【ASEAN化粧品ライブコマース事情】インドネシア・ベトナムに広がるスキンケア&メイクの新潮流とは?

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はじめに:急拡大するASEANの化粧品ライブコマース市場

近年、日本の化粧品業界にとってASEAN市場は大きな成長機会である。ASEAN諸国(東南アジア10か国)の総人口は6億5,000万人を超え、EUに匹敵する巨大市場である。東南アジアでは人口ボーナスと呼ばれる若年層人口の多さや中間層の台頭、EC普及の進展を背景に、化粧品需要が急拡大している。国内市場が少子高齢化で伸び悩む一方、Jビューティー(日本製化粧品)は世界的に評価が高く、日本の化粧品輸出も年々増加傾向にある。こうした中、ASEAN化粧品市場ではライブコマースなどデジタルチャネルを活用した新たな販路が台頭しており、TikTokやShopeeといったSNS・ECプラットフォームを通じたリアルタイム販売が注目されている。

SNS起点の購買行動とライブコマースの定着

ASEAN地域の化粧品市場規模は2020年時点で約50億ドルと推計され、その後も年率二桁の成長を続けている。経済成長に伴う可処分所得の上昇や都市化の進展、スマートフォンの普及に伴うネット接続環境の拡大を受け、美容・パーソナルケア製品への支出は今後も拡大が見込まれる。

また、近年のコロナ禍を経て消費者のオンライン購買が加速し、TikTok ShopのようなソーシャルECチャネルが急速に普及したことも市場拡大を後押ししている。実際、肌の美白やアンチエイジングといった美容需要の高まりが顕著であり、2028年までに市場規模が3倍近くに拡大するとの予測もある。

同時に、東南アジア全体で若年層を中心に美容意識が向上し、SNSで流行が瞬時に共有される時代となった。YouTubeやInstagram、TikTokといったソーシャルメディア上で発信されたメイク動画や製品レビューが消費者の購買意欲を直接刺激している。気に入ったコスメがあれば、投稿を見たその場でECサイトを開いて購入するといった行動が一般化してきている。

さらに、ShopeeやLazada、TikTok Shopなどモバイル特化型のECプラットフォームが各国で存在感を高めている。これらの企業はライブコマース機能を強化しており、インフルエンサーがリアルタイムで商品を実演・紹介し、その配信中に視聴者が直接購入できる仕組みを整えている。例えば、マレーシアでは有名ビューティーインフルエンサーがShopee Live上で日本製コスメを紹介すると、配信中に当該商品の在庫が即座に完売するといった現象も起きている。このように、ASEAN 化粧品 ライブコマースの隆盛は消費者に「楽しみながら買う」新たな購買体験を提供しつつある。

なお、ASEANの化粧品市場には日本企業のみならず韓国・欧州・中国など多国籍のプレイヤーが参入しており、それぞれが自国の強みを生かした戦略でシェア拡大を狙っている。韓国系メーカーはK-Beautyブームを背景に、商品開発のスピードやトレンドへの即応力で一歩先を行く。日本企業は「安心・安全」「高品質」といったブランドイメージに強みを持ち、医薬部外品や敏感肌向け高機能コスメで差別化を図る一方、市場トレンドへの対応スピードに課題を抱える場合もある。

欧州系企業は天然由来成分やオーガニック処方を武器に高級路線で存在感を示し、特にタイやシンガポールなど富裕層市場で支持を集めている。また、中国系企業も豊富な品揃えと積極的なSNSマーケティングを武器に台頭しており、低価格帯の商品で若年層の支持を獲得している。このようにASEAN市場は競合環境も多様であり、各社がライブコマースを含む最新手法も駆使しながら市場攻略を競っている。

インドネシア・タイ・ベトナム各国の注目ポイント

ASEAN市場の中でも、特に化粧品需要が旺盛で成長性の高いのがインドネシア・タイ・ベトナムの3カ国である。いずれも人口規模や所得水準、宗教・文化的背景が異なるため、各市場で求められる製品特性やマーケティング戦略は大きく変わる。ここでは、主要プレイヤーが進出時に注目すべきポイントを整理する。

インドネシア

約2億7,000万人というASEAN最大の人口を抱えるインドネシアは、世界最大のイスラム教国である。化粧品市場ではハラール対応や天然由来成分が重視され、美白やアンチエイジング製品の人気が高い。インフルエンサーの影響力が絶大で、インドネシアではTikTok上の化粧品レビューが購買に直結するほどである。実際、TikTokで流行する「メイクアップチャレンジ」や「GRWM(Get Ready With Me)」といった動画に影響を受けた若者が「自分も綺麗になりたい」とコスメを探すケースが多い。こうしたSNS発のトレンドが購買に直結しやすい市場でもある。なお、2026年には化粧品へのハラール認証取得が義務化される予定であり、海外ブランドにとって事前の対応が不可欠だ。

