【海外成功事例】中国茶飲料ブランド「CHAGEE(霸王茶姬)」に学ぶ海外展開戦略:新茶飲革命とブランド構築の鍵

はじめに
中国で若者の支持を集める新茶飲(ミルクティー)市場において、CHAGEE(霸王茶姬)は原葉茶を主軸とした高級路線で急成長を遂げた。本記事では、中国新茶飲市場の歴史を3世代に分けて整理し、CHAGEEの差別化戦略とその成功要因を詳細に分析する。CHAGEEは単なる“美味しいお茶”ではなく、中国茶文化を現代風に再編集した「ライフスタイルブランド」として位置付けられていることがわかった。

また、海外市場でCHAGEEが受け入れられた背景には、中国らしさを保ったまま現地マーケティングを展開した点がある。具体的には、現地のセレブ起用や伝統文化要素の取り入れが奏功した。最後に、CHAGEEの事例から学ぶべき示唆として、(1) ローカライズしすぎないこと、(2) 文化を輸出すること、(3) 市場カテゴリーを再定義することの3点を提言する。 CHAGEEのケースは、製品そのものの輸出ではなく自国文化を編集してブランド化することで海外市場を切り開く戦略の好例である。
中国で起きた「新茶飲革命」
近年、中国の茶飲市場では従来の烏龍茶や緑茶など伝統的な飲料を若者向けにリブランディングする「新茶飲(新式茶飲)」が隆盛している。中国連鎖経営協会の定義によれば、新茶飲とは原葉茶と果汁、乳製品などを組み合わせ、現場加工した飲料を指す。
従来の「甘くてタピオカ入り」というイメージを一新し、従来茶文化をモダンに再解釈する動きが広がっている。WiRED誌も、HeyTea(喜茶)やCHAGEEを含む中国ブランドが「国潮(China chic)=中国チック」な要素を取り入れており、若者に訴求していると指摘する。これら新茶飲ブランドは、いわば伝統とモダンの融合を図っており、海外展開の際も「お茶文化を含んだファッション飲料」として支持を集めているようだ。
統計的にも市場は急成長している。アイリサーチによると、中国の現制茶飲市場規模は2019年の1,022億元から2024年に2,727億元へと急拡大し、年平均成長率は21.7%に達した。若年層の健康志向やSNS映え志向を背景に、中国茶は一度衰退したかに見えたが、むしろ「棄てたのではなくアップデートした」形で復権しつつある。スターバックスもかつては中国市場で常識外だったが、現在は中国人ローカルブランドに市場シェアを奪われる状況にあり、新茶飲の興隆が一つの潮流になっている。
中国ミルクティー市場の3世代進化
中国ミルクティー(茶飲)市場の変遷を3つの世代に分けて整理すると、以下のようになる。
- 第一世代(2013~16年頃):台湾発祥のミルクティーチェーンが中国で流行し、低価格・砂糖たっぷり・タピオカ入りの商品が中心だった。CoCo、GongCha、50嵐などが代表例で、1杯5~10元程度の価格帯で爆発的に普及した。茶葉よりも甘さやトッピングが重視される商品設計だった。
- 第二世代(2016~20年頃):HEYTEA(喜茶)や奈雪の茶(Nayuki)などが新登場し、ミルクティーの高付加価値化が始まる。特にHEYTEAは2012年に中国で初めてチーズフォームティーを開発し、大きな話題に。果物を組み合わせたフルーツティーや、オシャレなパッケージ・店舗デザインを武器に、若者のSNS映えを狙うスタイルに移行した。市場は「ライフスタイル消費」化し、競争がプレミアム化した時代である。
- 第三世代(2020年以降):市場が細分化し、ブランドごとに明確なポジション取りが進む時期。大きく3つの方向性に分かれている。低価格・量産展開型では、Mixue Bingcheng(蜜雪冰城)が代表的で、業界最安レベルの価格で田舎にも急速に店舗を広げている。一方でHEYTEAは引き続きプレミアムな体験を追求し、一部商品を値下げしつつもインスタ映え戦略を強化した。CHAGEE(霸王茶姬)は中国茶葉に特化した新たなポジションで頭角を現した。“何を飲むか”ではなく“どんな価値を買うか”の競争に移りつつあり、各社は価格・品質・文化性で差別化を図っている。
CHAGEE(霸王茶姬)は何が違ったのか──「茶葉」を主役にしたポジショニング戦略
