【東南アジア市場 成功事例】タイのスポットワーク市場を席巻する「DAYWORK」とは?

目次

はじめに

近年急速に認知度が高まり普及してきた「スポットワーク」。単発で短い時間から働けるため、忙しい学生や主婦層から人気なだけでなく、副業として活用する社会人やプロジェクトのスポットアサインとして採用する企業人事も増加している。

日本では、タイミー、シェアフル、LINEスキマニ、メルカリハロ、ショットワークスがスポットワークの求人サイトの5大企業と言われている。一方、タイではスポットワークが日本よりも急速に定着の動きを見せており、その市場では求人アプリのDAYWORKという企業が人気を高めつつある。今回は、タイのスポットワーク事情とDAYWORKがなぜ魅力的なのかについて解説する。

スポットワーク及びその市場とは

スポットワークとは、ワーカーが自分の働きたい時間に合わせて短時間・単発の仕事をする、継続した雇用関係のない働き方を指す。働き手側は、自身の都合に合わせてスケジュールを組むことができる。一方で、採用側にとっても急な欠員や繁忙期の際に柔軟な採用ができる、必要な時期だけ人材を雇用することで、福利厚生や人件費のコストを抑えられるといったメリットもある。

スポットワークに区分されるタイプは2種類で、フードデリバリーサービスの配達員など、雇用契約を結ばずに単発の業務委託契約を結んで業務を行う「ギグワーク」と、企業と短期雇用契約を結ぶ「単発バイト」である。ここでは、ギグワークに焦点を当てて話を進める。

UberやLyftの交通サービス、Doordashやinstacartの宅配サービスのように代表されるアメリカのギグエコノミーでは2021年の時点で約6800万人の労働者が働いており、その数は2027年までに5700万人から8600万人に増加すると推定されている。また、イギリスのギグエコノミーの労働力は2016年から2019年にかけて2倍以上の470万人と増加しており、日本だけでなく世界規模で急速に「新たな働き方」として浸透しつつある。その背景には、生産年齢人口の減少、働き方の柔軟性の高まり、副業・兼業の解禁、テクノロジーやAI/データの活用といったポジティブ、ネガティブ様々な要素が絡んでいると言われている。

急速に発展するタイのギグエコノミー

ギグエコノミーの発展は東南アジア全域で見られる、より広範なトレンドの一部である。国際労働機関(ILO)などの推計によると、東南アジアにおけるギグワークの市場規模は2025年までに200億ドルに達すると予測されており、タイはその主要な貢献国の1つとして認識されている。

主要領域は、輸送・配達と専門的なサービスの提供の2つであり、輸送配達ではGrab、Bolt、Foodpanda、LINE Man、Lalamove、専門的なサービスの提供ではUpwork、Freelancer、Toptalが主流企業である。どちらも国際的なプラットフォームがシェアを獲得しているところから、市場の中ではタイ発のDAYWORKは国内ブランドとして際立った存在と言える。

タイのギグワーカーは、都市部の若年層、特にミレニアル世代とZ世代でほぼ構成されており、これは時代によって働き方への考え方が変容していることが如実に反映されている。ギグワークを選ぶ人の特徴として、働き方の柔軟性への嗜好、リモートワークのケイパビリティの高さ、デジタル経済への参入容易性が挙げられる。また、都市部に集中しているのは、ギグワークを構成する輸送・配達と専門的なサービスの提供に関する仕事の需要が高いこと、デジタルインフラが整備されていて、アプリケーションに簡単にアクセスできることが影響している。

注目を集めるDAYWORKとは

DAYWORKは、700以上の企業と提携、600,000以上のギグワーカーが登録、1,000,000以上の納品営業日の実績を誇るタイ・バンコクに拠点を構えるスタートアップであり、短期的な日雇い仕事に特化して設計されたプラットフォームを提供している。

