【海外成功事例】2026年ARグラス市場の覇権争い:「XREAL」「Rokid」「雷鳥」はいかにして世界シェアを奪ったのか?

はじめに——XR市場の構造変化とARの躍進
グローバルなXR(エクステンデッド・リアリティ)市場は、2025年から2026年にかけて大きな転換点を迎えている。従来のVR(仮想現実)ヘッドセットが消費者需要の停滞により出荷台数を減らす一方で、AR(拡張現実)スマートグラス市場は史上最高の成長を記録している。2025年第3四半期、AR/VRを合わせたXR市場全体において、ARのシェアは4分の1近くまで上昇した。

この成長を主導しているのは、XREAL(エックスリアル)、Rokid(ロキッド)、そして雷鳥(RayNeo)という中国発の3大ブランドである。2025年上半期、中国系メーカーは世界のスマートグラス出荷台数の26.6%を占める100万台以上を出荷し、中国国内市場では前年同期比107%増という驚異的な伸びを記録した。これらの企業は、単なる低価格戦略ではなく、既存のサプライチェーンの再定義と、AI(人工知能)との高度な融合という「水平思考」に基づいた戦略を展開している。
本レポートでは、これら3社がどのようにして海外市場で確固たる地位を築いたのか、その成功要因を論理的に分析する。
グローバル市場におけるARグラスの台頭と中国企業の地政学的優位性
グローバルなXR市場において、中国企業が急速に台頭している現象は、単なる低価格戦略の結果ではない。そこには、深圳や無錫といった製造クラスターが生む圧倒的な開発スピードと、実用性を最優先する「水平思考」的なプロダクト設計の勝利がある。本章では、ARグラスがいかにしてVRヘッドセットを凌駕し、新たなコンピューティング・インターフェースの主役に躍り出たのか、その背景にある地政学的な強みと市場の構造変化を詳しく分析する。
市場シェアの地殻変動:VRからARへのシフト
2025年、XR市場の主役はMeta Questに代表されるVRデバイスから、日常的に装着可能なスマートグラスへとシフトした。IDCの予測によれば、2025年のスマートグラス出荷台数は前年比39.2%増の1,430万台に達し、その成長率はVRを大きく上回る。この背景には、光学技術(Micro-OLEDやMicro-LED)の進化と、生成AIによる実用的なユースケース(リアルタイム翻訳や対話型アシスタント)の登場がある。
中国企業を支える「垂直統合」と「開発速度」
中国企業が海外市場で優位に立つ最大の要因は、深圳や無錫といったテックハブに集積された「世界最強のサプライチェーン」である。マイクロエレクトロニクス、光学モジュール、精密工学の工場が物理的に近接しているため、R&D(研究開発)から量産までのサイクルが劇的に短い。欧米企業が設計変更に数ヶ月を要するところを、中国勢は数週間で試作・テストを完了させる。また、中国政府による「中国製造2025」などの戦略的支援も、R&D投資やスタートアップへの有利な環境を提供し、技術障壁の克服を加速させている。
XREAL:ユーザー中心のエコシステムと強力なリテール戦略
XREALは、消費者向けARグラス市場において4年連続で世界シェア首位を維持しており、2025年第2四半期には出荷台数で前年同期比113.7%増を達成した。
コンテンツの「水平展開」:Beam Proの戦略
ARグラスの普及を阻む最大の要因は「AR専用コンテンツの不足」であった。XREALはこの課題に対し、新しいコンテンツを作るのではなく、既存の「2Dアプリ資産」をAR空間に持ち込むという水平思考で回答した。
コンパニオンデバイス「Beam Pro」は、Google Playストア上の数百万のAndroidアプリを3DoF/6DoFのAR空間で利用可能にするNebulaOSを搭載している。これにより、ユーザーはNetflixでの動画視聴やXbox Game Passでのゲーミングを、200インチ級の仮想スクリーンで即座に体験できるようになった。
ゲーミングコミュニティへの深耕とパートナーシップ
XREALの海外進出における特筆すべき成功要因は、ターゲットを「ゲーマー」と「映像視聴愛好家」に絞り込んだことにある。
米国市場での調査に基づき、同社は「没入型のポータブルモニター」としての価値を強調した。2026年のCESでは、ASUS ROGと提携し、世界初の240Hzリフレッシュレートを誇る「ROG XREAL R1」を発表。これにより、単なるガジェットから「ゲーマーの必須周辺機器」へとブランドポジションを昇華させた。
オフライン小売チャネルの圧倒的拡大
ARグラスは「体験しなければ価値が伝わらない」デバイスである。XREALは、米国のMicro Centerや欧州の高級百貨店Selfridges内のSmartechなど、世界700以上の拠点で体験型の販売を展開している。ロンドンのSmartechでは、XREAL Air 2 ProがPS5と同等の販売ペースを記録した事例もあり、リテールでの成功が北米シェア43.9%という驚異的な数字を支えている。
Rokid:空間コンピューティングによる「実用性」の極致
Rokidは、エンターテインメント志向の競合他社とは一線を画し、「生産性の向上」と「産業用ソリューション」を背景としたハイブリッド戦略で成功している。
B2Bで鍛えられた技術的信頼性
Rokidの強みは、石油採掘や電力保守などの過酷な現場で採用されている産業用AR「X-Craft」シリーズにある。
IP67の防塵防水性能や、騒音下でも98%の精度を誇る音声認識エンジンなど、産業界で検証された技術が消費者向け製品(Rokid Max 2等)にフィードバックされている。この「堅牢な技術基盤」が、ビジネスマン層への信頼に繋がっている。
