中医学の漢方マッサージをワンスイッチで再現するマッサージ機器
SKG:温感療法を4つのモード×15段階の強弱により提供するマッサージ機器
終わりに
世界中から技術を吸収し、目覚ましい発展を遂げてきた中国の家電業界。中国の家電メーカーは、先端技術を駆使したハイエンド製品や、消費者の生活を豊かにするアイデアを盛り込んだ製品を次々と開発している。中国の家電業界では、日本のような垂直統合型のエコシステムが確立されていないため、優れたデザインや品質、消費者ニーズを捉えた製品開発を行うことで、日本メーカーにも中国市場でのシェア獲得のチャンスがある。また、中国ではEC市場が急速に発展しているため、オンライン販売を効果的に活用することで、海外企業でも中国市場に進出しやすくなっている。
今後の中国の電化製品の動向やマーケティング戦略のシフトについて関心がある方は、ぜひArchesまでお問い合わせください。Archesでは、中国の消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、中国における各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等幅広く日本企業の海外進出を支援しています。
情報参照先:精査中
- 財務省|我が国における最近の資金循環について|(アクセス日: 2024年11月18日)
- DgLab Haus|【家電×UX】ユーザーの行動から見る「新しい家電体験」とは?| (アクセス日: 2024年11月18日)
- 日本経済新聞|ナラティブの街|(アクセス日: 2024年11月18日)
- 科学技術振興機構|地域経済の活性化|(アクセス日: 2024年11月18日)
- breo|breoについて|(アクセス日: 2024年11月18日)