【中国茶市場の最新動向】ブランド競争激化!「CHALI」に学ぶ差別化戦略

目次

はじめに

誰もが知る烏龍茶、ジャスミン茶、プーアル茶など、知名度の高い中国茶。中国茶葉流通協会のデータによると、2022年の中国の茶葉総産出額は3000億元を超え、世界最大の茶葉生産国かつ消費国としての地位を維持している。世界的にトップを走る中国茶産業だが、国内市場ではブランド競争が激化しており、ブランド力強化が今後の成長の鍵を握るとされている。今回は、これまでの中国茶のブランディングの変遷とともに、近年工夫されたマーケティング戦略で中国茶業界の中でも競合と一線を画した企業を紹介する。

中国茶ブームのこれまで

中国茶ブームは、これまで様々なブランディング戦略によって、幾度となく巻き起こってきた。1970年代には烏龍茶が一躍人気を博したが、これは、「中国茶=健康茶」というイメージ戦略が功を奏し、健康志向の高まりとともに中国茶の人気が高まった。その後、2000年前後に再来した際には、麦茶や緑茶のような日常的な飲料とは異なり、嗜好品としての価値を打ち出した。2010年代以降になり、ブームは収束し、人気にも陰りが出たかのように見えたが、ここ数年でワインやコーヒーなどの嗜好飲料で共通するブランディング方法である「製法、産地、品種といった軸でコンセプト化」により中国茶ブランドの人気が再燃し始めている。現在のブームは、製法や産地、品種などにこだわった「嗜好品としての深み」を追求することで、付加価値を高めるアプローチが特徴である。

中国茶企業に学ぶブランド差別化方法

嗜好品としての価値を追求する中で、各企業は独自のブランディング戦略によって差別化を図ろうとしている。

既存概念の再定義

近年の中国茶市場では、消費者は高級志向でありながら、お茶に対する知識は「健康に良い」という程度にとどまっている。これは、以前の市場とは大きく異なる点であり、従来の常識にとらわれない新たな価値観の提示が重要となる。
2013年に設立されたCHALI(茶里)は、リプトンなど海外ブランドが採用するCTC、つまりCrush(潰す)、Tear(引き裂く)、Curl(丸める)という加工がされた粉末茶葉の使用を避け、摘みたての茶葉をそのまま使用し、なおかつトウモロコシの繊維を使った半透明のテトラパックを使うことで、ティーバッグを透明にすることで、茶葉の品質をアピールした。これは、中国では粉末茶葉は低級品と見なされる傾向があることに着目した戦略である。


また、CHALIは茶葉に対する知識レベルに応じて消費者を5段階に分類しており、最も知識レベルの低い「0級」は、紅茶や緑茶などの一般的な知識しか持たない層で、市場全体の92%を占めるという。CHALIは、お茶の専門家ではなく、一般的な消費者が重視する「トレンド感」をアピールするため、芸能人やインフルエンサーを起用したりバラエティ番組やドラマとタイアップするなど、大衆向けのマーケティング戦略を展開している。

ブランド識別性の向上

出典:Taobao


若者の中国茶離れが進む中、若年層の関心を惹きつけるマーケティング戦略が重要となっている。中国では「顔値」(見た目の良さ)が重視される傾向があり、製品のパッケージデザインの良さは購買意欲に大きく影響する。商品ごとに異なるデザインを採用することで、消費者はパッケージを通して茶葉のイメージを膨らませることができ、コレクション性を高めている。また、写真映えするパッケージはSNSで拡散されやすく、若年層を中心に人気を集めている。

 中国茶カルチャーの現代化

現在の中国では、嗜好飲料の代表格であるコーヒーの定着が急速に進んでいる。現代的な趣味、生活水準、芸術を追い求めるライフスタイルである「プチブルジョワジー」が好まれる傾向もあって、そのライフスタイルに中国茶をいかに融合させられるか、中国茶ブランドとしてではなく、ライフスタイルブランドとしての売り出し方が他社との差別化には機能する。