ブルーカラー労働者が労働集約的な仕事(引っ越し、清掃、イベントスタッフ、建設など)を日払いまたは時間払いで見つけられるマーケットプレイスを提供している点が特徴である。2021年には非公表ながらPawoot Pom Pongvitayapanuから資金調達をしており、直近では日本企業のAPPMANとも提携を始めるなどタイ市場を超え世界市場への進出も積極的に進めている。

DAYWORKの他社との差別化されているサービスの特徴は、地域密着型、労働者の柔軟性がより確保されている、使いやすいプラットフォームの仕様の3つが挙げられる。

地域密着型のサービス展開

GPSベースを活用してサービスを展開しており、労働者を現在地近くの就業機会と結びつけている。これは、ホスピタリティ、イベント、ロジスティクス、清掃サービスなどで短期労働者の需要が高いバンコクのような都心部といったターゲットエリアを熟知した上での展開が機能しているといえよう。

労働者の柔軟性の確保

DAYWORKはギグワーカーに長期的なコミットメントを推奨していない。ギグワーカーは継続的な契約のプレッシャーなしに必要に応じて仕事を選択でき、雇用主にとっては、長期的な雇用契約を結ぶことなく、特定のタスクのために労働者を雇用できることを可能にしている点で優れている。競合であるTaskRabbitのようなプラットフォームは、定期的なサービス(例:週1回の掃除、定期的な便利屋作業)の求人募集を実施し、ギグワーカーとクライアントの間に長期的な関係を築くことを好むユーザーには適しているが、継続性を求めないユーザー向けのサービスというターゲットの棲み分けをした結果である。

プラットフォームの高度な仕様

派遣労働者を探している雇用者のプロセスを合理化するために構築されたプラットフォームを採用している。雇用主は具体的な条件の仕事を掲載でき、ギグワーカーは近さと利用可能性に基づいてマッチングすることが容易にできる。競合であるTaskRabbitやGigSmartのようなプラットフォームも使いにくいわけではないが、DAYWORKはより仕事のマッチングプロセスのスピードを重視しており、雇用主とギグワーカーをリアルタイム(たいていは数分以内)に結びつけることを目指している。つまり、包括的な機能の具備よりも、マッチングスピードに重きをおき合理的にプロセスが実行されるよう削ぎ落としたプラットフォームの仕様になっているのである。

また、ユーザーのリピート率を改善した最大の要因として完了した仕事内容に対する報酬の即時払いという点も特筆すべきである。競合であるGigSmartやWonoloのようなアプリは支払いサイクルが長く、比較した際にすぐに資金需要がある人々にとって魅力的な優位性がある。

整備が進むギグワークへの法制度

タイの労働法は伝統的にフルタイムの正規雇用を想定して作られた労働者保護法(LPA)があるが、近年台頭してきたギグワーカーを保護する法律というのは存在してなかった。そのため、社会保障、保険、企業からの不当な扱いに対する支援が欠如していた。一方で、ギグワーカーは非正規労働者にあたり、税法遵守の監視が緩く税金がひかれない副業としても密かに有名であった。

GrabやLalamoveのような一部のプラットフォームは、収入の一定割合を税金として源泉徴収する仕組みを有しているが、DAYWORKを含む大多数のプラットフォームは有しておらず、基本的には申告・納税のコンプライアンス責任は労働者個人にあるため、個人の裁量に委ねられている実態であった。このことを問題視している税務当局は、特にデジタル・プラットフォームに参加し、インフォーマル経済に貢献する労働者が増えるにつれて、ギグワークの収入を追跡し、課税する仕組みを計画している。そのため、ギグワーカー自体が減少する可能性もあるし、各プラットフォームに納税管理に関する仕組みの導入義務付けがなされる可能性もある。

終わりに

人口的に若年層がマジョリティを占める東南アジアでは、若年層の嗜好や考え方を中心に大きく市場や経済の変容がおきている。DAYWORKは現在ブルーカラーの仕事中心に扱うプラットフォームだが、日本をはじめ世界各国の企業との提携をはじめホワイトカラーの仕事も取扱いの兆しやHRが本来持つ役割を代行する事例も増やしつつある。

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