【海外成功事例】インドEVシフトの最前線「UNO Minda」と「アショック・レイランド」が示す、部品から完成車までの構造変化とは

はじめに:急加速するインドのEV市場と「二輪・三輪・商用」主導の独自進化
世界第3位の自動車市場であるインドにおいて、EV(電気自動車)シフトが本格的な加速を見せている。2024年のインドのEV販売台数は約170万台を超え、2025年には前年比でさらなる急成長を遂げている 。市場規模は2025年時点で約50億米ドル(約7,500億円)と推計されており、2030年代に向けて年平均成長率(CAGR)約40〜50%という驚異的なペースで拡大を続けると予測されている 。

インドのEV市場の最大の特徴は、欧米や中国のような「乗用車(四輪車)」主導ではなく、「二輪車・三輪車・商用車」が市場を牽引している点である。販売されるEVの約80%以上を電動二輪車(E2W)と電動三輪車(E3W)が占めており、乗用車のEV浸透率はまだ数%にとどまっている 。これは、インド特有の交通事情や、ラストマイル配送需要の急増、そして初期投資を抑えたいという消費者心理が強く反映された結果である。
政府もこの動きを強力に後押ししている。従来のEV普及政策「FAME II」に代わり、2024年秋からは総額約1,090億ルピー(約1,900億円)を投じる新スキーム「PM E-DRIVE」が開始された 。この新政策では、二輪・三輪・電動バス、さらには充電インフラの整備に重点的に補助金が割り当てられており、国内でのサプライチェーン構築(Make in India)をより一層推進する構えである。
本稿では、この独自の進化を遂げるインドEV市場において、サプライチェーンの川上から川下までを担う2つの重要企業——自動車部品メガサプライヤーの「UNO Minda(ウノ・ミンダ)」と、商用車大手の「アショック・レイランド(Ashok Leyland)」——の戦略を分析し、インドにおけるEVシフトの構造変化について解説する。
部品サプライヤーの進化:UNO Mindaの高電圧化・現地化戦略
EVシフトは、エンジン部品が不要になる一方で、モーター、インバーター、バッテリー管理システム(BMS)といった新たな中核部品の需要を生み出す。この産業構造の転換を最大の成長機会と捉え、インドの部品業界を牽引しているのがUNO Mindaである。
スイッチ・照明からEV中核部品への事業転換
UNO Mindaは、元来二輪車および四輪車向けのスイッチや照明、アルミホイールなどを主力とするインド最大級の自動車部品メーカーである。2025-26年度(2026年3月期)の四半期決算においても、スイッチ事業だけで約3,600億ルピー(約6,300億円)規模の収益を上げるなど、強固な事業基盤を持っている 。
しかし、同社は従来の既存部品に安住することなく、数年前からEV部品市場への本格参入を進めてきた。初期段階では、電動二輪車や三輪車向けの低電圧EV製品(48V〜96V帯)の開発に注力し、DC-DCコンバーターやバッテリー管理システムを市場に投入してシェアを獲得した。
Inovanceとの合弁による「高電圧EV部品」の現地生産化
インド市場において四輪乗用車や商用車のEV化が進むにつれ、より高度な技術を要する「高電圧EV部品」の需要が急増している。この課題に対応するため、UNO Mindaは2025年、中国の産業用オートメーション・EV部品大手であるInovance Automotive(イノバンス)との間で戦略的な合弁事業(JV)を設立した。
この合弁事業において、UNO Mindaは約42億3,000万ルピー(約74億円)を投資し、新会社の株式70%を保有する 。この新工場では、以下の主要な高電圧EVパワートレイン部品がインド国内で製造される計画である。

この提携の意義は、単なる生産能力の拡大にとどまらない。これまで輸入に頼らざるを得なかった高度なEVパワートレイン技術を、Inovanceからの技術移転を通じてインド国内で製造(ローカライゼーション)できる点にある。これにより、インド政府がPLI(生産連動型優遇策)などで推進する「部品の現地調達率向上」という国策に完全に合致し、完成車メーカー(OEM)に対してコスト競争力のある部品供給が可能となるのである。
完成車メーカーの攻勢:アショック・レイランドのEVバス戦略
部品サプライヤーが技術基盤を構築する一方、完成車市場ではどのような変化が起きているのか。インドのEV市場を牽引する商用車セグメントにおいて、タタ・モーターズと並んで市場を牽引しているのが、ヒンドゥージャ・グループ傘下のアショック・レイランドである。
インド商用車市場シェア2位の巨人が放つ「Switch Mobility」
アショック・レイランドは、インド国内の中大型商用車(トラック・バス)市場で約30%以上のシェアを誇る第2位のメーカーである 。同社は、いち早く商用EVの将来性を見据え、英国のバスメーカーであるOptare(オプテア)を買収し、2020年にグローバルEVブランド「Switch Mobility(スイッチ・モビリティ)」として再編した 。
Switch Mobilityは、インド国内の公共交通機関向けに「SWITCH EiV 12」などのゼロエミッション・エレクトリックバスを供給している。インドの各州政府は、大気汚染対策として路線バスのEV化を急速に進めており、Switch Mobilityはこの政府調達需要を確実に取り込んでいる。2025年4月から12月までの期間だけで、同社はインド国内で約850台のEVバスと約1,200台の電動小型商用車(eLCV)を販売し、さらに約1,350台の受注残を抱えるなど、急速に事業を拡大している 。
黒字化の達成とUAEへの生産拠点シフトによる欧州展開
特筆すべきは、Switch Mobilityの収益性とグローバル戦略の転換である。EV事業は初期投資が大きく赤字が続く企業が多い中、Switch Mobilityは2025年度にEBITDAベースでプラス転換を果たし、2026年度には完全な損益分岐点の達成を見込んでいる 。
さらに同社は、コスト競争力を高めるため、これまで英国にあったEVバスの製造拠点を中東のUAEへ移管する計画を進めている 。UAEの新工場をハブとして、欧州市場向けのバッテリーEVバスを生産・輸出する戦略である。これは、インド発の商用車メーカーが、国内市場の需要を満たすだけでなく、グローバルなEVサプライチェーンの一翼を担い、欧州という先進市場へ攻め入る実力をつけつつあることを明確に示している。
インドEV市場の今後の課題:充電インフラとバッテリーの国産化
UNO Mindaやアショック・レイランドの躍進が示すように、インドのEVサプライチェーンは着実に形成されつつある。しかし、市場がさらなる爆発的成長を遂げるためには、いくつかの構造的な課題を克服する必要がある。
充電インフラの圧倒的不足
最大のボトルネックは充電インフラである。2025年時点で、インド国内の公共充電ステーションは約2万6,000カ所に増加したものの、EV1台あたりの充電器の割合は約1:235と、世界平均(1:6〜1:20)に比べて著しく低い水準にとどまっている 。