タイ

タイはASEAN諸国の中でも比較的高い所得水準を持ち、美容意識が成熟した市場である。バンコクを中心とする都市部の消費者は欧米や日本のブランドに対するロイヤルティが強く、美白・UVケア・敏感肌向け製品が人気である。仏教国のためハラール認証は必須ではないが、周辺のムスリム市場への輸出を視野に入れ対応する企業も少なくない。また、タイの消費者はパッケージデザインや香りといった使用感や見た目にも敏感で、「心地よさ」と「映え」を兼ね備えた商品が好まれる傾向にある。

ベトナム

経済成長が著しいベトナムは平均年齢が若く、Z世代を中心に美容消費が活発化している。韓国コスメや日本製コスメへの信頼感も根強く、近年はオーガニック志向のスキンケアやアクネケア製品の需要が拡大している。自然由来成分や敏感肌対応といったキーワードに対する意識が高まっており、市場にはクリーンビューティー志向が浸透しつつある。また、ベトナムではShopeeなどのECプラットフォームでコスメを購入する若者が多く、TikTok Shopを活用したライブコマースにも親しんでいる。こうしたSNS・ECを通じたD2Cモデルでの購買にも抵抗が少なく、ネット発の新興ブランドが台頭しやすい土壌がある。

ライブコマースで勝つための戦略

東南アジア市場に進出する際、日系化粧品メーカーにはいくつかの典型的な課題がある。第一に、インドネシアBPOMやタイFDA、ベトナムMOHに代表される各国独自の薬事規制への対応が煩雑なこと。第二に、香り・色・パッケージデザイン・ネーミングなど商品・ブランドのローカライズ不足により、現地消費者の心をつかみ損ねるリスクがある。例えば、日本で評価される控えめな香りやデザインが、東南アジアの市場ではインパクト不足と見なされるケースもある。第三に、現地ECモールやインフルエンサー、ライブコマースといった販売チャネルの活用不足が挙げられる。これらの壁を乗り越えるには、単に優れた製品を輸出するだけでは不十分である。現地市場に根ざした包括的な戦略を構築し、「ローカル適応力」を高めることが重要である。

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具体的には、製品開発では現地の嗜好に合わせた処方や香り、パッケージデザイン、ブランド表現を追求し、各国それぞれの薬事規制やハラール認証にも柔軟に対応できる体制を整える必要がある。また、製造面でもすべてを日本国内で完結させる従来型から脱却し、現地生産や最終工程のローカル化といった柔軟なアプローチが有効だ。中でも、中身は日本で製造し最終充填・包装を現地で行う「ハイブリッド生産モデル」は、「日本品質」を保ちながら現地仕様への適応や物流コスト削減、納期短縮を両立できる方法として注目されている。現地生産比率を高めることで、各国の関税優遇措置を受けやすくなるなど規制対応面でもメリットが生まれる。さらに、現地ブランドと協業して商品を共同開発することで、最新トレンドに即した製品投入スピードを高める試みも見られる。

なお、良い製品を作るだけでは今のASEAN市場では通用せず、競合に埋もれてしまう。それだけにマーケティングと販売チャネルの現地最適化が不可欠である。現地ECモールへの出店、インフルエンサーとの提携、ライブコマースによるPR強化など、多角的な施策を通じてブランド認知とファン育成に努めることが求められる。言語や文化の壁を越えるためには現地クリエイターとの協働によるコンテンツ発信が効果的である。

TikTokやShopeeといったプラットフォーム上でローカルのトレンドに沿った情報発信を行うことで購買意欲を喚起できる。さらに、一部企業は現地消費者の嗜好を把握するため細かなテストマーケティングにも注力している。例えば、同一処方で香りだけを変えた複数の試作品をSNS上でモニターに提供し、どの香りが好まれるかを計測する、あるいはパッケージの色合いやキャッチコピーについてオンライン投票を募るといった取り組みである。こうしたデータに基づく微調整を重ねることで、最終的に現地ニーズに合致した製品設計が可能となり、顧客ロイヤルティ(LTV)の向上につながっている。

終わりに

ASEANの化粧品市場において成功するためには、「日本品質」の訴求だけでは十分ではなく、現地の文化、消費者動向、規制への深い理解と対応力が欠かせない。ブランド戦略からマーケティング、製品開発に至るまでローカル・ファーストの姿勢で取り組み、現地パートナーとの連携を強化することが、市場攻略の鍵である。日本の強みを活かしつつ現地への適応力を磨いた企業こそが、ASEANで持続的な成長を遂げるであろう。

情報参照先:

この記事を書いた人

Kitagawa

記事編集クリエイター

趣味は旅行で、アジアを中心に様々な国を訪れています。
現地の人々の生活や文化に触れることで、新しい視点や気づきを得られるのが楽しみです。
好奇心旺盛な性格を活かして、常に新鮮な目線でお届けできればと思います!

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