【海外成功事例】ナフサショックが変える食品包装の未来:海外発・代替包装素材スタートアップが示す脱プラの新モデル

はじめに:国内食品メーカーの包装変更が示す「ナフサショック」の構造
2026年5月、日本の食品業界で注目を集める動きがあった。大手食品メーカーが人気スナック菓子など複数品目のパッケージを、多色刷りから白黒2色の簡易包装へと切り替えたのである。この背景にあるのは、単なる「エコ活動」ではなく、深刻な資源制約——いわゆる「ナフサショック」である。

中東情勢の悪化による原油供給不安を背景に、プラスチックや印刷インキの主原料である「ナフサ」の価格が高騰。2026年3月に1キロリットルあたり10万円だった国産ナフサ価格は、わずか2カ月で12万5000円超へと急騰した。その結果、ポリエチレンなどのプラスチック素材が大幅に値上げされ、食品包装資材業界の7割超が値上げを余儀なくされる事態となった。
この出来事は、石油由来のプラスチックに過度に依存した現代のサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにした。しかし視点を海外に向けると、すでにこの「脱石油依存」の課題に対して、革新的な代替素材でビジネスモデルを構築しているスタートアップが存在する。本稿では、海藻や菌糸体(キノコ)といった天然素材を活用し、環境課題の解決と事業成長を両立させている海外の注目企業「Evoware」「Notpla」「Ecovative」の戦略を分析し、日本企業が学ぶべきポイントを考察する。
Evoware(インドネシア):海藻過剰供給と脱プラを同時解決するソーシャルビジネス
インドネシア発のスタートアップ「Evoware(エボウェア)」は、2016年の創業以来、海藻由来の食べられる包装材で注目を集めている。同社はForbes 30 Under 30に選出されたデビッド・クリスチャン氏らによって設立され、現在までに310万枚以上のプラスチック袋やサシェ(小袋)を代替してきた実績を持つ。
社会課題を逆手にとった原料調達戦略
Evowareのビジネスモデルの秀逸さは、インドネシアが抱える「海藻の過剰供給」という社会課題を原料調達の強みに転換した点にある。インドネシアは中国に次ぐ世界第2位の海藻生産国であるが、小規模な海藻農家が生産する海藻の多くが買い手を見つけられず、違法投棄されるという問題を抱えていた。