現在起こりつつある中国茶ブームを牽引する企業代表であるtea’stoneは、まさに中国茶を含めたライフスタイルの提起により中国茶のリブランディングを実践している。ブランドスローガンは「中国茶 新腔调(中国茶に新しい感動を)」。スターバックスが提唱した「サードプレイス」のマーケティング思考に類似し、中国茶カルチャーの発信地として広くてスタイリッシュな店舗を魅力とすることから、「中国のスターバックス」として期待されている。特筆すべきは、個性的な店舗体験である。中国全土18地域の11,200種類以上のお茶の中から108種類のお茶を厳選し、市場シェアがわずか0.2%しかない「黄茶」などの希少なお茶も含め、店舗において「ライトミュージアム」体験を提供している。この体験は、tea’stoneの独自性を高め、竹をモチーフにしたガラスなどの工芸品をテーマにした容器が使用され、博物館のような品質が没入感のあるお茶体験を高めることに一役買っている。

他にも、純粋なジャスミン茶をワインの容器のようなボトルで提供する「ミニシャンパン」などの製品の提供、高級ウイスキーを飲むときのように、クリスタルの氷を入れたガラスのティーカップにお茶を注ぐ提供スタイルなど、西洋のアルコール文化と東洋の茶文化を融合させることで、馴染みがあって新鮮味もある中国茶の楽しみ方を実現している。

観光産業と連携した中国茶業界のあり方

中国茶産業全体としては、観光地ごとに中国茶をアピールしていく取組に活路を見出しつつある。「旅行×中国茶」をテーマに観光プロジェクトの開発が進んでおり、欧米のワイナリーを意識した福建省のマレーシア華僑によって設立された龍岩雲頂茶園や伝統集落である貴州省の烏江寨景区の茶文化体験プロジェクトが有名である。地域資源の活用はもとより、これまで中国茶ブランドの同質化が長年の中国茶産業拡大のボトルネックとされてきたが、地域特性により、より事業ごとの個性を演出できるのではと期待されている。

前述の大規模プロジェクトでないにしろ、中国茶を発信するカフェカルチャーにも地域差が表れており、地域ごとに中国茶巡りをする人が増えている。例えば上海だけでも、ビールみたいな「啤酒茶」やミルクフォームのお茶など、新しいお茶の楽しみ方ができる「开吉茶馆(KAIJI TEA HOUSE)」、コーヒーショップのような店舗作りで燻製風味のお茶や、コンブ茶、お酒がブレンドされたお茶など、変わり種のお茶を提供する「新本茶(SYMBION CHA)」、ティースタンドだけど、急須が並び店員さんが一杯一杯お茶を出してブレンドするブルーボトルコーヒーのような「周四晚」、テイクアウトやデリバリーをメインとし、タピオカやフルーツ等、お茶というよりジュースみたいな甘いお茶を提供する「喜茶(HEY TEA)」が体験できる。カフェ巡りでその地域ごとの中国茶を楽しめる工夫も進んでいる。

終わりに

中国茶産業は、嗜好製品としての深みを追求し、再度ブームを引き起こそうとしている。美味しければ売れる、安ければ売れるという時代は既に過ぎ去り、パッケージデザインや広告宣伝、そしてブランドストーリーの浸透も含めた高度なマーケティング戦略を持ってした戦い方にシフトしつつある。一見すると、中国茶の国内企業の牙城はかたそうであるが、ブランド力が優れている日本茶企業も進出成功の可能性は十分に秘めている。

特に、高品質な製品を求める傾向が顕著な中国では、日本の食品メーカーの高度な技術力や品質管理力は大きな強みとなる。また、ECが急速に発展している中国では、オンライン販売を効果的に活用することで、中国にいながらにして日本の商品を販売し、顧客を獲得していくことが期待できる。

Archesでは、中国の消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、中国における各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等、幅広く日本企業の海外進出を支援しています。

情報参照先:

この記事を書いた人

Aizawa

記事編集クリエイター

大学時代にアメリカへの留学を経験し、その際に異文化への関心が一層深まりました。
現在も海外のライフスタイルに強い興味を持ち、特に北欧やフランスの生活文化をウォッチしています。
これからも読者の皆様に面白い話題を提供できるよう心がけて参ります!

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