【海外市場調査】全個体電池・準個体電池:2026年実装の最前線となるアジア三極の動向とは?

はじめに
本レポートは、エネルギー密度と安全性の両立において「ゲームチェンジャー」と目される全固体電池(ASSB)および準固体電池(SSB)のグローバル市場を、多角的に分析したものである。2025年から2026年にかけての最新動向を基に、中国の先行実装戦略、日韓の技術的完成度、そしてインド・ASEANの市場ポテンシャルを詳説する。
2026年、電池市場は「理想」から「実装」の検証フェーズへ
リチウムイオン電池(LIB)の限界を突破する次世代技術として、全固体電池は長らく「理想の電池」として語られてきた。しかし、2026年の産業界が直面しているのは、実験室レベルの成功ではなく、量産化への「死の谷」をいかに越えるかという冷徹なリアリティである。
現在のグローバル市場は、2027年以降の全固体電池投入を狙う日本・韓国勢と、液体系LIBの設備を流用し「準固体(半固体)電池」として早期実装を進める中国勢との間で、戦略的な分断が起きている。日系企業にとっての要諦は、この技術的過渡期において、どのレイヤー(材料・装置・システム)で主導権を確保するかにある。2026年は、準固体電池のスケールアップと、全固体電池の工学的課題解決を同時並行で進める「検証の年」となるだろう。
中国:準固体電池(半固体)で先行する「実装のリアリティ」
中国は、次世代電池においても「実装ファースト」の戦略を鮮明にしている。全固体電池の完成を待たずに、既存の液体系電池の製造ラインを一部改良して生産できる準固体電池を市場に投入し、実環境でのデータを蓄積している。
準固体電池の先行導入と大手メーカーの動向
NIO(蔚来汽車)は、WeLion(衛藍新能源)製の 150kWh 準固体電池パックを搭載したEVで航続距離 1,055km を記録し、既に商用化を開始した 。また、GAC(広州汽車集団)傘下のHyper(昊鉑)ブランドも、2026年に全固体電池を搭載したモデルを発売すると発表しており、パイロットラインの稼働を開始している 。
しかし、2025年末に中国国内で開催された「世界動力電池大会」では、業界リーダーから慎重な声も上がった。SVOLT EnergyのCEOは、2027年に小規模な実証車両への搭載は可能だが、大規模な商業化にはさらなるコスト削減が必要であると述べている。Changan Automobile(長安汽車)の副総裁に至っては、2030年までの大規模商用化は「最も楽観的なシナリオ」であり、現実的には2035年が目標になるとの認識を示し、過度な期待を戒めている 。
中国発の国家標準策定:世界規格への布石
中国政府は、技術面だけでなく「規格」というソフトパワーでも主導権を狙っている。2026年初頭、中国国家自動車標準化技術委員会は、電気自動車用固体電池の用語と分類に関する国家標準ドラフトを公開した 。このドラフトでは、「準固体」という曖昧な表現を排し、重量減少率(揮発成分)が0.5%以内という極めて厳しい基準を固体電池の定義として提案している 。
中国が世界に先駆けて国家標準を提案した背景には、欧米や日米が主導する国際規格が策定される前に、自国の圧倒的な生産実績に基づく基準をデファクトスタンダードにする狙いがある。これは、日系企業が技術力で勝っていても、規格争いで不利な立場に置かれるリスクを示唆している。
サプライチェーンの垂直統合:硫化リチウムのコスト競争力
中国は原材料供給網の構築においても、圧倒的なスピード感を見せている。硫化物系固体電池の主要原料である硫化リチウム(Li2S)について、Guanghua Technology(光華科技)は、高純度(99.9999%)の製品を 200,000元/トン(約400万円/トン)で供給可能な体制を整えつつある 。同社は2026年以降のスケールアップによってさらなるコストダウンを狙っている。このような川上から川下までの垂直統合は、中国が全固体電池のコスト競争において、液体系電池と同様の支配力を維持する可能性を高くしている。
日本・韓国:特許と信頼性で狙う「全固体」の逆転劇
中国の実装重視に対し、日本と韓国は「技術的完成度」と「特許戦略」で対抗している。特にトヨタ自動車が掲げる2027〜2028年の量産化計画は、世界の自動車メーカーがベンチマークとする最も重要なロードマップの一つである。
トヨタ自動車:10分充電・1,200km走行の破壊力
トヨタ自動車は、全固体電池を競争力を一変させる重要な技術と位置付けている。同社のロードマップでは、2026年に日本国内に 10GWh 規模の全固体電池工場を建設し、まずは高級車ブランドのレクサスから搭載を開始する計画である 。

