【東南アジアEC市場攻略】aCommerce成功事例に見るECイネーブラー活用法
はじめに
近年、東南アジアではインターネットやスマートフォンの普及、人口増加などを理由に、EC市場が急成長を遂げており、世界中から投資や人材が集まる。この市場の成長を支えているのが「ECイネーブラー」と呼ばれる企業である。ECイネーブラーとは、企業がECビジネスを運営するために必要なサービスやサポートを提供する事業者やソリューションのことである。ECサイトの構築・運営、物流、カスタマーサポート、マーケティング、決済処理など、ECビジネスに関わるあらゆる機能が含まれる。
特に、EC運営の専門知識やリソースが不足している企業にとって、ECイネーブラーは重要な役割を果たす。例えば、自社サイトを持たないブランドがAmazonや楽天市場に出店する際、ECイネーブラーは、商品登録、在庫管理、顧客対応などを代行し、ブランドが販売に集中できるよう支援する。
その中でも、タイに拠点を置き、ASEAN地域全体で存在感を示すのが「aCommerce」である。東南アジア5カ国(タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシア)で事業を展開し、175以上のブランドにサービスを提供している。本記事では、「aCommerce」の成功に焦点を当て、そのサービス内容や成功要因を解説する。
ECイネーブラー「aCommerce」とは
aCommerceは、2013年に設立され、タイに本社を置き、インドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシアなどで事業を展開するECイネーブラーである。在庫管理から決済システムまで、EC事業に必要な業務をワンストップで提供しており、味の素やユニ・チャームなど175以上のブランドを顧客に抱える。具体的には以下のサービスを提供している。
(1) ECプラットフォーム構築
- ブランド専用のオンラインストア構築やカスタマイズ
- ShopifyやMagentoなどのプラットフォームの導入・運用支援
- 多言語、多通貨に対応したサイト開発
(2) マーケットプレイス統合
- Lazada、Shopee、Amazonなどの地域特有の主要マーケットプレイスへの出店サポート
- コンテンツの更新、商品登録、価格調整、プロモーション管理
(3) デジタルマーケティング
- データドリブンな広告戦略設計
- SEO対策、SNSマーケティング、インフルエンサーマーケティング、コンテンツマーケティングなど包括的なEコマースマーケティング支援
- 顧客の購買行動を分析し、最適なキャンペーンを実施
(4) 物流およびフルフィルメント
- 東南アジアに5つのフルフィルメントセンターを所有(33,300平方メートルの倉庫スペース)
- ASEAN全域に広がる物流ネットワークを活用し、効率的な配送を実現
- 倉庫管理、在庫管理、ピッキング&パッキング
- 返品処理や顧客サポート
- 独自の倉庫管理システムと輸送管理システムである「Smartship™」 をクライアント企業に提供し、物流プロセスを最適化
(5) 決済ソリューション
- 地域ごとの多様な決済方法への対応(クレジットカード、デジタルウォレット、銀行振込など)
- 安全な取引環境の提供
(6) カスタマーサービス
- 多言語対応のコールセンターでカスタマーサービスを代行
- 問い合わせ対応や購入後のサポートを提供
(7) テクノロジーソリューション
- 独自のプラットフォーム「EcommerceIQ」を提供し、クライアント企業のデータ分析や市場戦略、複数チャネル管理、エンゲージメント管理を支援
「aCommerce」の成功を読み解く3つのキーポイント
2023年には収益を前年比18%増加させるなど、aCommerceはタイをはじめとした東南アジアで成功を収める。この成功要因は以下の3点である。
包括的なエンドツーエンドソリューション
aCommerceは、オンラインビジネスを始めたい企業に対し、単一のプラットフォームで幅広いサービスを提供する。この包括性により、クライアントは複数のプロバイダーを利用する手間を省き、効率的な運営を実現できる。これは、特に東南アジアでは非常に重要な要素である。東南アジアでは、各国で通貨や商習慣が異なり、1つのECサイトやマーケットプレイスだけで事業を展開することが難しい場合が多い。また、消費者はセールや割引で購入することを好み、価格競争が激化しやすい傾向がある。そのため、安価な商品だけで勝負すると、ブランドイメージが損なわれる可能性がある。aCommerceは、ブランドとしての価値・世界観を維持しつつ、各国でステークホルダーを探す必要なく、一気通貫で進出をサポートできるため、近年人気を博している。
