【海外成功事例】中国モビリティは、どこで信頼を獲得するのか——サーキットで勝つ二輪、開放市場を攻める四輪

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はじめに

中国のモビリティ産業を語るとき、これまでは「低価格」「量産力」「急速な輸出拡大」といった言葉が前面に出やすかった。しかし、近年の二輪・四輪を横断して見ると、より本質的な変化が浮かび上がる。中国メーカーは、単に安い製品を海外へ送り出しているのではなく、市場ごとに異なる方法で信頼を獲得しようとしている。

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その変化を象徴する出来事が二つある。一つは、中国の二輪メーカーである張雪機車(ZXMOTO)が、スーパーバイク世界選手権のWorldSSPクラスで勝利し、スポーツバイク市場で一気に注目を集めたことだ。もう一つは、オーストラリアの新車市場で、中国製自動車の販売台数が単月で日本製自動車を上回ったことである。


この二つのニュースは、扱う製品も市場も異なる。前者は、限界性能が可視化されるレースの世界で起きた出来事であり、後者は、輸入車が中心となる開放的な自動車市場で生じた販売構造の変化である。だが、両者には共通点がある。中国勢が、これまで日本・欧州・韓国ブランドが担ってきた「安心して選ばれる乗り物」という領域に、別々の入口から入り始めている点である。

二つのニュースが示す「信頼形成ルート」の違い

ZXMOTOの勝利が興味深いのは、それが広告キャンペーンではなく、競技結果として表れた点にある。WorldSSPは市販車を基礎にしたマシンで争われるカテゴリーであり、参戦には一定規模の量産が前提となる。つまり、そこでの成績は、完全な試作機だけでつくられる一回限りの成果ではなく、市販車開発、部品供給、チーム運営、品質管理が交差する場所で生まれる。

一方、オーストラリアで起きた変化は、レースのような象徴的な一勝ではない。2026年2月の新車販売では、中国製自動車は2万2000台超を販売し、2万2000台弱だった日本製自動車をわずかに上回った。さらに、タイ製が約2万台、韓国製が約1万2000台と続き、中国製車が単月で最大の供給源となった。

この二つを同じ「中国メーカーの台頭」としてまとめるだけでは、重要な違いを見落とす。二輪では、ブランドの未知性を突破するために、レースという高負荷環境での結果が大きな意味を持つ。四輪では、消費者が日常の購買判断のなかで、中国車を既存ブランドと並べて比較し始めることが意味を持つ。

この対比から見えるのは、中国勢の海外進出が一枚岩ではないということだ。二輪は象徴を取りに行く市場であり、四輪は構造に入り込む市場である。前者では「勝った」という事実がブランドを押し上げ、後者では「普通に選ばれる」ことがブランドを押し上げる。

ZXMOTOが映し出す、中国二輪産業の新しい物語

ZXMOTOをめぐるストーリーには、巨大企業の輸出戦略とは異なる性格がある。創業者の張雪氏は、元バイク修理工としてキャリアを始め、2013年に重慶で起業した人物とされる。その後、ZXMOTOの前身となる二輪ブランドであるKOVEの立ち上げに関わり、2024年にZXMOTOを設立した。

この経歴が示すのは、中国の二輪産業にも、現場起点の開発者ストーリーが生まれているということだ。二輪、とくにスポーツバイクの世界では、製品スペックだけでブランドは成立しにくい。ライダーは、メーカーの思想、開発者の執念、レースでの実績、整備性、ユーザーコミュニティまで含めて、ブランドを評価する。

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ZXMOTOの主力モデルには500RR、820RR、500Fがあり、価格帯は2万9900元から4万3800元とされる。同社は、海外ブランドに近い性能を、相対的に手の届きやすい価格帯で提供することを競争軸としている。2026年3月時点で中国全国32省・直轄市に245の販売・取扱拠点を持つとされ、2025年の販売台数は約2万5000台を超えたとされる。

レース勝利後に販売台数が約20〜30%程度伸び、納車待ちが従来の1カ月程度から3カ月以上に延びたという動きは、ZXMOTOにとって大きな追い風である。しかし、同時にそれは供給・品質・納期管理のテストでもある。スポーツバイクの顧客は、単に製品を買うのではなく、所有体験を買う。納車の遅れや部品供給の不安が大きくなれば、せっかくのレース実績も短期的な話題で終わりかねない。

 オーストラリアで中国車が伸びる理由

四輪のオーストラリア市場では、二輪とは異なる力学が働いている。オーストラリアは自国の自動車生産基盤を持たず、新車市場は輸入車に大きく依存している。そのため、特定の国内メーカーを守るという論理が相対的に働きにくく、消費者は価格、装備、燃費、EV性能、保証、納期を比較しながらブランドを選びやすい。