トヨタが達成を掲げる性能目標は、以下の通り極めて高い水準にある:
- 航続距離: 1回の充電で 1,200km を走行可能(現行液体系の約2倍) 。
- 充電速度: 0%から80%までを10分以内で完了 。
- 耐久性: 40年以上の耐用年数を想定し、2,000サイクル後も90%以上の容量を維持 。
この技術を支えるのが、出光興産や住友金属鉱山との協力関係である。出光興産とは硫化物固体電解質の量産化に向けた共同開発を進めており、2027年には年間1,000トン規模の硫化リチウム生産拠点を稼働させる予定である 。
Samsung SDI:銀-カーボン(Ag-C)負極による革新
韓国のSamsung SDIも、日本勢に劣らぬペースで開発を進めている。同社は2023年に全固体電池専用のパイロットライン「Sライン」を完成させた 。Samsung SDIの技術的特徴は、負極に銀とカーボンを組み合わせた複合層を用いることで、リチウム金属電池の課題であるデンドライト(枝状結晶)の成長を物理的に抑制する点にある 。これにより、900km以上の航続距離と 500Wh/kg 超のエネルギー密度を両立し、2027年の量産開始を目指している 。
日韓の特許優位性と製造装置の勝機
日本企業は、固体電池関連の特許保有数で世界トップの座を維持している。トヨタ自動車だけでも1,300件以上の特許を保有しており、パナソニックや村田製作所といった電子部品メーカーがこれを支える構造となっている 。
製造装置の面でも、日本のニッチトップ企業の活躍が期待される。全固体電池の製造には、従来のLIBでは不要だった「高圧プレス機」や、極めて低い湿度を維持する「高機能ドライルーム」が不可欠である。粉体加工のホソカワミクロン、プレス装置の平野機工、露点管理のダイキン工業や高砂熱学工業などは、世界中のギガファクトリーへの輸出が見込めるため、日本企業にとって最も収益性の高い領域となる可能性がある 。
インド・ASEAN:次世代電池の「巨大な受け皿」としてのポテンシャル
新興国市場は、先進国とは異なる力学で動いている。特にインドやタイでは、気候変動対策と産業育成を両立させるため、EVおよび電池産業の誘致に巨額のインセンティブを投入している。
インド:二輪・三輪EVでの急速な需要拡大
インドの電池需要は、2025年の 28GWh から、2047年には 1.9TWh という規模まで拡大すると予測されている 。インド市場の特徴は、乗用車よりも二輪・三輪車(オートリキシャ等)の電動化が先行している点にある 。

インド政府は「PM E-DRIVE」スキームの下、電池の国内生産を強力に推進しており、2026年までの予算で上流の材料採掘や加工への支援を強化している 。全固体電池については、当初は「プレミアム・ニッチ」としての導入が見込まれているが 、インド特有の過酷な熱環境を考慮すると、発火リスクが極めて低い全固体電池は、安全性を最優先する物流企業(デリバリー用の二輪)などで強い支持を得る可能性がある 。
タイ:ASEANのEVハブ「30@30」構想
タイは「30@30」政策(2030年までに自動車生産の30%をZEOにする目標)を掲げ、ASEANにおけるEV製造拠点としての地位を固めようとしている 。2024年から2027年にかけて実施される「EV 3.5」パッケージは、補助金、関税削減、消費税減税を組み合わせた強力なインセンティブを提供している 。タイ政府は2026年以降の現地生産において、電池セルの国内調達を奨励しており、全固体電池のパイロットライン設置についても優遇措置を検討している 。
インドネシア:資源(ニッケル等)を握る戦略
インドネシアは、世界最大のニッケル埋蔵量を武器に、電池産業の垂直統合を強引に進めている 。

- ニッケル供給の支配: 2030年には世界のEV用ニッケル供給の多くをインドネシア産が占めると予測されている 。
- 大手企業の進出: LG Energy Solution(韓国)やCATL(中国)が、それぞれ 90億〜150億ドル規模の投資を決定し、現地での生産を加速させている 。
- 技術変化のリスク: しかし、ニッケルを使用しないLFP電池や、全固体電池におけるリチウム金属負極の採用などは、インドネシアの資源戦略にとってのリスク要因となっている 。
終わりに:アジアは「規格が決まる戦場」である
アジアは単なる「生産拠点」ではなく、次世代電池の「規格が決まる戦場」である。今後5年で注視すべきKPIは、Whあたりのコスト低減率と、量産ラインにおける「歩留まり」の安定化である。
