【東南アジア男性美容市場の攻略法】メンズコスメ成長トレンドと日系企業の海外戦略とは

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はじめに

化粧品売り場から「FOR MEN(男性用)」の表示が消えつつある。世界的に「男性はこうあるべき」という固定観念が急速に変化しつつあり、男性向けコスメ市場が年々拡大している。フランスのマクロン大統領が就任後わずか3ヶ月でメンズメイクに約300万円費やしたとの報道も話題になった。またコロナ禍でリモート会議が定着し、自分の映り方を気にしてスキンケアやメイクに関心を持つ男性も増えたと言われる。こうした世界的潮流の中、特にアジア市場において男性美容(メンズ美容)の需要拡大が顕著である。中国・韓国などの東アジアから東南アジア各国まで、男性が美容に投資する動きが広がっているのだ。本記事では、男性美容市場の海外動向、とりわけ東南アジアを中心とした最新トレンドと、日系企業がこの商機をつかむためのポイントを考察する。

世界規模で拡大する男性美容市場

男性の美容意識の高まりに伴い、世界の男性用コスメ市場は堅調に拡大している。過去の統計では、2010年代半ば時点で既に市場規模が約120億ドルに達し、その後もアジア太平洋地域を中心に年平均8%前後の高い成長率が続いてきた。最新の推計では、2023年には世界のメンズグルーミング市場は約555億ドルとなり、2024年には約616億ドルへと拡大している。こうした増勢を受け、アジア太平洋地域では2023年に約149億ドル、2024年には約167億ドル規模に成長しており、地域全体が今もなお国際的マーケットで強い存在感を示している。

実際、アジア地域は現在、世界全体の美容・パーソナルケア市場の約3分の1を占めており、男性向け製品もその重要な一角を担っている。特にアジア太平洋ではスキンケアが主要カテゴリとして突出しており、今後も安定した成長が見込まれている

この世界的市場拡大を牽引する要因としては、ジェンダーニュートラル志向の高まりとデジタル時代のマーケティングが挙げられる。調査によれば、Z世代(18〜22歳)の約40%が性別を問わない美容製品に関心を示しており、従来の「男性用・女性用」といった分類に捉われない商品展開が進んでいる。

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また各国で男性アイドルや著名人がメイクアップを公言したり、美容ケア情報をSNSで発信するなど、男性美容を肯定する発信が普及したことも市場拡大に拍車をかけている。ユニリーバのAXEやP&Gのジレットといった大手ブランドのみならず、新興スタートアップによるメンズコスメも台頭しており、オンライン専業でユニークな強みを打ち出すブランドも増えている。つまり男性美容は今や一時的な流行ではなく、安定成長が見込まれる世界的マーケットへと成長しているのだ。

アジアで加速するメンズコスメ需要

世界の中でもアジア市場における男性美容ブームは特筆に値する。アジア太平洋は既述の通り巨大な美容市場だが、中でも中国や韓国、日本を含む東アジア、そしてASEAN諸国を中心とする東南アジアで男性向け商品の需要拡大が目立っている。

中国・韓国に見る男性美容マーケットの急成長

「美容大国」と呼ばれる韓国や巨大市場の中国では、男性の美容ニーズが既に大きなビジネスとなっている。例えば韓国では、男性1人当たりのスキンケア支出額が米国男性の10倍以上に達するとの調査もあり、市場規模は2018年時点で約1兆2,800億ウォン(約1,186億円)に上ったと報告されている。

韓国のドラッグストア大手「オリーブヤング」では男性向けメイクアップ商品の売上が前年から76%も増加し、特にリップケア商品は前年比約21倍に急伸するなど、スキンケアに留まらずメンズメイク市場が爆発的成長を遂げている。シャネルが男性用メイクライン「ボーイ・ドゥ・シャネル」を世界展開する際、まず韓国で先行発売したことからも、韓国市場のプレゼンスが伺える。韓国発のジェンダーレスコスメブランドも登場しており、LAKAのように男女問わず支持を集めるブランドが短期間で成功を収めた例もある。

一方、中国でも近年メンズコスメ市場が驚異的なスピードで拡大している。中国中央テレビの報道によれば、2016年時点で「絶対に化粧品は使わない」と回答した中国人男性が全体の3割いたが、2019年にはその3割が2/3減少した(つまり「絶対使わない」層が約10%程度に縮小)と伝えられた。今や多くの中国人男性にとって化粧品は身近な存在になりつつあることを示すエピソードだ。実際、中国の男性向け化粧品市場規模は2023年に5,400億元(約11兆円規模)に達するとも言われ、市場ポテンシャルの大きさが指摘されている。

背景には、若年男性の間で動画SNS(TikTokなど)のメイク動画が流行し「お洒落な男性像」が浸透してきたこと、そして女性のパートナーに求める条件が収入より「容姿」を重視する傾向に変化してきたことがあるという。要するに中国では「見た目を良くすること」が若い男性にとっても競争力の一部となりつつあり、その意識変化が市場を押し上げているのだ。

東南アジアに広がる男性美容トレンド

東南アジア地域でも男性美容への需要は急速に高まっている。市場調査会社GWIのデータによれば、2021年以降で東南アジアにおける「メイクアップ製品を購入した男性」の数は23%増加したという。この躍進の背景には、男性セレブがメイクを公にする姿や、化粧品ブランドのインクルーシブなマーケティング戦略が大きく寄与している。東南アジアの消費者は若年人口が多くデジタルへの親和性が高いことから、新しいトレンドの受容が早い。結果として東南アジアは今後数年間、世界平均を上回る美容市場の成長率(プレミアム市場で年8.2%成長)が見込まれる有望市場と位置づけられている。

