【東南アジア市場調査】マレーシア発のオーガニックおむつブランド「Applecrumby & Fish」が急成長!その成功戦略とは?

目次

はじめに

ECの発達により、ベビー服ブランドは世界規模で多様化が進んでいる。しかし、おむつブランドといえば、パンパース(P&G)、ムーニー(ユニ・チャーム)、メリーズ(花王)といった既存企業がベビー用品市場を独占している状況だ。おむつは、吸収力・装着力の観点から高度な技術を要するため、新規参入が難しい領域だった。しかし近年、マレーシア発のベビー用品新興企業であるApplecrumby & Fish(アップルクランビー&フィッシュ、以下アップルクランビー)が、東南アジア諸国を中心に人気を集めている。今回は、アップルクランビーがどのようにして人気を獲得したのか、その経緯を中心に解説していく。

マレーシア発の「Applecrumby & Fish(アップルクランビー&フィッシュ)」とは

アップルクランビーは、2012年にクアラルンプールに設立されたベビー用品専門のEC(電子商取引)新興企業だ。オーガニックおむつの製造も手掛けている。D2Cブランドとして、創業者のジャスミン・タン、ショーン・タン夫妻が、自分たちの娘により良いおむつを筆頭としたベビーケア用品を提供したいという思いからスタートさせた。2014年後半にTeak Capitalから資金調達を行い、2016年には500 Globalから30万ドルを調達し、一躍その名前を世に知らしめた。創業者の2人は、元々不動産業界やインテリアデザイナーとして働いており、ベビーケア用品に関する専門知識を持たない状態からのスタートだった。

アップルクランビーの代表製品は、100%塩素フリーのおむつ「Pure Basic」だ。2023年後半から販売を開始し、25万パック以上の売上を記録している。インドを含む東南アジア諸国はもちろん、世界的に見ても、アップルクランビー社製品以前に塩素を全く含まないおむつは存在せず、まさにオーガニックおむつのパイオニア的存在といえる。

アップルクランビーが大事にするマーケティングの考え

様々な業界で高価格帯製品の開発や先端技術を駆使した機能の搭載といったハイエンド化が進む中で、おむつやお尻拭きのような消耗品の差別化は容易ではない。しかし、アップルクランビーは独自のマーケティング戦略で成功を収めている。その根底にある考え方について解説していく。

アクセシビリティの拡充に重点

創業当初は、最高級のオーガニック製品にこだわりECサイトで販売を行っていた。しかし、マレーシアの家庭の8割以上にとって、そのような高価格帯製品は購入が難しいという現実を調査によって把握した。そこで、方針を転換し、「安価であること」を製品開発の条件に加え、安全でオーガニックな製品であると同時に、すべての人が利用できる価格であること。アップルクランビーのマーケティング戦略は、まさにこの考え方に基づいている。

この信念を反映し、アップルクランビーは様々なECプラットフォームとの提携を進めている。自社ECサイトを運営しながらも、「Pure Basic」を様々な場所で販売できるように流通チャネルの開拓に力を入れている。現在、Shopee、Lazada、TikTok Shop、Dagee Baby、Mothercare、MedPLus Pharmacy、Little Genius Babyといった企業とパートナーシップを締結し、マレーシア、韓国、タイ、ベトナム、シンガポール、フィリピン、中国を含む11か国に展開。マレーシアでは、消費者がより利便性を感じられるよう、2024年中には約2,000の小売店で取り扱いが開始される予定だ。

このようなアクセシビリティの拡充は、アップルクランビーの主要市場であるマレーシア、韓国、シンガポールなどで問題となっている出生率の低下に歯止めをかける可能性も秘めている。「子育てにかかる費用の増加」や「優秀な親になるプレッシャー」といった経済的・社会的な制約により、子どもを持たない選択をする家庭を支援することにも関心を寄せている。その一環として、「Pure Basic」と同様に安価でオーガニックなベビーケア用品、スキンケア用品、洗浄用品、ウェットティッシュなどの開発にも取り組んでいる。

ベビーの健康を考えた緻密な製品設計

「Pure Basic」は11層からなるおむつで、すべてに100%塩素を含まない素材を使用している。FSC認証の生分解性パルプ、植物由来の非常に柔らかいバックシートとトップシート、そして最適な乾燥性、吸収性、効率的な水分の閉じ込めを保証する独自のGreenCore-Dry™テクノロジーを採用している。このGreenCore-Dry™テクノロジーは、アップルクランビーが特許を取得した独自の技術だ。

