【化粧品業界の最新動向】東南アジア化粧品市場の成長トレンドと日本企業の成功ポイントとは?

はじめに:東南アジア化粧品市場の魅力と成長背景
東南アジアの化粧品市場は、日本の化粧品メーカーにとって大きなチャンスである。ASEAN地域全体で見ると、2020年に約254億米ドル規模だった美容・パーソナルケア市場が年平均5%以上の成長を続け、2024年には340億米ドルを超えると予測されている。背景には、若年人口が多く中間層が拡大する「人口ボーナス」、堅調な経済成長、都市化の進展がある。さらに消費者の美容意識向上とデジタル化も市場拡大を後押ししている。スマートフォン普及とSNS浸透によって新たな美容トレンドが瞬時に共有され、Eコマースでの購買も急増している。こうした力強い成長により、東南アジアは世界で最も成長著しい美容市場の一つとなっており、グローバルブランドからローカル新興ブランドまで参入が相次いでいる。

また、東南アジアは多様な文化と6億人以上の人口を抱える巨大市場である。所得水準の向上に伴い、美容関連支出も増加傾向にある。例えばインドネシアやベトナムなどではGDP成長率が年6%前後と高く、可処分所得の増加が化粧品購買を後押ししている。結果として、D2CコスメブランドやOEMメーカーまでもが進出先として注目する市場になっている。東南アジア全体が日本企業にとって無視できない魅力を持つ一方、国ごとに市場の特徴が大きく異なる点にも留意が必要だ。
東南アジア主要国の市場特性と消費者トレンド
東南アジア各国は文化・宗教的背景や嗜好が異なり、化粧品に求める価値観や流行も国ごとに大きく異なる。そのため、一括りに「東南アジア」と見て戦略を立てるのではなく、国別の特性を正確に把握することが重要である。以下では主要市場であるインドネシア、タイ、ベトナムの特徴的なトレンドを概観する。
インドネシア:ハラール市場とSNS時代の消費動向
インドネシアは人口約2.7億人を擁する東南アジア最大の市場であり、世界最大のイスラム教国でもある。ハラール認証の取得は化粧品ビジネスの基本条件で、2026年には輸入化粧品にもハラール認証が義務化される予定だ。このため、日本企業にとってもハラール対応は避けて通れない課題となっている。消費者はスキンケア・メイクアップ問わず「ハラール対応」や「天然由来成分」を重視し、美白やアンチエイジング効果のある商品への人気が高い。
さらに、インドネシアではSNSやインフルエンサーの影響力が極めて大きい。特にInstagramやTikTok上のレビュー・紹介がそのまま購買につながる傾向があり、デジタルマーケティング抜きに消費者の心を掴むことは難しい。若年層を中心にオンラインショッピングへの抵抗が低く、コマースプラットフォーム(例:TikTok ShopやShopee)を通じたコスメ購入も一般化している。このように、インドネシア市場では宗教的要件への対応とデジタル活用が鍵となる。
タイ:高い美容意識と外資系ブランドへの親和性
タイはASEAN内でも比較的所得水準が高く、美容・スキンケアに対する関心が伝統的に強い成熟市場である。首都バンコクを中心とした都市部では欧米ブランドや日本ブランドに対するロイヤルティも高く、最新トレンドを積極的に取り入れる消費者が多い。美白ケアやUV対策、敏感肌向け製品などが定番の人気カテゴリであり、男性も含め「肌を白く保ちたい」というニーズが根強い。タイは仏教国でハラール認証義務はないものの、隣国マレーシアやインドネシアへの輸出展開を視野に入れ、ハラール対応商品を展開する企業も見られる。
タイ消費者は製品のパッケージデザインや使用感、香りに対して敏感で、「使う喜び」や「見た目の良さ」に価値を置く傾向がある。たとえば高級感のあるボトルデザインや心地よい香り付けは、ブランド選好に影響しやすいポイントだ。日本企業にとっては、高品質・安全性という強みに加え、こうした感性面でのローカライズも求められる市場と言える。
ベトナム:若年層の台頭とナチュラル志向のブーム
ベトナムは近年著しい経済発展を遂げ、特にZ世代(若者層)による美容消費の伸びが顕著な新興市場である。韓国コスメや日本製化粧品に対する信頼が厚く、外資ブランドへの受容度が高い点も特徴だ。
同時に、自国発の新興ブランドも台頭しており、ヴィーガンコスメやオーガニックコスメといった差別化コンセプトが注目を集めている。例えばヴィーガン処方のローカルブランドがSNSで話題になるなど、ナチュラル志向・クリーンビューティーの潮流が若年層を中心に広がっている。
参考:【ベトナム市場攻略】ヴィーガンコスメ「Cocoon」成功事例に学ぶ海外展開
スキンケアではニキビ対策など機能性コスメの需要が高まる一方、成分の安全性や肌への優しさに敏感な消費者も増えている。またベトナムではEC利用率の高さも見逃せない。TikTok ShopやShopeeなどのオンラインチャネルを駆使してコスメを購入するユーザーが多く、店舗に行かずとも情報収集から購入まで完結するデジタルネイティブ世代が市場を牽引している。総じてベトナム市場では「高機能×ナチュラル」という一見相反するニーズを満たしつつ、デジタルを通じたスピーディな情報発信が重要となっている。
日系化粧品メーカーが直面する課題
東南アジアでビジネスを拡大する上で、日系企業はいくつかの固有の課題にも直面する。第一に挙げられるのが、競合環境の激化である。すでに多くの国で韓国・中国系のブランドが先行しており、市場競争は年々厳しさを増している。例えばインドネシアでは輸入化粧品の50%以上を中国製品が占め、韓国製品も20%に達するとの報告がある。彼ら競合は現地生産によって低価格を武器に市場を開拓し、さらにK-POPやドラマと連動した巧みなプロモーション戦略で若者の心を掴んでいる。加えて広告宣伝に投下する予算規模も日本企業を大きく上回るケースが多く、価格競争力やマーケティング投資の面で日系ブランドは不利になりがちだ。