中国が「準固体」で先行し、そのデータを基に国家規格を策定している現状は、日系企業にとっての脅威であると同時に、明確なベンチマークでもある。日本企業が取るべき戦略は、(1)「超格差技術」による圧倒的な品質(航続距離・寿命)の証明、(2)製造装置・周辺部材におけるブラックボックス技術の保持、(3)ASEAN諸国との共同による「アジア共通規格」の主導、の三段構えである。
全固体電池という「理想」をビジネスという「現実」に落とし込む2026年からの数年間は、日系企業の命運を分ける激動の期間となると言えよう。
情報参照先:
- Shanghai Metals Market (SMM) | Toyota’s Solid-State Battery Layout: Mass Production in 2027 to Achieve a 1,000-km Driving Range Revolution |(アクセス日:2026年2月11日)
- EV Magazine | Top 10 solid-state EV battery manufacturers |(アクセス日:2026年2月11日)
- JAPAN Forward | Panasonic Develops World’s First Industrial All-Solid-State Battery |(アクセス日:2026年2月11日)
- Gasgoo | GAC says solid-state battery pilot line is now operational, targeting small-batch vehicle installation | (アクセス日:2026年2月11日)
- RS Partners | 【動向】中国:EV用固体電池の国家標準案が公開 |(アクセス日:2026年2月11日)
- Electrek | Solid-state EV batteries take another big step forward in China | (アクセス日:2026年2月11日)
- pv magazine India | India’s Union Budget 2026–27 removes import duties on solar glass inputs, lithium battery cell machinery and critical minerals processing equipment | (アクセス日:2026年2月11日)
- BW Auto World | Union Budget 2026-27 Powers India’s Auto Ambitions With Stability & Scale | (アクセス日:2026年2月11日)
- EY Global | Thailand – subsidies, duties, excise tax incentives to encourage |(アクセス日:2026年2月11日)
- Thailand Board of Investment (BOI) | EV Board Approves Policy Refresh to Strengthen Thailand’s | (アクセス日:2026年2月11日)
- CSIS | Indonesia’s Battery Industrial Strategy | https://www.csis.org/analysis/indonesias-battery-industrial-strategy (アクセス日:2026年2月11日)
- ProLogium Technology | ProLogium Marks 20th Anniversary at CES 2026, Unveils Breakthrough Superfluidized all Inorganic Solid-State Battery Results |(アクセス日:2026年2月11日)
- Ufine Battery | Solid State Battery vs Lithium Ion: A Comparative Analysis |(アクセス日:2026年2月11日)
- Astute Analytica | Solid State Battery Market Analysis | (アクセス日:2026年2月11日)
- メトリー(Metoree) | 全固体電池メーカー9社一覧 |(アクセス日:2026年2月11日)


