【ベトナム市場攻略】ヴィーガンコスメ「Cocoon」成功事例に学ぶ海外展開

目次

はじめに

近年、ベトナムでは、消費者の間でヴィーガンコスメの人気が高まっている。ヴィーガンコスメとは、動物由来の成分を使用せず、動物実験も行われていない化粧品のことである。ベトナムでは、都市部を中心にヴィーガンライフスタイルやクリーンビューティの考え方が広がり、特に若年層でヴィーガンコスメの利用が増えている。ベトナムは人口が多く、若年層の割合も高いため、ヴィーガンコスメ市場は今後も拡大すると予想される。また、ベトナムは、化粧品の原料となる植物が豊富に生育しているため、ヴィーガンコスメの開発に適した環境であると言える。本稿では、ベトナムで人気を集め、海外展開も成功しているヴィーガンコスメブランド「Cocoon」を事例に、ヴィーガンコスメブランドが競争力を強化するためのポイントについて解説する。

ヴィーガンコスメブランド「Cocoon」とは

「Cocoon」は、2014年に創業したベトナムのヴィーガンコスメブランドである。Cocoonは「繭」という意味である。これは、ベトナムの消費者がCocoonの製品を使って、美しく変化していくことを願って名付けられた。Cocoonの製品は、ベトナムの物価を考えると比較的高価格帯であるが、都市部のドラッグストアやショッピングモールなどで広く販売されており、高い人気を誇っている。Cocoonは、パッケージにノンラーをかぶった女性のロゴマークを採用し、ベトナム産の植物由来の美容成分を使用するなど、ベトナムらしさを前面に打ち出している。

ベトナムでの成功を読み解く2つのポイント

天然資源の利用、持続可能性への重点をおいた活動など数多くの魅力をもつ「Cocoon」だが、ベトナムで成功を収められたのは、ベトナム文化への理解の深さとヴィーガンブランドである証明によるところが大きい。後述にて、2つのポイントについて深掘りする。

ベトナムらしさを打ち出した製品開発

ベトナム産の原料を使用した製品づくりは、現地サプライヤーとの関係強化、消費者からの親近感の醸成、という2つの観点からポジティブ効果を生み出している。

現地サプライヤーとの関係強化:現地原料にこだわり、中国と国境を接する東北部カオバン省のバラや南部ベンチェ省の冬瓜、ウコン、ダクラクコーヒーなどの在来植物や果物を使った製品づくりに徹底している。それゆえ、農家から直接購入することで地元の農業をサポートしつつ、製品の鮮度と効能を確保するといった好循環を生み出している。

消費者からの親近感の醸成:ベトナムのユニークな天然成分を製品に取り入れるだけでなく、香りからパッケージスタイル、命名規則まで、あらゆる面で強いベトナムのエッセンスが継承され、地元文化への深い理解と強い尊敬なくして成立しない独自性を発揮。「Cocoon」は、文化が持つ本来の価値や意味を意図する「文化の真正性」を活用し製品の魅力を高め、地元の消費者との強い感情的なつながりを構築している。このつながりにより、伝統的に韓国の美容ブランドが優勢だった市場において、ベトナム風にアレンジした同様のモダンなパッケージとスタイリングを採用し、ベトナムブランドとしての地位を築き上げることに成功。

国際認証取得による信頼感の獲得

一般的な化粧的に使われる動物由来の成分を使わず、植物からの抽出物で製品を開発したり、原料のサプライヤーとも協力し、全製造過程を通じて動物実験を行わないことなどをブランド理念に掲げているのが大きな特長である「Cocoon」。2020年には、開発から製造まですべてのプロセスにおいて動物実験や残虐行為を行っていないと認められた化粧品が認証を受けられるヴィーガン認証「Leaping Bunny(リーピング・バニー)」の認証を取得。リーピング・バニーの認証は、ベトナムの化粧品ブランドで初めての快挙であり、ベトナムにおける「Cocoon」の存在感を引き立たせている。他にも、ヴィーガン協会、米動物愛護団体PETA(「動物の倫理的扱いを求める会」)からのヴィーガン国際認証も取得。

ヴィーガンコスメは、化粧品におけるヴィーガンの定義は、「コラーゲン等の動物由来の原料を一切使用せず、動物実験を行わない」ことが業界共通の認識となっているものの、一部のハチミツを使用した化粧品でヴィーガンと商品名に冠しているものもあるが、厳密にいえばハチミツは動物由来であるため、ヴィーガンコスメには該当しないなどの事象も多く発生しており、定義にしっかり沿った信頼できるヴィーガンコスメが少ないといった状況がある。そのため、ヴィーガン認証、特に国際レベルの認証を取得しているとなれば、消費者も購入時の意思決定がしやすくなり、その点が広い支持を獲得できている要因と言えよう。また、「Cocoon」はパッケージに各取得済み認証マークを記載し、消費者にわかりやすく発信している点も他ブランドとの差別化に一役買っている。