「モバイルオフィス」という独自の価値提案
Rokidは、Rokid Station 2と組み合わせることで、最大3つの仮想画面を並列表示できるマルチタスク環境を提供している。特筆すべきは、移動中の映像酔いを防ぐ「Motion Mode(モーションモード)」である。振動補正アルゴリズムにより、飛行機や列車の揺れの中でも安定した画面表示を維持できる。これは、出張の多いプロフェッショナルにとって、狭い座席でのラップトップ作業を代替する強力なベネフィットとなっている。
オープンなAIエコシステムの構築
2026年、Rokidは特定のLLM(大規模言語モデル)に縛られない「オープンなAIエコシステム」を提唱した。多言語でのリアルタイム翻訳やナビゲーション機能を多言語で提供し、CES 2026ではその実用性が高く評価され「Smart Living Award」を受賞した。デバイス単体での性能向上に加え、AIがユーザーの周囲の状況を認識してアシストする「アンビエント(環境知能)コンピューティング」の領域で差別化を図っている。
雷鳥(RayNeo):垂直統合による破壊的コストパフォーマンス
TCLグループのブランドである雷鳥(RayNeo)は、ディスプレイ技術における圧倒的な製造能力を背景に、急速に市場シェアを拡大している。2025年第3四半期、世界のARスマートグラス市場で24.5%のシェアを獲得し、世界1位の座を確保した。
ディスプレイメーカーとしての構造的優位性
雷鳥の成功の源泉は、親会社TCLのディスプレイ量産能力にある。世界トップクラスのTVメーカーとしての知見を、Micro-OLEDやMicro-LEDの小型パネルに転用することで、高品質なディスプレイを極めて低いコストで調達できる。例えば、世界初のHDR10対応ARグラス「RayNeo Air 4 Pro」を、競合他社が追随困難な299ドルという価格帯で発売し、市場に衝撃を与えた。
最先端技術の早期製品化
同社は技術的リーダーシップを強調するため、Micro-LED光導波路技術を用いた「RayNeo X3 Pro」などのフラッグシップ機をいち早く市場投入している。
このモデルはTIME誌の「2025年最高の発明」に選ばれるなど、技術力の証明として機能している。安価な「モニター代替グラス」から、eSIMを搭載した「単独動作可能なARコンピューター」まで、幅広いポートフォリオを展開することで、あらゆる層のユーザーを獲得している。
Amazon等でのデータ駆動型マーケティング
雷鳥は海外展開において、AmazonやSam’s Clubなどの主要EC・小売チャネルでのプレゼンスを急拡大させた。2025年のブラックフライデーセールでは、ARグラス部門のベストセラーを独占し、海外売上高は前年同期比3.8倍を記録した。これは、TCLが長年培ってきたグローバルな流通網とアフターサービス網を最大限に活用した結果である。
まとめ——中国3強に学ぶ成功のビジネスロジック
XREAL、Rokid、雷鳥の3社がARグラス市場でキャズムを越え、海外で成功した要因は以下の3つの論理に集約される。
- 「既存資産の再定義(水平思考)」による実用化
AR専用のアプリを待つのではなく、スマホアプリ(XREAL)、PCのマルチディスプレイ(Rokid)、映画館の大画面(雷鳥)といった、ユーザーが既に理解している価値をARに転換したことが、初期の普及を決定づけた。 - サプライチェーンの物理的統合による超速開発
深圳・無錫を中心としたサプライチェーンの近接性は、設計から製品化までのリードタイムを欧米メーカーの数分の一に短縮した。これにより、市場のフィードバックを即座に次のモデルに反映する「進化の加速」が実現された。 - AIとの融合による「スマート化」へのピボット
単なる表示装置から、AIを搭載したインテリジェントなインターフェースへと迅速に機能を拡張した。2026年には「AR+AI」が標準となり、視覚情報のリアルタイム解析や翻訳が可能なデバイスとして、日常生活への浸透を確固たるものにしている。
日系企業がこれら3社から学ぶべきは、技術スペックの追求以上に、サプライチェーンの柔軟な活用と、既存のデジタル体験をいかにシームレスに拡張するかという「体験の再構築」にある。ARグラスはもはや未来の夢物語ではなく、中国3強の戦略によって「現実的なコモディティ」としての階段を上り始めている。
情報参照先:
- Counterpoint Research|Global XR (AR & VR Headsets) Market Share: Quarterl|(アクセス日:2026年1月21日)
- China Daily|Smart glasses sector set for rapid growth|(アクセス日:2026年1月21日)
- IDC|AR & VR Headsets Market Insights|(アクセス日:2026年1月21日)
- InsightAce Analytic|AI Smart Glasses Market Updated Research Report 2025|(アクセス日:2026年1月21日)
- 36Kr|2025 Smart Glasses: The Path Divergence Amid High Hype and Low Sales|(アクセス日:2026年1月21日)
- Oreate AI Blog|Analysis of the Development Prospects and Industry Insights of China’s AI Smart Glasses Market in 2025|(アクセス日:2026年1月21日)
