【2025年最新】中国製人型ロボット市場の動向と海外展開戦略

はじめに
中国では2024年が「人型ロボット元年」と呼ばれ、春節連歓晩会など主要メディアで二足歩行ロボットの演出が取り上げられた。産業界も活発で、自動車メーカーのXpeng(小鵬汽車)は自社工場に人型ロボットを導入して稼働させたことを報告している。

さらに米国ではテスラが自動運転車の開発技術を応用して人型ロボット「Optimus」を進化させており、世界的な技術競争が一層激化している。こうした海外潮流と同期し、中国国内でも膨大な投資と政府支援の下でロボット開発が急加速している状況だ。
投資・政策が後押しする中国人型ロボット市場
中国の人型ロボット関連スタートアップには巨額の資金が集まっている。報道によれば2024年1~10月の世界の人型ロボット関連資金調達69件のうち56件が中国企業であり、スタートアップ「Agibot」は1年で5回の増資を行い評価額は70億ドル超のユニコーンになった。加えて中国政府は工業和信息化部を中心に「人形機器人創新発展指導意見」を発表し、北京・上海などに人型ロボットのイノベーションセンターを相次いで設立するなど政策面からも手厚く支援している。
背景には中国国内の賃金上昇や人口減少による労働力不足があり、自動車工場をはじめ製造業の自動化が国家的課題と位置づけられている。こうした資金・政策の追い風と企業ニーズの高まりが、中国でのロボット実用化の環境を急速に整えつつある。
技術革新と低コスト化の両立
中国では、AIや先端センサーを活用した人型ロボット開発が加速し、技術革新と低価格化が同時に進んでいる。例えば、AI大規模言語モデルや機械学習、コンピュータビジョン技術の急速な発展により、ロボットは従来の単なる制御を超えて環境認識や自律推論が可能になっている。また、UBTECHやUnitree Roboticsといった企業は高性能アクチュエーターや多様なセンサー技術を強化し、31自由度を持つUnitree H2のように優れた動作バランスを実現するなど、機能を高めている。一方で、中国企業は国内サプライチェーンの強みを生かし、重要部品の国産化や設計効率化でコスト削減にも取り組んでいる。
- AI・推論技術: DeepSeek社の大規模言語モデル(LLM)を応用し、UBTECHは独自の群知能制御ソフト「BrainNet」と組み合わせて複数ロボットの協調推論を実現している。これにより、人型ロボットは人間同様の推論能力を獲得し、他のロボットと協調しながら複雑な作業をこなせるようになる。
- 高度センサー・アクチュエーター: Agibotの「Genie G2」は高性能アクチュエーターと多様なセンサー、AIコンピューティングプラットフォームを統合しており、産業用途での精密作業を可能にする。Unitree H2は31自由度の構造で優れたバランス制御を実現しており、ダンスや武術動作を滑らかにこなせるようになっている。
- 低価格化: Unitreeの量産型人型ロボット「G1」は9万9000元(約200万円)と、従来機に比べ約1/10の価格に低減された。深圳のスタートアップEngine AIが開発した「SA01」はさらに低価格の3万8500元(約77万円)で販売を開始し、市場の参入ハードルを大幅に下げた。
- 国産部品戦略: 中国企業はセンサーやアクチュエーターなどの主要部品を自主開発・国産化することで、国外高性能部品への依存を減らしコスト低減を図っている。センサーや力覚系デバイスを改良しつつ高信頼性を確保し、複数機能を統合する部品設計で部品点数を減らし、組立工程の効率化も進んでいる。
- サプライチェーン統合: 中国は減速機やセンサーを含む部品から最終組立まで国内に完全な供給網を構築しており、部品調達と生産の迅速な連携でアップグレードサイクルを短縮し、製造コストを低減している。こうした構造的優位により、より安価なロボットの量産が可能になっている。
- 家庭向け低価格化: 北京のスタートアップNoetixが発表した家庭用ヒューマノイド「Bumi」は9988元(約1.4万円)というスマートフォン並みの価格を実現しており、教育・家庭市場への普及を狙っている。このほか、UnitreeのR1は先代G1に比べ6割程度の価格(約3万9999元)に抑えており、コスト低減の潮流は中国全土で急速に広がっている
DeepSeek社の大規模言語モデル(LLM)を応用し、UBTECHは独自の群知能制御ソフト「BrainNet」と組み合わせて複数ロボットの協調推論を実現している。これにより、人型ロボットは人間同様の推論能力を獲得し、他のロボットと協調しながら複雑な作業をこなせるようになる。
中国企業の先進事例と採用動向
中国の企業は産業用から家庭用、教育分野まで多様な人型ロボットを開発・導入している。UBTECH Robotics(優必選科技)は産業向け人型ロボット「Walker S1」をEV工場に導入し、複数台のロボットが5Gスマート工場で協調作業を行う群知能(Swarm Intelligence)訓練を開始した。同社は教育研究用にも「Tiangong Walker」を発表し、各種教育・研究機関での導入が進んでいる。Unitree Roboticsも最新機「H2」を公開し動作性能の向上を追求するなど、開発競争は激化している。
- 製造業での導入: 優必選科技のWalker S1はEVブランド極氪(ZEEKR)の組立工場に配置され、最終組立や検査などの複雑作業を複数ロボットで分担・協調している。UBTECHは上海や武漢などに「群知能訓練センター」を設け、大規模な実地訓練で製造現場への導入を加速させている。
- 医療・介護分野: 成都の高技術企業Bufalo Robotics(布法羅機器人科技)が開発した外骨格ロボットは、中国の四川大学華西病院など複数の病院でリハビリ支援に活用されている。中国初の自律タスク計画・推論システムを持つヒューマノイドも発表されるなど、医療介護現場への応用に向けた動きが進んでいる。
- 教育・家庭向け: Noetixの「Bumi」は子ども向けのダンスや対話機能を備え、家庭や学校での教育用途を狙っている。さらに、魔法原子(Unitree Roboticsの四足ロボット部門)は第137回広州交易会にスマート教育分野向けロボットを展示し、開会早々に工業製造・電子家電・スマート教育など複数分野のパートナーと契約を交わす成功を収めた。これにより、教育現場や家庭でのロボット活用需要が顕在化している。
- 企業間競争:中国企業の競争環境: 中国では理想汽車(Li Auto)や極氪(ZEEKR)など自動車・EVメーカーが次々と人型ロボット開発に参入しており、スタートアップも含めて研究開発競争が激化している。政府も労働力不足対策として人型ロボットを支援しており、農村の介護支援や地方病院での医療支援など地域特有のニーズに合わせた製品開発が進む環境が整備されている。
- アジア市場・グローバル展開: 中国企業は海外市場への進出意欲も高く、広州交易会では優必選科技や雲深処科技(CloudMinds)などのブースに多くの海外バイヤーが訪れて商談を行っている。このように、需要が国内外で拡大する中、中国発の人型ロボットはアジア市場を含む世界展開を視野に入れつつある。
ロボットマラソン大会での技術披露・社会実証
2025年4月には北京市近郊で世界初の人型ロボット・ハーフマラソン大会が開催され、中国の開発チームによる21台のロボットが一般ランナーとともに走ったが、制限時間4時間以内に完走できたのはわずか4台にとどまった。この大会は中国政府がAIやロボティクス分野の開発力を国内外に示す目的で企画されており、企業は数週間前からロボットの耐久試験を重ねて準備を進めた。中国政府関係者は本競技を「エンジニアリングチームが必要なレーシングカー競技に似ている」と表現し、一般観客も「非常によく安定して走り、ロボットとAIの進化を目の当たりにしている」と称賛するなど、技術に対する期待感を示していた。