Evowareはこの余剰海藻を適正価格で買い取り、パッケージの原料として活用している。これにより、海藻農家の収入向上と貧困解決に貢献しつつ、自社は安定した原料調達網を構築することに成功した。環境負荷の低減だけでなく、地域経済のエコシステムを組み込んだこの調達戦略は、ESG投資家からも高く評価されている。
「食べられる」という究極のゼロウェイスト製品
同社の主力製品は、調味料の小袋(サシェ)や食品用ラップ、カップなどである。最大の特徴は、海藻由来であるため「そのまま食べられる」ことだ。例えば、インスタントラーメンの粉末スープをEvowareのサシェで包めば、お湯を注ぐだけで袋ごと溶けて食べることができる。
また、食べずに廃棄した場合でも、土壌の微生物によって自然分解される(ホームコンポスト可能)ため、マイクロプラスチックの原因にならない。製品には海藻特有の旨みや香りがわずかに残る場合があるが、同社はこれを「自然由来の証」としてポジティブなブランド価値に転換している。
価格と気候の壁を越えるグローバル展開
一方で、プラスチックと比較して原価が2〜3倍高いことや、12度以下の低温環境で硬化・ひび割れを起こしやすいという技術的課題も抱えている。しかしEvowareは、環境意識の高い欧米ブランドや、日本の正規代理店(ModernR合同会社)と連携することで、これらの課題克服に取り組んでいる。
特に日本では、冷蔵保存が不要な青果物の包装や、名刺への応用(土に還る名刺)など、現在の製品特性でも活用できるニッチ市場を開拓している。技術的完成を待つのではなく、市場と対話しながら用途を広げていくアジャイルな展開戦略が、同社の成長を支えている。
Notpla(英国):£35Mを調達し世界を席巻する海藻パッケージの覇者
英国ロンドンを拠点とする「Notpla(ノットプラ)」は、海藻由来パッケージの分野で現在最も勢いのある企業である。2014年の創業以来、革新的な製品開発と強力なパートナーシップ戦略により、2024年9月には£20M(約38億円)のシリーズA拡張ラウンド資金調達を完了。累計調達額は£35M(約66億円)に達している。
規制の波に乗る「プラスチックフリー」認証
Notplaの最大の強みは、欧州の厳格な環境規制を追い風にしている点である。EUは2030年までに使い捨てプラスチックを全面禁止する方針を打ち出しており、各企業は対応に追われている。
そんな中、Notplaの海藻パッケージは2023年、オランダ政府による9カ月間の検証を経て、EUの単一使用プラスチック指令(SUPD)において「プラスチックフリー素材」として初めて認定された。従来のバイオプラスチック(PLAなど)の多くが特定の産業用堆肥化施設でしか分解されないのに対し、Notplaの製品は化学修飾を行わず、自然環境下で4〜6週間で完全に生分解される点が評価されたのである。この「公的機関によるお墨付き」が、同社の製品導入を加速させる最大のドライバーとなっている。
スポーツ・エンタメ業界との戦略的パートナーシップ
Notplaは、消費者への認知度を一気に高めるため、大規模イベントやスポーツ業界との提携戦略を展開している。その象徴が、主力製品である「Ooho(オーホ)」と呼ばれる液体用カプセルである。
ロンドンマラソンでは、ランナー向けのスポーツドリンクをOohoに封入して提供し、数万個のプラスチックカップ削減に成功した。さらに、英国内の50以上のサッカースタジアム(アストン・ビラやトッテナム・ホットスパーなど)や、O2アリーナといった巨大コンサート会場でも同社の食品容器が採用されている。スポーツやエンタメという「大量消費・大量廃棄」が起きやすい現場でソリューションを提供することで、環境意識の高い若年層を中心にブランド認知を爆発的に広げている。
1億個のプラスチック代替を目指す米国進出
2024年の資金調達を経て、Notplaは米国市場への本格進出を開始した。カリフォルニア州などでプラスチック袋の禁止法案が可決されるなど、米国でも規制強化の波が押し寄せているためだ。同社は2026年までに1億個の使い捨てプラスチックを自社製品に置き換えるという野心的な目標を掲げている。
ケータリング大手のCompass Groupや、食品デリバリーのJust Eat Takeaway.comといったグローバル企業との連携を深め、単なる「環境に良い代替品」から「グローバルサプライチェーンの標準インフラ」へと進化を遂げようとしている。
Ecovative(米国):キノコ菌糸体で発泡スチロールと食肉を代替するディープテック
海藻と並んで注目される代替素材が「菌糸体(マイセリウム)」である。米国ニューヨーク州に本社を置く「Ecovative(エコベイティブ)」は、キノコの根に相当する菌糸体を活用し、包装材から代替肉、さらには人工レザーまで生み出すディープテック企業である。
発泡スチロール代替から始まった技術革新
2007年に設立されたEcovativeは、農業廃棄物(おがくずや麻の茎など)に菌糸体を植え付け、型の中で成長させることで発泡スチロールの代替となる「Mushroom® Packaging」を開発した。この包装材は7日間で製造でき、使用後は45日で土に還る。
DellやSteelcaseといった大手企業が緩衝材として採用し、その性能と環境負荷の低さが実証された。特筆すべきは、同社が現在この包装技術の特許をオープンソース化し、世界中の企業がライセンスなしで利用できるようにしている点である。自社で製造を抱え込むのではなく、技術を開放することで「菌糸体素材」という市場そのものを拡大させるプラットフォーム戦略をとっている。
代替肉市場での「直接マージンプラス」達成
包装材で培った菌糸体培養技術(AirMycelium™)を応用し、Ecovativeは現在「食」の領域で大きな成功を収めている。同社が展開する代替ベーコンブランド「MyForest Foods(MyBacon)」は、大豆などの植物性タンパク質を加工するのではなく、菌糸体そのものをスライスしてベーコンの食感を再現している。
2025年には前年比4倍の成長を記録し、全米3,000店舗以上のスーパーマーケット(Whole Foodsなど)に導入された。さらに、製造コストを前年比65%削減し、代替肉スタートアップとしては異例の「直接マージンプラス(製造原価ベースでの黒字化)」を達成している。
既存のキノコ農場を活用するファブライト戦略
Ecovativeのスケール戦略の鍵は「既存インフラの活用」にある。同社は巨大な自社工場をゼロから建設するのではなく、既存の商業用キノコ農場と提携し、空いている栽培室でAirMycelium™を生産する「コントラクト・マニュファクチャリング(委託製造)」モデルを採用している。
これにより、設備投資(CAPEX)を極限まで抑えながら、急速な生産拡大を実現した。2024年には2つのパートナー農場が稼働を開始し、週産6,000ポンド以上の菌糸体を安定生産している。ディープテックでありながら、農業の既存アセットをハックするこのファブライト戦略は、製造業スタートアップの理想的なスケールモデルと言える。
終わりに
今回の国内食品メーカーによる包装変更に端を発したナフサショックは、日本企業に対して「プラスチック依存リスク」という重い課題を突きつけた。しかし、Evoware、Notpla、Ecovativeの成功事例は、この制約が新たなビジネスチャンスであることを示している。
彼らに共通しているのは、以下の3点である。第一に未利用資源の活用であり、海藻の過剰供給や農業廃棄物など、既存のサプライチェーンで価値を生まなかったものを主原料に据えている。第二に規制と認証のハックであり、EUのプラスチックフリー認証など、公的なルール形成にいち早く適応し、それをマーケティングの武器にしている。第三に柔軟なパートナーシップであり、自社単独でのスケールにこだわらず、スポーツ業界との連携や既存農場の活用、さらには特許のオープンソース化を通じて、外部リソースを巧みに巻き込んでいる。

日本企業が今後、国内外で持続可能なパッケージ戦略を展開するにあたっては、単なるコスト削減やリサイクル率の向上にとどまらず、こうした海外スタートアップの「素材イノベーション×エコシステム構築」の視点を取り入れることが不可欠である。
Archesでは、こうした視点に基づき、国内外の企業成功事例の調査・分析をはじめ、環境技術・サステナビリティ領域における業界動向の整理、現地調査を含めた実践的な市場調査・コンサルティングを通じて、日系企業の海外展開や新規事業創出を総合的に支援しています。海外市場への進出や調査をご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
情報参照先:
- Evoware Official Website. “RethinkPlastic with Evoware”(アクセス日:2026年7月3日)
- EQUALLY BEAUTIFUL. “食べられる海藻パッケージは未来を変えられるのか。インドネシアと日本から始まる挑戦”. (アクセス日:2026年7月3日)
- Green Queen. “Seaweed Packaging: Notpla Closes £20M Series A Extension to Fuel US Expansion” (アクセス日:2026年7月3日)
- Ecovative Official Website. “We grow better materials” (2026年7月3日)