「Cocoon」から読み解く市場における競争優位性

ここまで、「Cocoon」のブランド力に注目してきたが、事業戦略やマーケティング方法にも他社が参考にすべき工夫が多く存在する。

強固なブランドアイデンティティの確立

前述した「ベトナムらしさを打ち出した製品開発」の観点は、今後の市場動向を鑑みるとどの企業も意識すべきポイントかもしれない。企業が所属する地域・コミュニティの文化を発信することによる社会への還元は、地域やコミュニティといかに強いつながりを築くことができるかで事業の成功を左右するアジアでの事業展開では特に必要な観点だ。「Cocoon」は、Made in Vietnamを打ち出した製品展開で、ベトナム製品の使用を奨励する政府の支援や助成金の恩恵を受けている。補助金や投資を調達できるかという点においても、地域・コミュニティに根差したブランドアイデンティティの確保は有効であるかもしれない。

D2Cモデルの実践

「Cocoon」は販売店を介さず、企業と消費者の直接的取引を可能にする「Direct-to-Consumer (D2C) モデル」を採用している点で、従来の大手化粧品企業との業態と異なる。このモデルは、消費者との直接的な関わりを促進し、ブランドを支持するファンやコミュニティを育むのに最適で、なおかつ消費者の好みに関する詳細なフィードバックも受け取ることができるため、消費者が求めている製品の開発を可能にする。

実際に、「Cocoon」はMeta(旧Facebook)などのSNSを利用し「Discover Vietnam」という消費者と相互交流を可能にするキャンペーンを実施し、新製品の幅広い周知を実現した。また、地元アーティスト「Suboi」ともコラボをし、それによる影響で18〜25歳の年齢層における売上をあげている。他にも、ニキビができやすい肌用の「N15」というセラム製品において、消費者からのフィードバックにより、スポイトではなくポンプディスペンサーに変更、その結果顧客満足度を高めることに成功した。消費者との直接的な交流は、顧客エンゲージメントの向上、強いては売上の着実な伸長につながる。特に、ヴィーガンブランドのように特定層のエンゲージメントが収益の大半を占める事業は、このモデルの活用の良し悪しが事業成功の鍵を握るだろう。

 ECの活用

Guardian、Watsons、Hasaki、Nutycosmetic、Thế Giới SkinFood、Lam Thảo などの店舗での実店舗展開に加え、強力なEC基盤を確立している。また、Shopee、Lazada、TikTok Shopなどの主要なオンラインプラットフォームを活用して売上を伸ばし、顧客の幅広いアクセス性と利便性を確保。さらには、オムニチャネルアプローチには、Lazada などの電子商取引プラットフォームへの直接的なプロモーション費用の支出が含まれるものの、KOLを利用してソーシャルメディアマーケティングキャンペーンから実店舗に顧客を誘導することも実施するなど、存分にECを活用し事業を展開し、わずか2年で売上を2020年の約130億VNDから2022年には1,840億VNDにを伸ばしている。コロナ禍を経て、オンラインショッピングがますます身近な存在となった中、オンライン上における流通経路や顧客接点の幅広い確保、またオンライン・オフラインの購買体験の一体化が重要であることを象徴している。

日本でも手に入るように

「Cocoon」は、急速な成長を遂げ、ベトナム全土の約 2,000 の販売拠点で販売されている。これまでに挙げた事業内外の様々な取組みが大きく評価され、LazMall Brand Awards 2022 で「ベトナムブランドオブザイヤー」にも選出された。その後、ベトナムだけにとどまらず、マレーシア、シンガポールといった東南アジアの国への進出も実現、今年はついに日本上陸も果たした。ベトナムブランドというマーケティング観点だけでなく、D2CモデルやEC活用といった事業戦略の観点でも非常に参考になる新興企業である「Cocoon」。今後の動向や「Cocoon」をはじめとする、ここ近年で急速に成長するベトナム企業の事例に関心がある方は、Archesまでお問い合わせください。

Archesでは、ベトナムの消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(文化や習慣に配慮したマーケティング戦略を含む)、ベトナムにおける化粧品規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等幅広く日本企業の海外進出を支援しています。

情報参照先:

この記事を書いた人

Aizawa

記事編集クリエイター

大学時代にアメリカへの留学を経験し、その際に異文化への関心が一層深まりました。
現在も海外のライフスタイルに強い興味を持ち、特に北欧やフランスの生活文化をウォッチしています。
これからも読者の皆様に面白い話題を提供できるよう心がけて参ります!

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