この条件は、中国メーカーにとってきわめて重要である。自国メーカーが強い市場では、新興ブランドは政治的・制度的・心理的な壁に直面しやすい。しかし、輸入車が当たり前の市場では、消費者の関心は「どこの国の車か」だけでなく、「この価格で何が得られるか」に向かいやすい。

ブランド別に見ると、トヨタはシェア15.0%でなお首位に立っている。一方で、BYDは5.8%で6位に入り、長城汽車、奇瑞汽車、MGを含む中国系4ブランドがトップ10に入ったとされる。

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この点で注目すべきは、中国勢の存在感が単一ブランドに依存していないことだ。BYDはEVのイメージを前面に出しやすく、MGは比較的なじみのあるブランド名として受け止められやすい。長城汽車はSUVやピックアップ系の需要と相性がよく、奇瑞汽車は価格性能比を武器に量販市場へ入りやすい。複数のブランドが異なる入口から市場に入ることで、中国車は「珍しい存在」から「比較対象の一角」へと変わっていく。

政策環境も追い風になっている。シドニーやメルボルンなどの主要都市を抱える州では、2030年までに新車販売の50%をEVにする目標が掲げられ、購入補助や充電インフラ整備が進められている。また、現地の自動車販売店協会の見通しとして、中国ブランドの市場シェアがコロナ禍前の2%未満から2035年には40%以上へ拡大する可能性も示されている。

もちろん、この予測をそのまま将来の確定路線として読むべきではない。自動車市場では、為替、関税、地政学、規制、充電インフラ、残価、保険料、整備網など、多くの要因が販売に影響する。それでも、オーストラリアが中国車にとって有利な実験場になっていることは確かである。

中国勢の本当の課題は「選ばれた後」にある

中国メーカーの成長を語る際、販売台数やレース結果はわかりやすい指標になる。しかし、バイクや自動車のような高関与商品では、購入の瞬間よりも、購入後の体験がブランド評価を決める。

二輪であれば、レースに勝つことは強いシグナルになる。だが、ユーザーが実際に求めるのは、故障しにくさ、部品の入手性、整備拠点の信頼性、リセールバリュー、乗り続けたときの満足感である。ZXMOTOが一時的な注目を長期的なブランドに変えるには、サーキットでの勝利を、販売後の安心へ接続しなければならない。

四輪でも同じである。中国車が新車販売で存在感を高めても、数年後の中古車価格が弱ければ、消費者の総保有コストは上がる。ディーラー網や保証対応が不十分であれば、初期購入者の満足度は下がる。ソフトウェア更新やデータ管理への不安が広がれば、EVやコネクテッドカーとしての魅力も薄れる。
ここに、中国モビリティの次の競争軸がある。これから問われるのは、「どれだけ安く売れるか」ではなく、買った後も安心できるかである。日本車が長く海外市場で強かった理由も、単に壊れにくいという評価だけではない。販売店、整備、部品、残価、法人需要、再購入まで含む信頼の循環を築いてきたからである。

終わりに—「安い中国製」から「比較される中国ブランド」へ

今回の二つの事例をつなぐと、中国モビリティ企業の海外展開は、次の段階に入りつつあると考えられる。かつては、価格の安さが主な入口だった。いまは、価格だけでなく、レース結果、EV政策、複数ブランド展開、販売網、ユーザー体験が組み合わさり、既存ブランドと比較される場面が増えている。

ただし、比較されることと、信頼されることは同じではない。中国勢は、すでに多くの市場で「検討対象」になり始めている。次の課題は、検討対象から定番へ移行できるかである。定番になるには、初期ユーザーの満足度を積み上げ、購入後の不安を減らし、長期保有に耐えるブランドとして認識される必要がある。

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ZXMOTOのケースは、中国二輪が「性能の物語」を手にし始めたことを示す。オーストラリアのケースは、中国四輪が「市場構造の隙間」から急速に存在感を高め得ることを示す。だが、どちらも到達点ではない。むしろ本番は、注目された後に始まる。

結論として、中国モビリティの海外進出は、すでに価格競争の物語だけでは捉えられない。二輪はサーキットで信頼の入口をつくり、四輪は開放市場で消費者の選択肢に入り込んでいる。次に見るべきなのは、販売台数の増減だけではなく、購入後の満足、整備網、残価、リピート率、そしてブランドがユーザーの生活に定着する速度である。

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この記事を書いた人

Kitagawa

記事編集クリエイター

趣味は旅行で、アジアを中心に様々な国を訪れています。
現地の人々の生活や文化に触れることで、新しい視点や気づきを得られるのが楽しみです。
好奇心旺盛な性格を活かして、常に新鮮な目線でお届けできればと思います!

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