- inairspace|Chinese Smart Glasses Brands Are Reshaping the Global Tech Landscape|(アクセス日:2026年1月21日)
- China Daily|Xreal maintains No 1 global AR market share for 4th consecutive year|(アクセス日:2026年1月21日)
- UBI Research|Meta Leads AI/AR Smart Glasses Boom as China Strengthens Its Supply Chain|(アクセス日:2026年1月21日)
- XREAL|XREAL Beam Pro|(アクセス日:2026年1月21日)
- Best Buy|XREAL – BEAM PRO AR Glasses Spatial Computing Companion w/ Dual 50MP 3D Cameras, 6GB RAM & 128GB SSD|(アクセス日:2026年1月21日)
- Eleven International|Case Study: XREAL|(アクセス日:2026年1月21日)
- Reddit|【Big news】XREAL is expanding to over 700 retail locations across Europe, Asia, and the US!|(アクセス日:2026年1月21日)
- Oreate AI Blog|In-Depth Analysis of the Investment Value of Rokid Technology’s Industrial Ecosystem and Concept Stocks|(アクセス日:2026年1月21日)
- Rokid|What is Rokid AR Spatial? A Comprehensive AR Solution From Entertainment to Productivity|(アクセス日:2026年1月21日)
- Rokid|How Rokid AR Spatial Reshaping the Mobile Office Experience|(アクセス日:2026年1月21日)
- Rokid|How Rokid AR Spatial Enhances Your Daily Life: From Travel to Office|(アクセス日:2026年1月21日)
- Congruence Market Insights|AI-powered Smart Glasses Market Insights & Growth Outlook 2025–2032|(アクセス日:2026年1月21日)
- EIN Presswire|At CES 2026, Rokid’s Vision Gains Industry Recognition|(アクセス日:2026年1月21日)
- Mashable|The best smart glasses of CES 2026 — Xreal, TCL, Even Realities|(アクセス日:2026年1月21日)
- PR Newswire|RayNeo solidifies its global AR market leadership in Q3 with a 24% share|(アクセス日:2026年1月21日)
- Virtual Reality News|TCL’s $299 HDR10 Smart Glasses Just Disrupted AR Market|(アクセス日:2026年1月21日)
- Mashable|CES 2026: I tried TCL’s new RayNeo Air 4 Pro AR glasses|(アクセス日:2026年1月21日)
- Guangzhou Wogo Yuanbao Hotel|Guangzhou Wogo Yuanbao Hotel (Zhujiang New Town)-Tourism|(アクセス日:2026年1月21日)
- Pandaily|RayNeo’s Overseas Sales Nearly Quadruple in Q3, Retaining Global No.1 Spot in AR Smart Glasses|(アクセス日:2026年1月21日)
- Air Power Manufacturing Solutions|Virtual Reality, Augmented Reality, & Artificial Intelligence|(アクセス日:2026年1月21日)
- Xpert.Digital|TCL Rayneo X3 Pro-Smart Glasses 2.0, Augmented Reality, AI glasses and more than just data glasses-Design & Display technology in the eye|(アクセス日:2026年1月21日)
- Oreate AI Blog|RayNeo X2: The Future of AR Glasses Is Here|(アクセス日:2026年1月21日)
- RayNeo|Which Smart Glasses Offer the Best Value for Money? The 2026 Buyer’s Guide|(アクセス日:2026年1月21日)
- ZDNET|I wore the world’s first HDR10 smart glasses, and they can easily replace my home TV|(アクセス日:2026年1月21日)