ローカル市場への深い理解
aCommerceは、東南アジア市場の多様性を理解し、それぞれの国の文化や消費者行動に応じたサービスを提供する。東南アジアでは、主要なECサイトが限られており、ローカルで影響力のあるプラットフォームとの連携が重要となる。aCommerceは、LINE、Shopee、Lazadaといったプラットフォームと連携し、地域特有の販売機会を捉える。例えば、シンガポールの「11.11セール」など、地域特有のプロモーション期間を活用した販売促進を行う。
また、タイやインドネシアなど主要国に拠点を設置することで、地域ごとの迅速なサポートを実現しているのも成功のポイントである。
強力なパートナーシップ
aCommerceは、以下のような大手テクノロジープラットフォームやマーケットプレイスとの連携を通じて、ブランドに高度なソリューションを提供。
・Shopifyとの提携:Shopify Plusパートナーとして、自社サイト構築を支援
・Googleとの協力:デジタル広告や顧客データ活用を促進
・LINEとの連携:東南アジアでのSNSコマースをサポートし、新たな販売チャネルを提供
これらのパートナーシップにより、ブランドはローカル市場とグローバルなECトレンドの双方を活用が可能となっている。
ASEAN地域の物流改善に向けて
東南アジアの物流インフラは、多様な国々が集まる地理的な特徴や課題により効率性の向上が求められるが、aCommerceはこれに対応するため様々な施策を展開している。例えば、戦略的な地域拠点を設けたリージョナルハブの設立により配送効率を向上させるとともに、消費者がリアルタイムで商品配送状況を確認できるトラッキングシステムを導入し、透明性と利便性を提供している。
また、環境負荷を軽減するための持続可能な物流の追求として、配送方法や包装材の改善を進め、エコフレンドリーな取り組みを強化している。このようにして、東南アジア特有の物流課題を克服しながら、効率的かつ持続可能な物流サービスの実現を目指している。
「aCommerce」の今後の展開
aCommerceの今後の展開は、東南アジアにおける成長と、eコマース支援の提供をさらに強化することに焦点を当てている。特に、地域全体でのサービス強化を目指し、戦略的パートナーシップや技術主導のソリューションを活用している。新しいサービスの導入にも意欲を見せており、AIや機械学習を活用した消費者分析ツールの提供など、最先端技術を活用したサービスを展開予定である。また、直近の5年間の成長率は30%前後で堅調に推移しており、2025年にはIPOを予定している。
終わりに
aCommerceは、今後も成長を続けていくと見込まれる。ASEANのデジタルトランスフォーメーションをリードする存在としてeコマース業界でますます重要な役割を果たすことが期待されている。
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Archesでは、タイなど東南アジアの消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的なマーケティング戦略の立案(宗教や文化に配慮したマーケティング戦略を含む)、流通チャネル開拓に関する情報提供等幅広く日本企業の海外進出を支援しています。
情報参照先:
- aCommerce公式HP|SE Asia’s #1 E-commerce Enabler | aCommerce Making E-commerce Easy| (アクセス日: 2024年12月4日)
- TECHBLITZ|Startup Interview: aCommerce|(アクセス日: 2024年12月4日)
- TECHINASIA|Thailand-based aCommerce cuts net loss, posts US$200m revenue in 2023| (アクセス日: 2024年12月4日)
- Adobo magazine|aCommerce launches ‘Go Green’ initiatives with environmental friendly sustainable packaging for e-commerce in Southeast Asia| (アクセス日: 2024年12月4日)