CHAGEEは第三世代の新茶飲ブランドの中でも、中国茶を主軸に据えた独自のポジションを築いた点が特徴である。一般的な新茶飲ブランドがフルーツやタピオカ、チーズフォームなどのトッピングによって差別化を図る中、CHAGEEはあえて茶葉そのものの価値を前面に押し出した。雲南や四川などの高品質な茶葉を使用し、砂糖やミルクも過度に加えないことで、中国茶本来の風味を楽しめる商品設計を行っている。
代表商品である「伯牙絶弦ミルクティー」をはじめ、商品名にも中国の歴史や文化を反映させている点は特徴的である。これは単なる飲料販売ではなく、中国茶文化そのものを現代的に再解釈して提供する取り組みと言える。
また、CHAGEEが狙った市場も従来のミルクティーチェーンとは異なっていた。競合が「甘くて楽しい飲み物」を提供していたのに対し、CHAGEEは「日常的に楽しむプレミアムな中国茶体験」という新しいカテゴリーを創出したのである。言い換えれば、CHAGEEはミルクティー市場で戦ったのではなく、「現代中国茶市場」を新たに定義したブランドと言えるだろう。
成功要因=ブランド構築の本質
CHAGEEの成功を商品だけで説明することはできない。本質的な強みは、中国茶をライフスタイルブランドへ昇華させたブランド戦略にある。CHAGEEのロゴには中国伝統文化を想起させるデザインが採用されており、店舗空間やパッケージにも統一された世界観が反映されている。店内は落ち着いた色調で設計され、中国的な要素を現代的な感覚で表現している。こうした空間設計は、単に飲み物を購入する場所ではなく、ブランド体験を提供する場として機能している。
さらに、デジタル会員基盤やアプリを活用した顧客接点の構築にも注力している。商品開発、店舗体験、デジタル施策、広告クリエイティブまでを一貫したブランドストーリーのもとで設計することで、高い顧客ロイヤルティを実現している。重要なのは、CHAGEEが売っているのはお茶そのものではなく、「現代中国茶のあるライフスタイル」ということである。これはコーヒーを単なる飲料からライフスタイルへ昇華させたスターバックスと近い発想であり、中国茶版スターバックスとも呼ばれる理由でもある。結果としてCHAGEEは店舗数の拡大競争だけに依存せず、高いブランド価値と収益性を両立することに成功したのである。
海外展開で受け入れられる理由
CHAGEEはアジアをはじめ海外市場にも積極進出しているが、その受け入れられ方にはいくつかの興味深いポイントがある。まず、「純粋な茶葉の味」への評価である。あるシンガポール人女性は、CHAGEEの「伯牙绝弦」を飲んだ瞬間に純粋な茶の味わいに驚き、中国茶へのイメージが大きく変わったと語った。彼女をはじめ海外の消費者は、従来の甘ったるいミルクティーとは異なる「本物の中国茶の味」に魅了されており、これはCHAGEEの高品質茶葉調達と低糖度戦略が海外で奏功した例と言える。
HeyTea(喜茶)など中国茶飲チェーンの海外店舗では、中国の伝統文化をモダンにアレンジした空間デザインやパッケージが取り入れられている。WiREDも、中国の伝統要素を組み込んだ“国潮(China chic)”なデザインが海外で注目されていると指摘している。たとえばロンドンのHeyTea旗艦店では墨絵をテーマにした内装が施され、伝統的な品茗(茶を楽しむ)空間を演出している。CHAGEEも製品名に古典の故事を取り入れたり、店内に中国的な意匠を散りばめることで、海外の若年層に異文化としての興味を喚起している。タイでは「伯牙绝弦」が「知音」を表す言葉であることが口コミとなり、味だけでなく文化的背景への共感も人気の一因になったという。
また、アジア圏ではもともと茶文化が根付いているため、大掛かりな教育なしに「茶のラグジュアリードリンク」というコンセプトを理解してもらいやすい利点がある。CHAGEEのAPAC担当者も「東南アジアは茶を飲む文化があるので、初期教育が少なくて済む」と述べ、「Everyday Luxury」で若者を取り込む戦略を実践している。実際、シンガポールやマレーシアではデジタル投票で国民的人気選手を起用するなど、ローカル文化に根ざしたマーケティングも展開している。
さらに、現地事情に合わせたマーケティング施策も奏功している。例えばCHAGEEは米国・LAの旗艦店開業時にティーカートのポップアップイベントを実施し、著名インフルエンサーやモデルEmily Ratajkowskiを招いて大々的に話題化した。東南アジアではマレーシア代表のバドミントン選手をブランドアンバサダーに起用するなど、現地の文化アイコンを活用してブランドの信頼感と関心を高めている。店作りでも、マレーシア旗艦店にはバティックなど地元の伝統工芸を取り入れたアートワークを配置し、訪れた客に文化の「出会い」を提供した。