大会では北京市の政府系研究機関である北京人形機器人創新中心が特別開発したロボット「天工Ultra」が優勝し、2時間40分42秒のタイムで完走した。天工Ultraは長い脚と人間の走法を模倣する高度な走行アルゴリズムを備えており、これにより長距離走行での優れた安定性と制御性能を発揮した。北京人形機器人創新中心のCTOはUltraについて「西側企業のロボットではUltraの競技成績に並ぶものはない」と自信を示しており、中国企業が世界最高水準のヒューマノイド技術を追求していることを印象づけた。こうしたマラソン大会は競技としての要素だけでなく、企業が開発成果を社会に示す実証実験の場ともなり、中国の人型ロボット技術を広くアピールする機会となっている。
終わりに
中国製人型ロボットは政府と民間投資の後押しで急速に進化しており、部品の国産化とAI技術の高度化によりコストパフォーマンスが飛躍的に向上している。とはいえ、人型ロボットの実用化はまだ発展途上であり、現場ニーズや法規制への適合性を慎重に検証する必要がある。
海外市場展開では、事前の市場調査で現地環境・顧客ニーズ・競合状況を綿密に把握し、製品仕様や販売戦略をローカライズすることが成功の鍵となる。Archesでは、国内外の企業事例・消費者の嗜好やニーズ、ライフスタイルなどを把握するための市場調査、競合他社の分析、効果的な事業戦略の立案(文化や傾向を鑑みたマーケティング戦略を含む)、現地における各種規制に関する情報提供、現地パートナーの紹介等、幅広く日本企業の海外進出を支援しています。
情報参照先:
- レバテックLAB|活発化する人型ロボットの開発競争。中国ロボット業界の2024年を振り返る|(アクセス日:2025年10月27日)
- 36Kr Japan|人型ロボット、とうとう70万円台に突入。中国「Engine AI」が驚きの低価格で提供|(アクセス日:2025年10月27日)
- 新浪财经|深圳机器人进厂“拧螺丝”,凭借DeepSeek实现集体智能|(アクセス日:2025年10月27日)
- 未来図(Beyond X 最前線)|中国で進む人型ロボットの進化と低価格化の未来|(アクセス日:2025年10月27日)
- Bloomberg|人型ロボット初参加のハーフマラソン、完走わずか4体-北京で開催|(アクセス日:2025年10月27日)
- Reuters|人型ロボット、北京でマラソン「初出場」 人間と並走も完敗|(アクセス日:2025年10月27日)
- SciencePortal China|【25-24】世界人型ロボット運動会、熱戦に幕 来年も8月に開催|(アクセス日:2025年10月27日)


