シンガポール加工食品市場の未来はどうなる?成長要因と課題を分析

目次

はじめに

食品市場の中でも、加工食品は多様さと技術革新が急速に発展を遂げている。加工食品とは、食材に何らかの加工を施した食品を指し、ソーセージ、ベーコン、缶詰、インスタントラーメンなど、多様な食品が含まれる。現代の食品技術により、加工食品の種類と量は年々増加し、特に中高所得国では、人々の加工食品の消費が拡大している。一方で、従来の加工食品の概念を超え、植物性由来食品や培養肉といった、新たな技術で生まれた加工食品も勢力を拡大している。本記事では、近年目覚ましい成長を遂げるシンガポールの加工食品業界の実態と傾向について解説する。

シンガポールの食品市場について

シンガポールは消費食品の9割を輸入に依存しており、自国生産はわずか1割に留まる。農業に適した大地の欠如、国土の面積に限りがあるため、食品の自生産ではなく食品を輸入し、そこに付加価値をつけ再輸出する加工食品産業が、シンガポール政府の奨励もあって発展してきたという経緯がある。COVID-19パンデミックの発生により加工食品の原料となる食品の輸入が減少したことにより、一時市場が伸び悩む時期があったものの、2021年の市場は堅調な伸びを示すまでに回復。現在は、食糧安全保障の強化を目的とした投資と政府のイニシアティブの増加も相まって、2023年から2028年の間に2.0%のCAGRで成長することが予測されている。

シンガポールの加工食品市場規模

2022年4月には、JTCフードハブSenoko内に最先端の食品技術施設FoodPlantが落成し、さらに2026年までに200のシンガポール食品メーカーが400の新製品を生み出すことの支援を計画している。また、シンガポール食品庁(SFA)は、地元農家が生産能力と能力を拡大するための革新的な農業技術とシステムを開発するため、6,000万米ドルの農業食品クラスター変革(ACT)基金を設立すると発表した。こうした要因がシンガポールの食品加工市場の成長に大きく寄与している。

産業別に見ると、2022年の結果では第三次産業が売上の半数を占める。パック詰め食品の小売販売の増加の背景には、消費者が利便性を求めるライフスタイルの変化が、需要を後押ししている。例えば、スナックの小売売上高は2018年の7億1360万ドルから2022年には8億1250万ドルに増加し、さらに2026年には9億9000万ドルに達すると予測されている。セグメント別に見ると、2022年の結果では鶏卵が29%、シーフードが8%、食肉が11%を占めている。さらに、シンガポールは、生産能力を拡大・最適化するための農場への資金提供に総額2億2,000万ドルを割り当てており、これにより卵と水産物の地元生産が増加し、このセグメントの成長を促進した。

シンガポールの食品加工部門は小規模で、主に中小企業で構成されている。主な製品は、調味料、ソース、惣菜、麺類、惣菜肉、ソーセージ、菓子、チョコレート、スナック、飲料(ビールを含む)などである。

シンガポールの輸出入先(加工肉)

原材料の9割を輸入品に依存し、主な輸入先は、マレーシア、欧州、中国(生鮮野菜)であり、乳製品はオーストラリアとニュージーランドからも多く輸入している。米国もまた、乳製品、加工野菜、油脂、食品調製品、食材の主要な供給国である。

シンガポールの「新たな」食品加工企業

伝統的にシンガポールの加工・原料部門は、ごま油やソースなどの調味料を取り扱う中小企業が大部分を占めていました。ところが近年では、「4. シンガポール食品加工市場の動向」にて後述するエシカルな消費や人権意識など消費者からの需要や社会要請に呼応する加工食品企業が増えてきました。植物由来食品の消費は、かつては一過性のブームと捉えられていましたが、今では食生活の一部として定着しつつあります。世界の植物由来食品のファストフードのパイオニアである「VeganBurg(ビーガンバーグ)」もシンガポールの企業です。今回は、注目を集めている新進気鋭の加工食品企業を3つ紹介します。

Shiok Meats

2018年8月、筋肉、脂肪、幹細胞生物学の分野で20年以上研究してきたSandhya Sriram博士とKa Yi LING博士によって設立された「Shiok Meats」。Shiok Meatsは業界で初めてカニの培養肉を開発し、さらに東南アジア初の養殖赤身肉会社であるGaia Foodsも所有している。 (※”Shiok” は、シンガポールで「最高」や「とても美味しい」といった意味で使われるスラング)

Flaot Foods

植物性の代替卵の開発と生産を実施。従来の代替卵は、スクランブルエッグや卵焼きなど、溶き卵を使った料理にしか利用できなかったが、目玉焼きの状態を再現しつつ、味や食感、そして栄養でも従来のものに劣らない代替卵を開発できたことが特徴。