前述の通り、アップルクランビーは100%塩素フリーに徹底的にこだわっている。乳児の皮膚は、大人の皮膚よりも薄く浸透性が高いため、化学物質が皮膚から吸収されやすく、体への悪影響のリスクが高いことが様々な研究で報告されている。そのため、塩素が乳児の体に吸収されることのないよう、製品設計に工夫を凝らしている。

おむつには、完全塩素フリー (TCF) おむつと元素塩素フリー (ECF) おむつがある。どちらも漂白プロセスで有害な元素塩素を回避することは可能だが、TCFおむつは、酸素や過酸化物などの代替方法を使用して塩素を完全に排除し、経皮毒のリスクをなくしている。

一方、ECFおむつは元素塩素を二酸化塩素に置き換えるだけであり、おむつ内に微量の塩素が残留する可能性がある。アップルクランビーの製品はTCFおむつであり、量販用おむつとしては世界的に見ても他に類を見ない製品だ。この点が、現在の圧倒的な差別化要因となっている。しかし、今後類似製品が登場した場合、どのように差別化を図っていくのかは課題として残されている。

アップルクランビーの次なる一手は?

マレーシアでは、おむつのリーディングカンパニーとして認知されているアップルクランビー。これまで製品の品質と企業の社会貢献活動によって支持されてきたが、さらなる成長を遂げるためには、競合他社の動向を把握することが重要となる。そこで、パンパースやユニ・チャームといった大手企業のマーケティング戦略を競合分析し、参考にしながら取り入れることで、さらなる市場シェアの獲得を目指せる可能性がある。

例えば、パンパースは「すべては赤ちゃんのために」という理念を掲げ、赤ちゃんの安心・安全を顧客に訴求することで、病院や産院とのパートナーシップを構築し、市場シェアを拡大してきた。「Pure Basic」も乳児の健康に配慮した製品であり、より多くの人に利用してもらうために流通チャネルの開拓を進めている点を考えると、病院や産院など、おむつを必要とする場面が多いステークホルダーとのネットワーク構築は有効な戦略といえるだろう。

また、ユニ・チャームが展開している定額利用サービス「手ぶら登園」も参考になるかもしれない。「手ぶら登園」は、保育施設でおむつとお尻拭きが使い放題になるサブスクリプションサービスだ。これにより、親の登園準備の負担を軽減することができる。育児の負担や「優秀な親」へのプレッシャーから子どもを持つことをためらう層への働きかけを検討しているアップルクランビーにとって、親の視点に立ったサービス展開は有効な手段となり得る。

さらに、新たな市場、特に欧米や日本に進出する際には、社会の変化にも目を向ける必要がある。「女性の社会進出」「少子化」「晩婚化」といったキーワードは重要だ。共働き世帯の増加に伴い、子育ての効率化をサポートする製品が求められている。また、少子化・晩婚化により、子ども一人ひとりに対する関心が高まっていることを考慮すると、デザイン性や機能性の訴求も欠かせない。しかし、薄型化、足回りのギャザー、さらさらのライナー、通気性といった機能面での改良は、すでに多くの製品で実現されている。そのため、新たなニーズの発掘や独自の視点を持つことが、強力な差別化要素となるだろう。

終わりに

ベビー関連用品は生活必需品であるため、一般的にその国の経済力と市場の成長は比例すると考えられてきた。例えば、紙おむつ市場は一人当たりGDPが3,000ドルを超えると形成され始めると言われている。しかし、東南アジア諸国では、このセオリーに当てはまらないケースが増えている。「リープフロッグ」型に成長する市場が多く見られるようになり、特にオーガニック分野でその傾向が顕著だ。アップルクランビーの躍進は、まさにその象徴的な事例と言えるだろう。

複数の価値観分析から、人々が「健康」や「ナチュラル」といった価値観に共感していることが明らかになっている。東南アジア諸国では健康意識が高まっているため、日本製品は価格設定を適切に行うことで、現製品のままでも現地ニーズに対応できる可能性がある。今後の市場展開が期待される分野と言えるだろう。

東南アジア諸国のベビー用品市場や、参入企業の事例に関心をお持ちの方は、Archesまでお問い合わせください。Archesでは、国内外の企業事例、消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的な事業戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、現地における各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介など、幅広く日本企業の海外進出を支援しています。

情報参照先:

この記事を書いた人

Aizawa

記事編集クリエイター

大学時代にアメリカへの留学を経験し、その際に異文化への関心が一層深まりました。
現在も海外のライフスタイルに強い興味を持ち、特に北欧やフランスの生活文化をウォッチしています。
これからも読者の皆様に面白い話題を提供できるよう心がけて参ります!

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