成功要因から読み解く、海外市場開拓の3つの示唆
CHAGEEの事例から日本企業が学べる示唆は大きく3点ある。
海外進出でローカライズしすぎない
マレーシア市場で一般的に甘い味が好まれるにもかかわらず、CHAGEEは製品の甘さを大幅に変えず低糖度を維持した。結果的にマレーシア政府の砂糖税強化とも合致し、むしろ健康志向の追い風を受けた。茶百道も「現地では氷や甘さを調整するが、コアを変えすぎるとブランド性が損なわれる」と指摘している。日本企業も、あまりに現地仕様に合わせて自社の強みを薄めるのではなく、文化的アイデンティティを保ったまま訴求することが重要である。
商品ではなく文化を輸出する
CHAGEEは単なるミルクティーではなく、中国茶文化そのものをパッケージ化した。商品名や店内装飾、体験要素に中国的要素をふんだんに盛り込み、「中国らしさ」を前面に打ち出した。これにより、飲料以上の価値観やストーリーが顧客に届いている。日本企業も、抹茶や日本茶など単なる商品としてでなく、茶道・和の美学・食文化など自国の文化資産を再編集して「体験としてのブランド」を構築し、海外に訴求すべきである。
既存市場の模倣ではなく市場カテゴリーを再定義する
CHAGEEは既存の「甘いタピオカミルクティー市場」ではなく、「現代中国茶」カテゴリーを開拓した。単なる価格競争やトレンド追随で勝つのではなく、新しい切り口で需要を喚起することで市場を拡大した。日本企業も、例えば「ジャパンカフェ」として和のスイーツや抹茶体験を組み合わせるなど、既存のコーヒーショップや紅茶市場に埋もれない独自カテゴリーを打ち立てるアプローチが求められるだろう。
わせるなど、既存のコーヒーショップや紅茶市場に埋もれない独自カテゴリーを打ち立てるアプローチが求められるだろう。
最後に
CHAGEEの事例が示すのは、“茶そのもの”ではなく“現代版中国茶文化”を売っているということである。同社は商品を通じて中国の文化・物語を世界に伝えることに成功し、日本企業にもこの思考転換は示唆的である。単に国内製品をそのまま輸出するのではなく、商品に込められた文化的価値を再編集し、グローバル市場に届けることが差別化に繋がる。
専門家も「新茶飲は茶文化とアイデンティティを融合させた消費シーンを作り出しており、飲むことで海外若者が中国文化とつながる手段になっている」と指摘している。このように、CHAGEEが成功したのはブランドストーリーを軸に自社の強みを改めて定義し、世界に向けて発信したからである。日本企業が海外で真の成功を収めるには、既存の商品をそのまま売るのではなく、自国文化のエッセンスを組み込んだ新しい価値提案を行うことが鍵になるだろう。
情報参照先:
- WIRED|Chinese Beverage Chains Spread Across the US, Challenging Starbucks’ Dominance| (アクセス日:2026年6月8日)
- QSR Media|CHAGEE targets Japan and South Korea in Asia expansion push| (アクセス日:2026年6月8日)
- 证券时报|“18岁前不识字”,如今身家过百亿,力压星巴克!霸王茶姬斩获360亿IPO,两大股东豪赚百亿|(アクセス日:2026年6月8日)
- 新华网|中国新茶饮海外“排队王”| (アクセス日:2026年6月8日)
- 搜狐网|出海丨霸王茶姬的全球化路径:本地化策略与跨文化实践| (アクセス日:2026年6月8日)
- EqualOcean|Can Nayuki Hold Its Ground in the Evermore Competitive On-demand Tea Drinks Industry| (アクセス日:2026年6月8日)
- CKGSB Knowledge|How Mixue Became the World’s Largest Food and Beverage Chain| (アクセス日:2026年6月8日)