シンガポールは、年間で20億個近い卵を消費する国である。しかし、淡路島ほどの国土面積しかなく、消費する卵のうち74%を輸入に依存している。シンガポールの人々が現在の食文化を今後も楽しんでいけるために、先端技術を活用して食文化保護を試みている一例。

Tindle


植物性の鶏肉を製造している。製品には、地元で採れたココナッツオイルや水、大豆、ひまわり油などを使い、遺伝子組み換え作物や抗生物質などは一切使用していない。地元産の食材を使用することで、輸送に伴う環境負荷を抑え、体に優しい代替肉を製造している。

シンガポール食品加工市場の動向

2010年代から健康への関心は一定数あったが、新型コロナウイルスの影響もあってかここ数年で飛躍的に人々の健康に対する意識や食糧安全保障への関心が高まっている。特にシンガポールはその傾向が強く、理由としては国土・資源の制約から食糧の安定供給、持続可能性、環境について考える機会を多くもち、多民族国家な背景も影響して、倫理、宗教に配慮した食習慣が幅広く存在することが考えられる。そのため、ベジタリアンやビーガンを選択する人も多く、植物由来食品や培養肉といった新たな食品もスムーズに受け入れられてきた。植物由来食品はシンガポールで特に人気を博しており、過去4年間の平均累積成長率は12%超えを記録している。


その中でも「Beyond Meat(ビヨンド・ミート)」と「Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)」に牽引された植物性タンパク質市場の人気は、2022年もシンガポールと東南アジア地域全体で安定している。 培養肉領域でも、世界初実験室で培養した鶏肉を販売することを承認した世界で唯一の国であることは特筆すべき事例である。(2020年、シンガポールの規制当局は、サンフランシスコに本拠を置く新興企業「Eat Just, Inc.(イート・ジャスト・インク)」に対し、実験室で培養した鶏肉をチキンナゲットの形で一般販売することを承認した)

シンガポールでは、食品の透明性と持続可能性に対する需要が高まっており、消費者の関心は食品の生産地や流通経路に寄せられている。また、食品廃棄物や包装の削減にも関心が集まっている。法規制に関しては、食品加工基準、食品安全、食品添加物物質などの分野を網羅する**食品販売法(シンガポール法令第283章)**がすべての食品関連企業に適用される。この法律は、シンガポールの食品業界全体を規制する上で重要な役割を果たしている。

上記の規制的枠組みとは別に、シンガポールにはフードテックの発明を保護するための知的財産の枠組みもある。例えば、ミートレス食品の特許保護は、原材料から最終食品そのものに関連する抽出・組立工程に関して可能である。

シンガポールの強力なイノベーション環境

シンガポールは2020年に、強固な「30 by 30」計画(2030年までに食料の30%を地元で生産する)を掲げ、1000億SGDの予算を投じることを発表した。具体的には、従来の新鮮食材や加工食品だけでなく、そして植物由来食品や培養肉といったシンガポールが誇る先端技術でこそなし得るイノベーションを持って作られた食品も含まれる。シンガポールの科学者たちは、特に通常の屠殺肉と比較して、培養肉は持続可能であることに同意しており、培養肉の生産コストは2030年までに大幅に低下すると予測している。培養肉の生産を拡大すると、必要な土地はわずか10%になると考えられており、畜産業を強化するより植物由来食品や培養肉の生産を奨励する方が現実的な選択肢と言えるであろう。

植物由来食品や培養肉の生産をより拡大し、一般消費者に普及させるためには、投資、開発、研究、法規制などの枠組みが必要である。シンガポールでは、Enterprise SG、EDB(経済開発庁)、A*STAR(科学技術研究庁)、SFA(シンガポール食品庁)、NRF(国立研究財団)などの政府機関が既に協力し、フードテック産業が今後さらに大きな成長を遂げるための強力で強固な基盤を作り出している。

終わりに

シンガポールは加工食品産業のみならず、植物由来食品や培養肉などのフードテックも牽引している。限られた国土面積を克服し、食品業界で確固たる地位を築きつつあるシンガポール。今後の食品業界のトレンドや潮流を形成していくであろうシンガポールの動向や最新情報に関心がある方は、Archesまでお問い合わせください。

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この記事を書いた人

Aizawa

記事編集クリエイター

大学時代にアメリカへの留学を経験し、その際に異文化への関心が一層深まりました。
現在も海外のライフスタイルに強い興味を持ち、特に北欧やフランスの生活文化をウォッチしています。
これからも読者の皆様に面白い話題を提供できるよう心がけて参ります!

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