【海外市場調査】東南アジアで拡大する法人クレジットカード市場とデジタル決済の最新動向

はじめに
東南アジアをはじめとするアジアでは、クレジットカードとデジタル決済への需要が急増している。日本企業が海外市場へ進出する際には、地域ごとの経済環境や消費者の決済習慣を理解することが不可欠だ。本稿では、世界およびアジアの法人クレジットカード市場の現状、キャッシュレス化の背景、バーチャルカードの導入状況、代表的な成功企業の動向を分析し、海外展開を検討する企業への示唆を示す。
世界とアジアの法人クレジットカード市場の成長
世界の法人クレジットカード市場は堅調に成長している。調査会社のレポートによると、2024年の世界市場規模は約237億8千万ドルであり、翌年には255億1千万ドルに拡大した。2030年までには367億4千万ドルに達すると予測され、年平均成長率は7.51%と見込まれている。この背景には、企業が従業員の経費管理を効率化し、電子的な経費精算システムへの移行を進めていることがある。レポートでは、大企業が中央集権的な管理を重視する一方で、中小企業は使いやすさや迅速な発行を求めていると指摘している。

地域別では、アジア太平洋地域が最も高い成長率を示している。クレジットカード市場全体においても、アジア太平洋は2025年から2030年の年平均成長率が4.30%と予測され、北米や欧州を上回る。北米ではカード取引が市場全体の約半分を占めるが、アジア各国ではモバイル決済やデジタルウォレットの急速な普及が市場成長を後押ししている。このような環境下で、法人クレジットカードの発行数と使用量は飛躍的に増加しており、特に東南アジアで顕著だ。
キャッシュレス化が進む東南アジア市場
東南アジアでは新興国のモバイル普及率の高さを背景に、キャッシュレス社会への移行が急ピッチで進んでいる。Visaの消費者調査では、6,550人以上の回答者のうち60%が「現金よりも非接触決済の方が好ましい」と答え、現金を好む人は26%にとどまる。72%はキャッシュレス決済に挑戦した経験があり、現金を持たずに過ごす平均期間は11日だった。カード型の決済を好む割合は34%で、モバイルウォレット決済は26%と僅差になっている。モバイルウォレット利用率は79%に達し、銀行口座を持たない人が多いインドネシアやフィリピンでも浸透している。

決済手段の選択理由として、連携店舗の増加やタッチ決済の利便性、感染症対策による安全性が挙げられる。調査によると、タッチ決済対応端末の普及を理由に現金を持たない日数が増えたと回答した人は48%であり、店舗側がキャッシュレス決済に対応したことが44%、さらに現金を持ち歩くことへの安全面の懸念が43%と続く。このように、衛生や安全性がキャッシュレス化の主な動機となっている。
アジア全体の非現金取引件数も急増している。調査レポートは、アジア太平洋地域の非現金取引が2028年に1.5兆件に達する見通しを示している。2023年時点でPOS(店舗)決済の50%を占めるデジタルウォレットは、2027年には66%まで拡大すると予測され、日本やオーストラリアではポイントや信頼性の高いカードが根強く支持される一方で、香港・ベトナム・マレーシアでは現金の利用が続く。規制面ではインドのUPIやインドネシアのQRISなど、政府主導の決済インフラ整備がクロスボーダー決済を後押ししている。
バーチャルカードとデジタル経費管理の拡大
法人クレジットカードの中でも、オンライン専用のバーチャルカードが急成長している。市場調査によれば、世界のバーチャルカード市場規模は2024年に190億1670万ドルであり、2030年には600億6460万ドルに達する見通しで、年平均成長率は21.2%と高い。このうちB2B用途のバーチャルカードが70.3%を占め、企業の経費管理やサプライヤーへの支払いに広く利用されている。需要を牽引する要因として、トークン化による不正防止やスマートフォン普及が挙げられる。

