【中国自動車業界の最新動向】自動運転・EV・リチウムイオン電池~日系企業が中国市場で検討すべきこと~

はじめに
中国の自動車産業は、自動運転や電気自動車(EV)、車載用リチウムイオン電池などの領域で急速な変革を遂げている。世界最大の自動車市場を背景に、中国メーカーや関連企業は政府の後押しも受けて技術開発と市場拡大を続け、これらの分野で存在感を高めている状況だ。
日本企業にとっても、これらの動向は無視できない重要な要素であり、新規事業開発や海外展開を検討する際に注視すべきポイントとなっている。本稿では、中国における自動運転技術、EV車市場、リチウムイオン電池産業の最新動向を概観し、日系企業が中国市場で検討すべき戦略について考察する。
自動運転・センシング技術の変化
自動運転技術において、中国はセンサー分野を中心に急速な進歩を遂げている。高性能センサーであるLiDAR(ライダー)やミリ波レーダーが多くの新型車に搭載され始めており、2023年には中国国内でLiDAR搭載乗用車が前年の5倍以上に急増した。NIOやXpeng、Li Autoといった新興EVメーカーは先陣を切ってこれら先端技術を実車に投入し、海外の高級ブランド各社も中国市場に向けてLiDAR搭載モデルを導入し始めている。

このような動向は政府の自動運転推進政策にも支えられており、技術競争が激しい中国の自動運転センサー市場の拡大は日系企業にとっても新たなビジネスチャンスを生み出し得るものである。詳しくは関連調査記事自動運転センサーで詳細を解説しているので、併せてご覧いただきたい。
参考:【最新調査】中国自動運転センサー市場動向を徹底解説!LiDAR・ミリ波レーダー技術と日系企業のビジネスチャンス
EV車市場の急成長と競争の激化
中国では世界最大のEV市場が形成されており、政府の政策支援と相まって電気自動車の普及が急速に進んでいる。2022年には新車販売の4台に1台が新エネルギー車(NEV)となり、中国国内のEV販売台数は世界全体の約半数を占めたともいわれる。

国内ではBYDやNIO、Xpengなど中国勢に加え、Teslaなどの外資メーカーも競争を繰り広げており、技術開発と価格競争が熾烈だ。近年、中国メーカーは国内市場で培った競争力を武器に海外への輸出や市場展開にも乗り出しており、その動向は日本の自動車業界にとって大きな脅威であると同時に新たなビジネス機会ともなり得るものである。
参考:急成長するタイの電気自動車(EV)市場:中国EVが席巻する現状と今後の展望【進出の鍵を解説】
リチウムイオン電池と素材調達戦略
EV普及の鍵を握る車載用リチウムイオン電池においても、中国企業は世界をリードしている。中国の電池大手CATLは2023年時点で世界シェアの3割超を占め、別の中国メーカーであるBYDも約15%でそれに次ぐなど、上位を中国勢が独占する状況だ。
中国の電池産業が台頭した背景には、EVの航続距離や充電時間といった課題を克服する高性能電池の開発競争や、巨額投資による大規模生産でコストを劇的に引き下げたことがある。政府による産業育成策も追い風となり、中国メーカーは性能と価格の両面で優位性を確立している。日本企業にとって、電池分野での競争力確保や中国企業との協業戦略は今後のEVビジネスを左右する重要テーマである。リチウムイオン電池に関する最新動向は別記事で詳細に解説している。
参考:中国リチウムイオン電池市場の現状と将来展望~海外進出の鍵を握る最新規制とCATLの動向~
ASEANにおけるEVの台頭
東南アジアでは、これまで自動車市場で日系メーカーが圧倒的シェアを誇ってきたが、EV分野では中国メーカーが急速に存在感を高めている。例えばタイでは、2024年時点で新規登録EVの8割以上が中国メーカー製となっており、BYDやSAICなど複数の中国勢がEV市場シェア上位を独占している。
中国メーカーが席巻するタイのEV市場の現状も、その一例と言える。背景には、中国とASEANの自由貿易協定による関税ゼロの恩恵や、タイ政府によるEV普及策に中国メーカー各社が巧みに適応したことがある。中国メーカー各社はタイをはじめとする地域で現地生産にも乗り出し、価格競争力と豊富な車種ラインナップを武器にASEAN市場での攻勢を強めている。
こうした動きにより、長年ASEAN市場を支えてきた日系メーカーの優位性は揺らぎつつある。特に、ベトナムやシンガポールにおける中国EVメーカーの台頭は象徴的であり、現地市場でのポジショニングを再検討する必要がある。各国のEV政策や現地プレイヤーの戦略については、以下の記事も参考になるだろう。
参考:ベトナム発EVメーカー「VinFast」の挑戦:グローバル市場への躍進と課題
参考:シンガポールのEV船開発:「ピクシス・マリタイム社」の挑戦
終わりに|日系企業が中国市場で検討すべきこと
- 先端技術トレンドへの対応:中国で進む自動運転やEVなどの先端技術動向を注視し、自社製品・サービスに積極的に取り入れることで、市場での競争力維持・向上を図る必要がある。新興の競合に後れを取らないためにも、スピーディな技術対応が求められる。
- EVシフトへの戦略転換:中国市場ではガソリン車からEVへの移行が急速に進んでいるため、日本企業も現地でのEVモデル投入や関連ビジネスへの参入を加速させ、市場ニーズの変化に即応した戦略転換を図るべきである。
- 車載電池サプライチェーンの確保:EVの基幹部品であるリチウムイオン電池分野では中国企業が圧倒的な地位を占めている。日本企業も現地パートナーとの協業や技術開発を通じて安定した電池調達と競争力強化を目指す必要がある。

- 中国企業のグローバル台頭への備え:中国系メーカーはASEANを含む海外市場でも攻勢を強めている。その動向を脅威と機会の双方の観点から分析し、価格競争力や現地適応力など中国勢の強みに対抗する戦略を練ることが重要である。
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