政府は「PM E-DRIVE」スキームを通じて充電ステーションの設置に100%の補助金を出すなどインフラ整備を急いでおり、2030年までに約37万カ所の公共充電ポイントを整備する目標を掲げている。
リチウムイオン電池のセル国産化
もう一つの課題は、EVのコストの約3〜4割を占めるバッテリーである。現在、インド国内ではバッテリーパックの組み立ては行われているものの、中核となるリチウムイオン電池の「セル」そのものは、依然として中国などからの輸入に大きく依存している。
真の「Make in India」を実現し、コスト競争力を確保するためには、国内でのセル製造ギガファクトリーの稼働が不可欠である。現在、リライアンスやオラ・エレクトリックなどがセル製造工場の建設を進めており、これらの稼働状況が今後のEV価格の下落と普及スピードを左右することになる。
シンガポールの強力なイノベーション環境
インドのEVシフトは、単なる「エンジンの置き換え」ではなく、自動車産業のサプライチェーン全体を根底から再構築する巨大なパラダイムシフトである。UNO Mindaの事例が示すように、この変革期は、優れた技術を持つ海外の部品メーカーにとって、インドの有力企業と合弁を組み、巨大市場に参入する絶好のチャンスである。
また、アショック・レイランドの動きが示すように、インドで培われた低コストで堅牢なEV製造ノウハウは、やがて中東やアフリカ、さらには欧州市場へと輸出される「グローバル・ハブ」としてのポテンシャルを秘めている。

インド市場への参入を検討する企業は、以下の3点を戦略の軸に据えるべきである。
- 二輪・三輪・商用車市場の重視:四輪乗用車だけでなく、インド特有のボリュームゾーンである商用・小型モビリティの電動化需要を的確に捉えること。
- 現地化(ローカライゼーション)の徹底:政府の補助金(PM E-DRIVE等)の恩恵を受けるため、現地パートナーとの合弁を通じた部品の国内製造体制を構築すること。
- 高電圧・高度技術の提供:基礎的な部品はすでに地場企業が強い。インバーターやE-Axle、バッテリー管理システムなど、インド企業が欲している高度な技術を提供できるかが提携の鍵となる。
インドのEV市場は、まだ黎明期を脱したばかりである。今後10年で形成される新たなサプライチェーンの覇権争いは、すでに始まっているのである。
情報参照先:
- ISEP, “インド EV市場スナップショットレポート2025,” 2025.(アクセス日:2026年6月24日)
- IBEF, “Electric Vehicle Industry in India: Growth, Trends & Policy.”(アクセス日:2026年6月24日)
- Fortune Business Insights, “India Electric Vehicle (EV ) Market Size, Share & Trends [2032],” 2026.(アクセス日:2026年6月24日)
- Reddit (EV Community ), “インドで販売されたEVの80%以上(2025年)は2輪車と3輪車,” 2026.(アクセス日:2026年6月24日)
- India Briefing, “India Shifts Gears: PM E-Drive Scheme Replaces FAME Policy,” 2024.(アクセス日:2026年6月24日)
- Uno Minda, “CFO’s Thoughts.”(アクセス日:2026年6月24日)
- Precedence Research, “Uno Minda and Inovance Partner for EV Manufacturing in India,” 2025.(アクセス日:2026年6月24日)
- Mobility Outlook, “Uno Minda To Invest INR 423 Crore In New EV Powertrain Plant For Four-Wheelers,” 2025.(アクセス日:2026年6月24日)
- TrucksDekho, “Ashok Leyland Reports A 39.86% YoY Domestic Sales Growth,” 2026.(アクセス日:2026年6月24日)
- MotorIndia, “Ashok Leyland renames Optare as ‘Switch Mobility’, unveils global EV plans.”(アクセス日:2026年6月24日)
- Sustainable Bus, “Ashok Leyland reportedly to produce electric buses for Europe at Switch UAE plant,” 2026.(アクセス日:2026年6月24日)
- ET Auto, “Ashok Leyland’s Switch Mobility targets break-even in FY26 after strong Q4 performance,” 2025.(アクセス日:2026年6月24日)
- LinkedIn (Humans of EV ), “Switch Mobility turns profitable, shifts EV manufacturing to UAE,” 2025.(アクセス日:2026年6月24日)
- Observer Research Foundation, “Charging Infrastructure: The Missing Link in India’s EVs Transition,” 2025.(アクセス日:2026年6月24日)
- IEA, “Electric vehicle charging – Global EV Outlook 2025 – Analysis.”(アクセス日:2026年6月24日)