第二に、各国固有の規制や文化への対応も大きなハードルである。前述のハラール認証取得義務化(インドネシア)に代表されるように、参入国ごとにクリアすべき法規制が存在する。例えばインドネシア当局は「製品名は成分を直接想起させるものにすべき」との方針を強めており、日本では問題ないブランド名が現地では使用禁止となるケースも出てきている。さらに成分規制や表示ルール、現地言語での表記義務など、国によって異なるルールに対応する必要がある。
第三に、スピード感とトレンド適応力の課題も指摘できる。韓国企業が最新トレンドを迅速に商品化する体制を整えているのに対し、日系企業は開発〜発売までに時間を要し市場の変化に乗り遅れる懸念がある。流行のサイクルが短い東南アジア市場では、タイムリーにニーズに応える商品投入と柔軟なマーケティングが求められる。こうした俊敏性や現地対応力を高めることが、日本企業にとって競争力強化のポイントとなる。
東南アジア市場攻略のポイント
以上を踏まえ、東南アジアにおける化粧品ビジネスで成功するためには、次のような戦略ポイントを押さえる必要がある。
現地ニーズに合わせた商品開発・ローカライズ
国や地域ごとに異なる消費者の嗜好や文化的背景に対応し、製品仕様を調整する。例えばタイ向けには美白効果を訴求し、イスラム圏向けにはハラール対応やアルコールフリー処方を徹底する。OEM化粧品のアジア進出成功戦略の記事でも指摘されているように、パッケージデザインやブランド名も含め現地の文脈に即した見直しが不可欠である。
競合にない独自の価値提案
韓国・中国勢との競争に勝つには、価格以外の軸で差別化を図る必要がある。日系ブランドは「高品質・安全性」「日本発の信頼感」といった強みを訴求しつつ、現地未発売の革新的な成分や日本ならではの美容ノウハウを盛り込むなど、独自性のあるコンセプトを打ち出すことが重要だ。東南アジア男性美容市場の攻略法でも、現地の新規領域を切り拓くには差別化戦略が不可欠であると指摘している。
デジタルマーケティングの積極活用
東南アジアではSNS・動画プラットフォームを活用した情報発信が欠かせない。InstagramやTikTokでインフルエンサーと組んだプロモーションやライブコマース施策など、デジタルチャネルを最大限に活用しブランド認知を拡大する。
若年層ほどオンライン上の口コミやレビューに敏感なため、現地の人気クリエイターとのコラボやUGC(ユーザー生成コンテンツ)の拡散施策が効果的である。ASEANコスメ市場動向まとめでも、SNS活用が成功の鍵として紹介されている。
現地パートナーシップとロジスティクス最適化
規模の大きい市場では、現地ディストリビューターや小売チェーンとの連携が流通網構築の鍵となる。加えて、需要が見込めるなら現地生産拠点の設置も検討すべきだ。実際、韓国系OEM大手はインドネシアやタイに工場を構え製造の地産地消化を進めている。現地生産によりコスト競争力と供給スピードを高めれば、市場の変化にも機敏に対応できる。
入念な市場調査と専門知見の活用
最後に強調したいのは、進出前の徹底的な市場リサーチの重要性である。各国の市場規模・成長率、競合状況、流通構造をデスクリサーチや現地調査で把握し、どの国・セグメントから優先参入すべきか戦略を練ることが成功への第一歩となる。さらに現地有識者へのヒアリングやエキスパートネットワークの活用も有益だ。文化の微妙な違いや最新トレンドは机上の統計だけでは掴みにくいため、専門家や現地パートナーから得られる生の知見で意思決定の精度を高めるべきである。
おわりに:海外市場調査・事業開発のご相談はこちらから
東南アジアの化粧品市場は高い成長余力を秘めており、日本企業にとって新規事業のブルーオーシャンと言える存在だ。ただし成功を収めるには、市場ごとの特性に合わせた緻密な戦略立案と実行が不可欠である。自社の強みを生かしつつ現地のニーズにフィットする商品・マーケティングを展開できれば、競争激化の中でも十分に戦えるだろう。逆に準備不足で臨めば、たとえ優れた商品力があっても埋もれてしまう可能性が高い。
今まさに東南アジア展開を検討中の企業は、まず現地市場の最新動向を把握することから始めてほしい。OEM化粧品のアジア進出成功戦略や東南アジア男性美容市場の攻略法といった記事も、新規参入のヒントになるだろう。ASEANコスメ市場動向まとめも併せて参考にしていただきたい。
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