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国別に見ると、例えばタイでは「男性が美白肌を保つこと」に抵抗が少ない。背景には「色白は金持ちの証」といった文化的イメージがあり、富裕層に見られたい男性ほどスキンケアに積極的だという。実際、タイの男性用化粧品市場規模は2013年に約1,099億バーツだったが、2018年には約1,487億バーツへと5年で35%以上拡大している。市場内訳を見るとスキンケアとヘアケアがそれぞれ2〜3割を占め、2000年代以降ドラッグストアにはニベアやロレアルなどグローバルブランドの商品が並ぶようになった。タイでは男女問わず人気のロングセラーブランド「シーチャン」の美白クリームが5年半で累計500万個以上売れた例もあり、男性消費者もその支えとなっている。

インドネシアでは20〜30代ビジネスマンを対象にした調査で「社会人としてふさわしくありたい」「成功者に見られたい」と考える男性が多く、その延長でスキンケアに気を配る傾向があるとの結果も報告された。清潔感や身だしなみがビジネス上の成功に繋がるという意識が、男性向け美容商品の需要を支えているのだ。さらに同国は若年人口が多く経済成長も著しいため、今後も化粧品市場全体が経済以上のペースで成長を続けると見られている。男性美容も例外ではなく、この巨大市場を狙って中国・韓国企業も積極参入している状況である。

日系企業が海外メンズ美容市場で成功するポイント

東南アジアを含む海外の男性美容マーケットは魅力的だが、日系企業が参入・拡大するには独特の課題に対応した戦略が求められる。以下、成功のカギとなる2つのポイントを解説する。

現地競合との戦い方

既に多くの国では韓国・中国系ブランドが先行し市場競争が激化している。例えばインドネシアでは、輸入化粧品の50%超が中国製品で占められており、韓国勢も20%を占める。彼らは現地生産に踏み切り低価格を実現する企業も多く、日本製品は価格面で不利になりがちだ。さらに韓国ブランドはK-POPやドラマと連動した巧みなプロモーションで若者の心を掴んでおり、広告宣伝に投下する予算規模も日本企業を上回るケースが多い。

日系企業は自社の強み(品質や技術、安全性など)を軸にしつつ、現地競合にはない独自の価値提案を明確に打ち出すことが重要となる。またマーケティング面でもローカルの文化・トレンドを取り入れた工夫が求められる。例えば韓国企業が自国発のカルチャーを武器にしたように、日系も「日本発」の信頼感やトレンドを活用しながら、各国消費者に響く訴求を検討すべきである。

商品適応とニーズ把握

メンズ美容と言っても国や地域により求められる製品・効果は様々だ。タイなら美白効果の商品が受け入れられやすく、インドネシアなどイスラム圏ではハラール認証が安心感に直結する。またインドネシア男性は「さっぱりとした使い心地」や「清潔感」に価値を置く傾向があり、日本製の日焼け止めや洗顔料が好評だったとの報告もある。

このように現地消費者の嗜好や文化的背景に合わせて商品開発・改良を行うことが不可欠だ。パッケージデザインやブランド名についても、国によっては名称の意味合いに注意が必要だ。実際インドネシアでは、最近になって当局が「製品名は成分を直接想起させるものであるべき」との姿勢を強めており、日本では問題ない商品名が使用不可になるケースも出てきている。各国の規制や文化に照らし、商品コンセプトを柔軟に調整する姿勢が求められる。

終わりに

最後に強調したいのは、事前の市場調査と戦略的準備の重要性である。海外のメンズ美容市場は魅力的だが、各国で消費者特性や競合環境、法制度が大きく異なるため、日本企業が勘や国内経験だけで挑むのは危うい。現地の最新トレンドやユーザー嗜好を把握するには、市場レポートの参照はもちろん、実際に現地消費者の声を集める定性調査も有効だ。

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例えば男性消費者が美容アイテムに求める価値(清潔感、流行追随、自己表現 etc.)は国によって異なる。日本では「他人より良く見られたい」が動機の上位に来るのに対し、他国では「美容ケアそのものが好きだから」が理由になるなどの違いも報告されている。こうした微妙な差異まで理解した上で商品コンセプトやマーケティングメッセージを練ることが、現地で共感を得る鍵となる。

総じて、海外でメンズ美容ビジネスを成功させるには「情報戦」を制することが肝要だ。入念な市場調査に基づき現地ニーズを洞察し、それを反映した商品・戦略で臨めば、急成長中の男性美容市場で大きなビジネスチャンスを掴めるだろう。アジア各国で男性の美容志向が高まる今、日本企業にとっても海外市場で飛躍する絶好のタイミングである。まずは専門機関や現地ネットワークを活用しながら、市場理解を深めることから始めてほしい。綿密な準備とローカライズ戦略によって、この「メンズ美容」海外市場というブルーオーシャンで大きな成果を収められる可能性は十分にあるのだ。

情報参照先:

この記事を書いた人

Kitagawa

記事編集クリエイター

趣味は旅行で、アジアを中心に様々な国を訪れています。
現地の人々の生活や文化に触れることで、新しい視点や気づきを得られるのが楽しみです。
好奇心旺盛な性格を活かして、常に新鮮な目線でお届けできればと思います!

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