バーチャルカードは物理的なカードを持たないため、発行から利用までのリードタイムが短く、単価ごとに利用上限額を設定できる。これにより企業は経費の透明性と管理効率を高め、不正利用を抑制できる。また、旅行や広告費用の支払いのために一時的なカード番号を発行する仕組みは、海外出張が再開したコロナ後の世界でも注目されている。
東南アジアのフィンテック成功事例
市場の成長を支えるのは、デジタル経費管理と法人カードサービスを提供するフィンテック企業である。本稿では特に成長著しい三社――Spenmo、Volopay、Aspireを取り上げる。
Spenmoの飛躍
シンガポール発のSpenmoは、経費管理プラットフォームと法人クレジットカードを提供するスタートアップである。Growjoの推計では、2024年時点の年間収益は約1,470万ドルで、従業員数は113名に達する。資金調達総額は1億2,140万ドルに上り、2019年の創業からわずか数年で急成長した。同社のサービスは、支払い申請から承認、会計ソフトへの連携までを一気通貫で行える点が特徴であり、中小企業が煩雑な経費精算を簡素化できることから支持を集めている。
Volopayの急成長
Volopayはシンガポールを拠点に法人カードと経費管理ソフトを提供している。同社は2022年に2億9千万ドルのシリーズA資金を調達し、アジア太平洋や中東、北アフリカへの展開を加速させている。
資金調達前年には月間支払総額が98%のペースで増加し、売上も41%増と急成長した。従業員数はわずか20名から150名へと拡大しており、急速なスケーリングが際立つ。Volopayはカードと口座を一元管理し、企業が様々な通貨で支払いを行えるようにすることでクロスボーダー取引を容易にした。
Aspireの躍進
東南アジアを代表するB2BフィンテックAspireは、法人カード・マルチカレンシー口座・請求書管理などを提供する。2023年には1億ドル超のシリーズCラウンドを完了し、1万5千社超の顧客を抱える。同社は12か月間で年間収益を3倍に増やし、2023年第2四半期に黒字化を達成した。年間決済総額は150億ドルに及び、従業員数は400人に拡大している。特にインドネシアの顧客が3分の1を占めることから、複数通貨や国際支払いに対応したソリューションの需要が高いことがうかがえる。
日本企業が海外市場で法人クレジットカードを活用する際のポイント
東南アジアの法人カード市場は、クレジットカードとデジタルウォレットの台頭により大きな変革期を迎えている。日本企業が同地域で事業展開する際には、以下の点に留意すべきである。
- 規制とインフラの理解:各国政府はキャッシュレス推進のため決済インフラ整備を進めている。インドネシアのQRISやインドのUPIなど、標準化されたQRコード決済やインスタント決済ネットワークが台頭しつつあり、これらに対応したサービス設計が欠かせない。国ごとに外貨規制やライセンス要件が異なるため、法規制の事前調査が重要となる。
- 消費者の決済習慣の差:日本やシンガポールのようにカード利用が定着している国もあれば、ベトナムやインドネシアのようにモバイルウォレットが主流の国もある。企業はターゲット国の消費者が何を重視しているのか――ポイント還元か、手数料の低さか、安全性か――を分析し、それに合わせた決済手段を提供する必要がある。
- 為替リスクとコスト構造:アジアの決済ビジネスでは取引量が大きい一方、1件あたりの手数料が欧米より低い傾向にある。ある調査では、2025年時点の世界のデジタル決済取引総額が157兆ドルに達すると予測し、ベンダー収益は640億ドルと推計している。アジア太平洋のベンダー収益は20~30%程度のシェアを占めるが、収益率は北米より低い。為替リスクや手数料を総合的に考慮した価格設定が求められる。
- サイバーセキュリティと不正対策:B2Bバーチャルカードは、不正利用を防ぐためのトークン化や利用上限設定が可能である。しかし、フィッシングやマルウェアによる不正アクセスは依然として脅威であり、AIを活用した不正検知や多要素認証などの対策が不可欠である。
まとめ:事前の市場調査とパートナー選びの重要性
海外市場へ進出し法人クレジットカードやデジタル決済サービスを展開する場合、経済規模や成長率だけでなく、消費者行動や規制環境など多面的な要素を理解する必要がある。アジア太平洋地域ではクレジットカード市場が大きな伸びを示し、バーチャルカードやモバイルウォレットの普及が進んでいる。この環境下で、SpenmoやVolopay、Aspireといったフィンテック企業は革新的なサービスで市場を席巻し、急速な成長を遂げている。
日本企業にとって、東南アジアの法人クレジットカード市場は大きなチャンスである一方、国ごとに異なる決済習慣や規制が壁となる。だからこそ、参入前に徹底的な市場調査を行い、信頼できるパートナーや現地の専門家と協働することが重要である。弊社では、クレジットカードおよび海外市場調査に関する豊富な知見を基に、日系企業の海外展開を支援している。市場規模や競合環境、規制動向を踏まえた戦略立案から、現地フィンテック企業との連携まで、包括的なサポートを提供できる。アジア・東南アジアの法人クレジットカード市場に関心を持たれている方は、ぜひお気軽にご相談いただきたい。
情報参照先:
- Spenmo Official|Spenmo Corporate Cards & Spend Management|(アクセス日:2025年9月30日)
- Tech in Asia|Singapore-based Spenmo raises $34m led by Tiger Global|(アクセス日:2025年9月30日)
- Aspire Official|Aspire Business Account & Corporate Card|(アクセス日:2025年9月30日)
- TechCrunch|Aspire raises $100M to expand its business finance platform in Southeast Asia|https://techcrunch.com/2023/02/21/aspire-raises-100m/|(アクセス日:2025年9月30日)
- Volopay Official|Volopay Corporate Cards & Expense Management|https://www.volopay.com/|(アクセス日:2025年9月30日)
- Tech Collective|How Volopay is transforming expense management in Asia|https://techcollectivesea.com/2022/05/09/volopay-expense-management-asia/|(アクセス日:2025年9月30日)
- Airwallex Official|Airwallex Business Cards & Global Payment Solutions|https://www.airwallex.com/|(アクセス日:2025年9月30日)
- CB Insights|Global Fintech Report Q2 2023|https://www.cbinsights.com/research/report/fintech-trends-q2-2023/|(アクセス日:2025年9月30日)
- Statista|Digital Payments in Southeast Asia – Market Insights|https://www.statista.com/outlook/dmo/fintech/digital-payments/southeast-asia|(アクセス日:2025年9月30日)